高齢化社会は自動運転を期待【シン自動車性能論】    

日本の自動車研究の泰斗として数々の研究成果を挙げてこられた小口泰平先生が、21世紀の自動車性能論を書き下ろす。名付けて『シン自動車性能論』である。2025年最初の講義、第9回のテーマは「高齢化社会は自動運転を期待<急拡大>」である。
TEXT:小口泰平(OGUCHI Yasuhei)

いよいよ平均寿命100歳の時代へ

歳を重ねると、ヒトは安全な運転制御がオックウになり、とりわけ微分制御の判断がお粗末に、そして時には間違えたりもします。運転を行なう場合、ドライバーは反応時間を持ちながら、比例動作「例えばレーンに沿って走る比例の応答」、やや難しい積分動作「例えば横風を受けたときの進路のずれを修正する応答」、そして最も難しい微分動作「例えば他車の動きを予測し、将来の状態を見越しての応答」などを行なっています。

遥か昔の思い出、小学生時代に恩師から平均寿命は50歳、長くても55歳であるから、「確と学んで世に尽くす仕事で頑張れ」と𠮟咤激励、「頑張ろう」などと気安く納得。ところで、運転は複雑で高次の演算を行なう制御行動、決して無理をせず、年なりにゆったり確と歩みたいものです。

加齢は、ともすると素早くかつ最適なタイミングのコントロールを鈍らせます。若かりし頃は、この高度な制御をほとんど意識することなく行なっています。運転を数式で表しますと、高次の微分・積分の制御式になり、本気になって取り組まなければ理解できないような複雑なものになります。ヒトの制御は、よくぞここまでと思うほど、仰天そのものです。このヒトの制御能力の凄さには感動しますが、一方で80歳を超えると加齢による激しい能力の低下も生じます。これこそがヒトなればこその致し方なき宿命なのです。 

ヒトの情報処理 視覚情報は、感覚中枢でとらえたものを判断するとき、心の働きや錯視などにより、モノの見え方が変わることがあります。その時の感情や意思などにより影響を受けることがあります。ヒトそれぞれですが、心の働きがあればこそ人なのですから。

しかも、ドライバーはモノやコトを主として視覚でとらえ、加速度感や加加速度感(ジャークいわゆるショック)などの支援を感じ取りながらながら運転しています。また、感覚中枢で判断して操作を行なうとき、感情や意思、欲求などによって影響を受けます。視覚による情報処理は、緊急時など普段と異なる場合は、思いもよらない判断や行動に陥ることがあります。近頃、高齢者の事故が折々報道されていますが、その事故のツラサには心が痛みます。しかしこれがヒトなのです。

そこで登場するのが自動運転と相成るのですが、現状の複雑な道路環境では、AIなどを駆使してもコトは収まりませんでしょう。そこで可能な限りのチャレンジとして、走行経路を限定しての運用となります。日本における取組は、運行テストを含めて今日10数地域・地点に及んでいます。

完全自動化のレベル4(ドライバーなし)の実用化の例としては、福井県永平寺町。そして自動運転バス実証実験のレベル2(ドライバー同乗)は、例えば北海道岩見沢市、茨城県常陸太田市、茨城県境、東京臨海副都心、福岡市、茨城県日立市、羽田空港、さいたま市、島根県飯南町、町、横浜市、愛知県日進市などです。益々のご発展を祈念する次第です。

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著者プロフィール

小口 泰平 近影

小口 泰平

小口泰平
1937年長野県生まれ。工学博士。芝浦工業大学名誉学長、日本自動車殿堂名誉会長。1959年芝浦工…