クルマの原点、それは車輪です。足回りの重要な役割を果たしているタイヤは、クルマの運動とその力学を支えているのです。材質・構造・耐久性・デザイン・コストなど,それらの進化は著しいものがあります。走行性能の向上、耐久性や乗り心地の改善、空気圧低下を常時確認する「先進タイヤ内圧警報システム」、さらにはパンクしても時速80km/h程度までならばしばらくは走行できるランフラットタイヤ、空気を入れないエアレスタイヤの開発も行なわれています。
タイヤの発明は、西アジアのチグリス・ユーフラテス両河に発達したメソポタミア文明によるもの。その昔、伐採した大木や狩りの獲物を運ぶとき、狩猟民族は引きずるか、担いでいたと思われます。車輪の発明はヒト・モノの移動しやすさとその速度を確保し、まさに文明の旗手として機能し発展してきました。転がる車輪によって移動する力学的有利さはケタ違いです。図2は、クルマが曲がるときのタイヤ力学です。ハンドルを切ると、サイドスリップ角が生じ、接地面によってコーナリングフォースが発生、接地中心とこのコーナリングフォースの作用点との距離、ニューマチックトレールによりタイヤを戻そうとするモーメント、すなわちセルフアライニングトルクが発生し、これがハンドルの重さ、操舵力を生じさせます。ドライバーは、切り角と操舵力そして車体の向きを読み取って適切な進路操作を行なっています。
アメリカ映画の「ベンハー」の戦車、そしてクルマから乳母車など多様です。なお、空気入りタイヤの発明は、1888年スコットランドのJ.B.ダンロップ(獣医師)が子息の自転車用として開発したことに始まるといわれ、やがて、ダンロップ社を設立しています。路面上を転がる車輪、この自動車用タイヤの力学は、自動車性能の基本であり、重要かつ複雑です。弾性体であるゴムの物性理論とその過渡応答、繊細なトレッドパターン、路面状態などにより微妙に変わる動力学の世界です。
緊急時の進路変更や障害物回避をはじめ、安全・安心そして乗り心地を確保するためにも、バルーンタイヤは重要な位置づけにあり、滑り易い雪道や雨の日などのドライブでは、今日のタイヤの高性能化に感謝の念でいっぱいになります。エンジンやボディーデザインなどに比べ、タイヤは地味な存在ですが、爽やかな走りそして安全の確保など、モビリティの基本・原点なのです。