スズキ・ジムニーの真髄を知りたいならスノードライビングへGO!

写真協力:APIO
相変わらず高い人気を誇るスズキ・ジムニー/ジムニーシエラだが、一般ユーザーがそのポテンシャルをフルに発揮するような場面(=悪路)に出会う機会は滅多にない。せっかくのオフロード性能を宝の持ち腐れにしたくないなら、「雪道」を走ってみてはいかがだろうか。雪道は小さな巨人の潜在能力を、もっとも気軽に楽しめるステージなのだ。

ジムニーの機能を知って雪道を完全攻略すべし!

世界でも類い稀な悪路走破性を持ったクルマといえば、スズキ「ジムニー」シリーズだ。初代から脈々と受け継いだラダーフレーム構造とリジッドアクスル式サスペンションといった堅牢な構造に加えて、最新の電子デバイスを備えた現行型のジムニーとジムニーシエラは、珠玉のモデルといっていいだろう。

だがせっかくジムニーとシエラを買ったのに、その良さや機能をほとんど体感していないという人が多いのではないだろうか。それもそのはず、日本に道路インフラが十分に整備されており、ハードなオフロードはそれこそ山中にでも入らないとない。日常生活で使っている範疇では、トランスファーレバーを4WDにもしたことがないという人もいるのではないか。

そんなユーザーでも、ジムニーの性能を体感できるのが「スノー」だ。2025シーズンは日本海側を中心に大雪になることが多いという予報が出ており、まさにジムニーの実力を知る機会が訪れるかもしれないのである。

雪用タイヤや除雪スコップなど必要な装備はお忘れなく

降雪地帯に行く場合、いくらジムニーと言っても雪用の準備は必須だ。雪用タイヤ、滑り止め、牽引ロープ、ジャンプコード、防水手袋、長靴(雪靴)、懐中電灯、そして除雪スコップは必携のアイテム。これ以外にも、道路上で長時間の足止めになる事態に備えて、調理のいらない食料や防寒対策品を持っていきたい。

写真協力:APIO

路面が濡れ始めたら四輪駆動に切り替えるタイミング

さて、よく聞かれるのが、ジムニーのようなパートタイム4WDの場合は、いつ四輪駆動にシフトすればいいのか…ということだ。答えは、「路面が濡れ始めた時」である。降雪地帯に向かって走っていて、雨が降ったよう路面が濡れていたら、その先は積雪している可能性が高いということ。もちろん、道に雪が積もりだしてからでもいいのだが、“転ばぬ先の杖”である。

ちなみにジムニー(シエラも同様)の場合、100km/h以下の直進状態であれば2H↔4Hを走行中でもシフトすることができる。高速走行中であれば、速度を100km/h以下に落として、ステアリング操作に注意しながら、トランスファーバーを1ノッチ手前に引こう。割と力がいるが、そのまま4Lに入ってしまうことはないので、思い切り引いても大丈夫だ。

走っていると、前輪のフリーハブがロックされる“カチッ”という音がするので、それが4WDのハイレンジになった合図だと思えばいい。これで直進安定性と悪路走破性が、FRの時よりも格段に向上する。FRに戻したい場合は、レバーを1ノッチ前に動かせばOK。この時も、フリーハブが外れる音でわかる。メーター内の4WDインジケーターが点灯、消灯していても、フリーハブがロックかフリーになっていない場合があるので、あくまでも音で判断した方がいいだろう。

ちなみに、乾燥路面のワインディングなどでは4WD状態で走行するのはNG。センターデフを持たないパートタイム4WDは、摩擦係数の高い路面を走行中に前後左右輪の回転差が出てしまうとドライブシャフトが捻れる動き、いわゆる「タイトコーナーブレーキ(タイトロック)」現象が発生する。これによって車両が横転したり、駆動系のトラブルを起こす恐れがあるので、十分に注意したい。

安全運転をサポートするESPだが作動条件には注意

現行型のジムニーには、世界的な安全基準をクリアするために「ESP(エレクトリック・スタビリティ・プログラム」という電子バイスが採用されている。これは「ABS」「ブレーキアシスト」「トラクションコントロール」「スタビリティコントロール(横滑り防止機能)」を統括するシステムだ。日常では、これにお世話になる、もしくはなっているという実感は少ないと思うが、雪道ではいろいろ活用できるはずだ。

例えば、圧雪路とアイスバーンが混ざった路面、かつコーナーなどでは、4WDと言えども急激なハンドル操作をする挙動が不安定になる。最悪の場合、四輪スリップを起こしてコーナーの外側に飛び出してしまうかもしれない。そんな状態になっていることを車両のコンピュータが検知した場合、エンジン出力と制動力を自動で制御してくれるのがスタビリティコントロールだ。

雪道に慣れていないドライバーにはありがたい装備だが、以下の場合は正常に作動しないことがあるので注意しよう。

●タイヤの空気圧が違う
●タイヤ4本で銘柄やサイズが異なる
●リフトアップしている
●エンジンのスープアップをしている(マフラー交換も)
●メーカー純正以外のLSDを装着している

写真協力:APIO

雪道の登り坂で活用したいヒルホールドコントロール

さて降雪地帯を走っていると、こんなシーンに出くわすことがある。信号の停止位置が坂道の途中にあって、しかも路面は凍結。発進する時、ブレーキ、アクセル、クラッチ各ペダルの操作を同時にしなければならず、しかもブレーキを離した瞬間に後方に空走するのが怖い…。

そんな時に活用したいのが、「ヒルホールドコントロール」。ブレーキペダルを離す前に少し強めに踏むと、最大約2秒間はペダルから足を離しても停止状態を保ってくれる。その間に落ち着いて、アクセル&クラッチ操作ができて、後方に空走するリスクを減らすことができる。

ちなみに長く凍結した坂道を登る時は、このESPが邪魔になる場合がある。せっかく勢いをつけて助走を付けたのに、勝手にエンジン出力が落ちてしまい、途中で登れなくなってしまうということが時折ある。これはESPがタイヤのスリップなどを検知するために起こる現象なのだが、その場合は迷わず「4L」にシフトしよう。

4Lにすると、2Hや4Hで作動していた出力、制動力の制御がOFF状態になり、ブレーキLSDトラクションコントロールの制御のみONになる。しかも4Lの場合はギア比が低くなるため、より大きな駆動力で坂道をラクラク登ることができるはずだ。仮に途中でスリップして止まってしまった場合でも、バックギアに入れれば通常よりも低速で後退するので、怖い思いは少ないはずだ。

ちなみに4Lの1速はギア比が相当低いので、5速MTの場合は2速で発進をした方が運転しやすい。ただし、深雪は別なので、それは後述しよう。加えて、4Lにシフトする場合は完全停止状態で、MT、ATともにトランスミッションはニュートラルポジションに入れる必要がある。そして、トランスファーレバーのノブを押し込んで、ゆっくりと一番手前まで引く。

ちなみに4L→4Hに戻す場合、駆動系に大きな負荷がかかった場合はトランスファーのギアが外れにくい時がある。そんな時は、少しだけ後退すると簡単に外れる。

登り坂より怖い下り坂で心強いヒルディセントコントロール

凍結路の坂道と言えば、登りより下りの方が恐ろしいのは周知の通りだ。ジムニーはエンジンが前にあるので、下りでは重心が一気に前に来る。そのため、フロントタイヤのグリップとトラクションが限界を超えてしまうと、途端にカーリングのように車体が滑って回り出してしまうのである。

写真協力:APIO

もちろんチェーンを装着していればそのリスクは少ないが、スタッドレスタイヤでそういったシーンに出くわすことが多々ある。そんな時に迷わず使いたいのが、「ヒルディセントコントロール」だ。インパネの中にあるスイッチを押してONにすると、制動力を自動制御して、加速を抑えてくれる。基本的にはアクセル、ブレーキは操作しないでもいいので、後はステアリング操作にだけ注力すればいい。

もっともやっかいな深雪は4L+ブレーキLSDで前進しよう

雪道ドライブでもっともやっかいなのが、深雪だ。一晩でドサッと雪が降った翌日は、駐車スペースから発進するのも大変だし、圧雪されていない道を走るのも一苦労。また、雪が吹き溜まった場所で転回する時なども、深雪にクルマを入れることになる。

そもそもスタッドレスタイヤは、深雪では十分なトラクション性能を発揮することができない。本来ならば、前輪にタイヤチェーンを巻くべきステージなのだ。

もし、朝起きたらジムニーが深雪の中だった…という場合は、まず車体周囲と車体下の雪をスコップで取り除いてやるのが肝心だ。ある程度雪をどかした上で、トランスファーを4Lにシフトして1速で前進しよう。これで強力な駆動力とブレーキLSDトラクションコントロールの恩恵で、大抵は前進できるはずだ。

もしスタックした…という場合は、まずは動けるところまで後退し、タイヤが空転や停止をしたら、すかさず前進。また空転や停止したら後退。これを何度も繰り返すと、徐々に前進後退できる範囲が広がっていき、やがて脱出できる。これは「もみ出し」というテクニックで、覚えておくと泥や砂地などでも役に立つ。

なお、短時間に前進後退を繰り返すと、前輪軸のフリーハブのロックが解除状態になって、実はFRになっていたということがある。少し前進すればロック状態になるのだが、それができない場合(FR状態のまま)もあることも知っておきたい。

当分除雪作業が入らなさそうだと思ったら、迷わずタイヤチェーンを付けた方がいい。タイヤチェーンを付けたら、ESPをOFFにするのを忘れずに(一部樹脂製チェーンは除く)。この場合、ABSがOFFになるので、減速時はポンピングブレーキを心がけよう。

他車を牽引するような場面でも4Lが活躍する

日常ではまず使わない4Lだが、雪道では何かと役に立つ。例えば、深雪などに突っ込んで往生している他車を牽引する場合も、4Lにする必要がある。軽自動車のジムニーが10tトラックを雪道で牽引している動画が数年前に話題となったが、これも4Lが付いているからだ。

最後に、誤解している人が多いABSについて触れたい。急の付く操作は雪道ではNGということで、スリップしてクルマが減速しないという状況の時に、ブレーキを緩めてしまう人がいる。この場合は、むしろABSを作動させるため、思い切りブレーキペダルを踏むのが鉄則。そうすることでABSが作動してタイヤがグリップを取り戻し、最短距離で停止できる可能性が高くなる。

雪道はジムニーの潜在能力を、もっとも気軽に楽しめるステージだ。もちろん危険は潜んでいるので注意は必要だが、あなたが知らなかったジムニーの素晴らしい性能を存分に体感できるのではないだろうか。

写真協力:APIO

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…