三菱デリカD:5【モデル末期は“買い”か“待ち”か?】懐の深い走りが魅力。だが18年もの歴史は随所に見られる

近々の販売終了またはフルモデルチェンジが確実視されているモデル末期の車種が、いま“買い”か“待ち”かを検証する当企画。今回は三菱のオールラウンドミニバン「デリカD:5」標準仕様の最上級グレード「P」をベースとする特別仕様車「シャモニー」の7人乗りに、高速道路と市街地を中心としつつワインディングも交えて総計約300km試乗した。

REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、三菱自動車工業

唯一無二のオールラウンドミニバンは根強い人気!

2007年1月発売当初のデリカD:5

もう5年。それどころか2025年2月で丸6年が経とうとしている。
これは、デリカD:5がデビューしてから、ではない。フェイスリフトを実施してからの年月だ。

「デリカの五代目」を意味する「D:5」のサブネームを得た現行デリカがデビューしたのは2007年1月31日。最後にフルモデルチェンジしてから間もなく丸18年という、モデルライフが長期化傾向にある昨今の新型車においても異例の長寿モデルとなった。

しかしながらその販売は今なお堅調。自販連(日本自動車販売協会連合会)が毎月発表している「乗用車ブランド通称名別順位」でも、直近1年間の結果は以下の通りとなっている(順位は軽自動車含まず)。

2023年12月:1105台・36位
2024年 1月:1303台・33位
2024年 2月:1552台・30位
2024年 3月:2384台・27位
2024年 4月:1045台・30位
2024年 5月:1200台・33位
2024年 6月:1667台・31位
2024年 7月:1495台・35位
2024年 8月:1439台・34位
2024年 9月:2097台・34位
2024年10月:1986台・31位
2024年11月:2022台・31位

平均月間登録台数:1608台

この数字は、実はデリカD:5よりも遥かに設計が新しい「エクリプスクロス」や「アウトランダーPHEV」を大きく上回るもので、三菱の登録車中トップ。

全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が発表している「軽四輪車通称名別新車販売台数」は「デリカミニ」と「eK」シリーズを合算(eK X EV除く)し公表しているため詳細は不明だが、日本市場向け三菱車全体でも「デリカミニ」に次ぐ量販モデルとみて間違いないだろう。

だから、海外展開がしにくいCセグメントの1BOXミニバンであっても、容易にモデル廃止にはできない。さりとてグローバルで見れば、頻繁にフルモデルチェンジできるほどの稼ぎ頭でもない。今や日本市場向け国産車の中では現行四代目トヨタ・ハイエースに次ぐ長寿モデルとなったのも、こうした事情から容易に想像できる。

ジャパンモビリティショー2023で公開された三菱D:Xコンセプト

だが、ジャパンモビリティショー2023で、次期デリカD:5を示唆する「D:Xコンセプト」が公開された。

曰く「未来の『デリカ』をイメージした、冒険心を呼び覚ます三菱自動車らしい電動クロスオーバーMPVのコンセプトカー」。また現行デリカD:5の特徴的なボディの環状骨格構造「リブボーンフレーム」をさらに強化しつつ、走る・曲がる・止まるを統合制御する「S-AWC」を電動4WDシステムで実現するPHEVとされている。

三菱D:Xコンセプトの「リブボーンフレーム」

このD:Xコンセプト、内外装のデザインはコンセプトカーの域を出ないものの、掲げられているメカニズムは極めて現実的。現行アウトランダーPHEVの電動パワートレインに加え、プラットフォームも同じくルノー日産三菱アライアンスの「CMF-C/D」を用いることが、否が応でも想像できる。

つまり、デリカD:5の世代交代はそう遠くないと考えるのが自然だ。
ではここで、いよいよモデル末期となったであろう現行デリカD:5を、今のうちに買うべきか、あるいはフルモデルチェンジを待つべきか、検証したいと思う。

【三菱デリカD:5シャモニー7人乗り】全長×全幅×全高:4800×1795×1875mm ホイールベース:2850mm
トレッド前/後:1540/1535mm
アプローチアングル:21° ランプブレークオーバーアングル:16.5° ディパーチャーアングル:23°

エクステリアは「ダイナミックシールド」を採用する、2019年2月に発売されたフェイスリフト後のモデルよりも、デビュー当初のデザインの方が、シンプルでスッキリしておりSUVテイストも色濃く感じられるため、より好ましく感じられる。

だが、今回テストした特別仕様車「シャモニー」は、フロントグリル、ポジションランプガーニッシュ、フォグランプベゼル、ドアミラーカバー、アウタードアハンドル、18インチアルミホイールをシルバーから黒、前後のスキッドプレートをシルバーからグレーに変更。

さらにグリーンのドアミラーカバーやエンジンフードエンブレム、カモフラージュ柄のボディサイドデカールをセットにしたディーラーオプション「シャモニーコンプリートパッケージ」を装着することで、「ダイナミックシールド」の厳めしさを少なからず緩和していた。

インテリアはシートの設計の古さが…。

水平基調の運転席まわりは車両感覚が掴みやすく視界も良好。「シャモニー」はカタログモデルではエアロ仕様「アーバンギア」用のバール杢調パネルを装着する。

室内に目を移してみると、フェイスリフト後に質感が劇的に向上したインパネとドアトリムが好印象。デザイン自体はやや古典的ではあるものの、価格がアップしながら質感はダウンする新型車が多い昨今にあっては、むしろ貴重なものにすら感じられるようになった。

ただしウィンカー・ワイパーレバーやドアミラースイッチは非常に華奢な操作感で、逆に剛性感溢れるパドルシフトともども、旧世代の三菱車に共通するちぐはぐな仕上がりは何ら改善されていない。

シートは各列とも明確に小ぶり。185mmの最低地上高とトレードオフで前後ドアのステップ高は450mmと高いため、アシストグリップと地上高220mmの助手席側電動サイドステップを積極的に活用したい。

しかしシートに腰掛けてみると、1・2・3列目とも明確に小ぶりで、サイドサポートも乏しいため、フィット感・ホールド性とも心許ない。2列目のキャプテンシートも見た目以上に“特等席”感はないものの、8人乗りのベンチシートと同様に、座面前側を1段階跳ね上げて、ヒール段差を335mmから380mm(筆者実測)へ高められるため、脚の長い人ならば跳ね上げた方が快適に過ごせるだろう。

3列目の跳ね上げが困難を極めるうえ、リヤサスの張り出しが大きいため、荷室の使い勝手は他社の最新モデルに対し不利。
奥行きは3列目使用時180mm、3列目格納時1185mm、2・3列目格納時1600mm、幅は860〜1235mm、高さは1145mm(いずれも筆者実測、2・3列目使用時は前後スライドを最後尾にセットした状態)

そして電動バックドアを開けてシートアレンジを試みると、前述のシートサイズ以上に設計の古さが如実に感じられてしまう。

まず3列目は前後スライドが340mmと大きく、積む荷物の量や大きさに応じて荷室の広さを調整できるものの、左右に跳ね上げるには指定の位置に前後スライドを合わせる必要があるうえ、操作力が非常に重い。成人男性でも車外から操作すれば腰を痛める可能性が高いため、荷室に乗り込んでから操作するのが安全だろう。

一方で2列目は7人乗りのキャプテンシート、8人乗りのベンチシートとも座面の跳ね上げ機能が備わっているため、最前部までスライドさせて荷室の奥行きを稼ぐことができる。ただし、リヤマルチリンクサスペンションの張り出しが左右方向に大きいため、幅の広い長尺物を積載するのは苦手だ。

走り自体はすでに熟成の域に?

モデルライフの途中でガソリン車が廃止されデリカD:5唯一の搭載エンジンとなった4N14型2.2L直4ディーゼルターボ)

では肝心の走りはどうか。2t弱の車重と2m弱の全高に対し、145psと380Nmの4N14型2.2L直4ディーゼルターボエンジンと8速ATの組み合わせは、街乗りであれば過不足なく加速できるレベル。アクセルレスポンスは穏やかではあるもののリニアで、とりわけマニュアルモード使用時は速度の調整が容易だ。

しかし通常のATモードでは2000rpm付近でシフトアップをためらう傾向にあり、この状態が長く続くとエンジンの振動やノイズが煩わしく感じられてしまう。

そして高速道路や上りのワインディングなど高負荷時では、パワー不足が如実に表れるのもまた事実。今回の試乗は常に1名乗車で荷物も撮影機材のみだったが、これがフル乗車または荷物満載の状態ならばより一層加速に苦労するのは想像に難くない。

2019年2月のフェイスリフトで実施された前後サスペンションの主な改良策

ハンドリングや乗り心地もパワートレインと同様にゆったりした味付けで、ステアリングレスポンスはスローながらもリニア。またロール自体は許容するもののそのスピードは非常に抑えられており、路面の凹凸に対してもふんわりと、だが不快な揺れを残すことなく追従するため、安定性と安心感は抜群に高い。

撮影車両は225/55R18 98H M+Sのヨコハマ・ジオランダーG055Eを装着。

この印象はワインディングを走行しても全く変わらず。アンダーステア傾向が明確で、絶対的な速度も背の低いスポーツカーやセダンより遥かに低いものの、何ら恐怖感を抱かずに走り続けることができる。

それは、車重の重さと重心の高さをドライバーへ意図的に自覚させるものでもあり、一般的な“スポーティ”の概念とは正反対だが、意のままに操れるという意味ではこれもまた“スポーティ”だと思わずにはいられなかった。

デリカD:5用「e-Assist」の主な実装機能。センサーはフロントガラス上部の単眼カメラとレーザーレーダー、グリル内のミリ波レーダー、リヤバンパー両端の準ミリ波レーダー(「P」グレードに標準装備)で構成されている。

さらに高速道路では、全高2m弱の1BOXミニバンとしては望外なほど、横風にあおられにくいことにも驚かされる。

残念ながらデリカD:5のADAS(先進運転支援システム)「e-Assist」は最新世代のものではなく、高速道路で加減速とともに操舵も支援する「MI-PILOT」は備わっていない。だがそうしたレーントレースアシストの助けがなくとも問題ないと思わせるほどの高い直進性が、デリカ1D:5にはあった。

なお、全車速追従式ACC(アダプティブクルーズコントロール)は、車間距離を多めに取る傾向にあり、また停止時はカックンブレーキになりやすいのが気になるものの概ね快適。帰省などで長時間の渋滞に見舞われても、同乗者を酔わせることなく過ごすことができそうだ。

三菱デリカD:5シャモニー7人乗り。

さて、そろそろ結論に入ろう。「モデル末期の三菱デリカD:5は“買い”か“待ち”か?」、その答えは「コストを重視するなら“買い”、快適性や使い勝手を重視するなら“待ち”」だ。

走り自体はすでに熟成の域にあり、かつ背の高いクルマの御し方を心得ている三菱の膨大なノウハウが体感できるレベルで備わっている。しかしながらシートの設計の古さだけは如何ともしがたい。

だがフルモデルチェンジされれば、例えディーゼル車が継続設定されたとしても、価格が全体的にアップするのは避けられない。さらにPHEV化されれば、より一層価格は上がり、EV走行の頻度が低ければ燃料代も上がり、自動車重量税も上がる可能性が高い。その代わり、シートの設計は全面的に変更され、それ以外の面でも快適性や使い勝手は少なからず改善されることだろう。

車両スペック

■三菱デリカD:5シャモニー7人乗り(4WD)
全長×全幅×全高:4800×1795×1875mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1970kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
総排気量:2267cc
最高出力:107kW(145ps)/3500rpm
最大トルク:380Nm/2000rpm
トランスミッション:8速AT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:225/55R18 98H M+S
乗車定員:7名
WLTCモード燃費:12.6km/L
市街地モード燃費:10.1km/L
郊外モード燃費:12.6km/L
高速道路モード燃費:14.1km/L
車両価格:465万6300円

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…