初代ソアラの電子デバイスクローズアップ第3弾・未来的で原始的な!? マイクロプロセスドオートマチックエアコンディショナー【時代の名車探訪 No.1-7 トヨタソアラ・GZ10/MZ11型・1981年(昭和56)年・電子デバイス解説編3・オートエアコン】

新年2日め。
今年2025年も残すところ、今日を含めてあとわずか364日となったが、みなさんいかがお過ごしだろうか。
「時代の名車探訪」、単なる平日の気分でさらに初代ソアラの話を続けていく。
その第7回めは、「マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー」の解説だ。
意外なメカニズムも出てくるぞ。

TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)
PHOTO:中野幸次(NAKANO Kouji)/山口尚志/モーターファン・アーカイブ

時代の名車探訪・ソアラの第7回目。このところ先進デバイスをクローズアップしているが、その3回目は「オートエアコン」を選んだ。

いまは軽自動車でさえ生意気にオートエアコンが搭載されているが、かつてはおおかた高級車にクーラーもしくはエアコンが限定的に載せられたにすぎない。多くは、販社で取り付けるオプションだった。それもやっとの思いでお金を払って……。

そのような時代に表れた初代ソアラは、全5機種のうち、上位3機種にマイコン制御のエアコンが標準装備。さすが80年代のプレステージ2ドア!

今回はそのマイコン制御エアコン・・・マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーを採り上げる。

いまは軽自動車にすらオートエアコンがつくのがあたりまえだ。写真は現行eKワゴンのオートエアコン。
80年代末あたりまでは、多くの乗用車はエアコンが販社オプションだったものよ。写真はR30スカイラインのマニュアルエアコン。

解説・マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー

「マイクロ……」とか「オートマチック……」の名称とその長さに誰もが「お、何だ何だ」と興味を抱いたろうが、それ以前に、多くの人が目にした途端、まずは指を触れずにはいられなかったのはこのコントロールパネルだろう。

ソアラのマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー。

完全なフラットな面に各種マークや文字を表記し、指先で触れることで機能させるコントロールパネルはおそらく日本初、いや、世界初かも知れない・・・そんなことはどうでもよろしい。
落ち着いて考えてみたら、運転中なのに触れたい部分に目をやらなければ狙いを定められない、いまどきのスマートフォンよろしくタッチ式のパネルとまったく同じなのだが、この際それを忘れることにしてしまおうかという見映えをしている。

各スイッチの役割

メーカーでは「ソフトタッチ式スイッチ」と呼んでいるが、この時代のこの姿は未来感の演出にひと役もふた役も買っている。

各スイッチの配列・名称は次のとおりだ。

マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーのスイッチ。

「AUTO」と「OFF」のセットは「デフロスター」と入れ替えたほうがいいのではないかとか、温度調整の上下のボタンの両方が赤いといった雑な点はあるものの、とにかくこのような姿をしている。

各スイッチの役割は次のとおりだ。

なお、各文字やマークを囲む四角い枠線が作動状態を示すランプになっている。すなわち押してONになると四角い枠が点灯し、再押しOFFで消灯という具合だ。

1.設定温度表示

設定温度表示

設定温度を18.0~32.0℃まで、0.5℃刻みで表示する。勘違いしてはいけないのは、いまのクルマも同じだが、表示される温度は「目標とする室内の温度」で、現在の室内温度でもなければ吹き出してくる風の温度でもないことだ。

仮に「25.0℃」に設定したとしたら、その部屋を25℃にするための温度の風が出る。

いまの部屋の温度が25℃より低ければ25℃超の風を出すし、高ければ25℃未満の風を出すという具合だ。

2.設定温度切り替えスイッチ

設定温度切り替えスイッチ

「▲(UP)」または「▼(DOWN)」を押すことで設定温度を変更する。

一度押すと0.5℃上下し、押し続けると0.5秒ごとに0.5℃刻みで数字が上がり下がりする。0.5℃ずつ変わるごとに「ピッ」音が鳴る。

3.AUTOスイッチ

AUTOスイッチ

1.ランプ点灯時は、内外気切り換え、コンプレッサーON/OFF、ブロアファン変速、デフロスター(くもり止め)を除く吹出口切り換え、風温などを自動でコントロールする。

2.このとき他のボタンを押すとランプが消えて押したボタンの機能のみ制御が固定され、他の制御が自動コントロールされる。再度「AUTO」を押せば前記機能のAUTO制御が再開する。

4.OFFスイッチ

OFFスイッチ

1.夜間照明時以外は点灯しない。

2.「OFF」を押すとブロア、コンプレッサーが停止し、ずべての作動ランプが消灯する。

3.この状態でも内外気切り替え、吹出口の手動切り換えは可能だが、「ピッ」音はならない。

4.復帰は「AUTO」「LO」「HI」のいずれか押しで行なう。「LO」「HI」のときはブロアは固定される。

5.内外気切り替えスイッチ

内外気切り替えスイッチ

1.ランプの点灯している側が現在の状態を示す。

2.「内気」または「外気」を押すと、吸込口を内気、または外気に固定する。また、AUTO状態のときに両方のランプが点灯している場合は内外気混合状態を示す。

6.吹出口切り替えスイッチ

吹出口切り替えスイッチ

1.ランプの点灯しているマークが現在の状態を示す。

2.各スイッチを押すと各々の吹出口モードに固定される。ただしデフロスタースイッチを押した場合は吸込口は外気に、コンプレッサーはONに固定される。

7.ブロアスイッチ

ブロアスイッチ

1.「LO」「HI」のスイッチを押すとブロアがLO、HIに固定される。

2.マニュアル固定時のみランプが点灯する。

8.コンプレッサーON/OFFスイッチ

コンプレッサーON/OFFスイッチ

1.ランプの点灯している側が現在の状態を示す。

2.「ECONOMY」(コンプレッサーOFF)または「A/C」(コンプレッサーON)を押せばコンプレッサーOFF、またはONに固定される。

スイッチ照明は、昼間は各スイッチの中で作動中にあるスイッチ枠が点灯する。ただし「OFF」は作動状態(といっても停止のためのスイッチだが)にあっても点灯しない。
また、「LO」「HI」スイッチはマニュアル固定時のみ点灯する。
夜間は作動状態を示すランプ枠が、ライトスイッチに連動して、昼間より一段低い照度で点灯する。また、作動状態にないスイッチは照度をさらに一段落ちた照度ですべて点灯する。

操作と仕様

操作では、エンジンを始動させるといきなり自動でAUTO作動するのはおもしろい。

ふつうは乗員任意でAUTOなりファンONなりして作動させるのに、このマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーではAUTO作動そのものが自動で始まるわけだ。
バッテリー接続後、初めてイグにションONした場合は25.0℃に設定され、その後は前に設定した温度を記憶する。

表示は設定温度のみで、風量を示す表示はないといえばないし、あるといえばある。

風量は、AUTO時は無段階に行われる。いっぽう、手動操作は前記したとおり「LO」「HI」で行なうわけだが、この「LO」「HI」のチョンチョン押しでいくつかの風量のうちのひとつを選ぶのかと思ったらそうではなく、何と「LO」なら「LO」押し、「HI」なら「HI」押し、いずれも1回こっきりの作動・・・何と手動ファン調整は「LO」と「HI」の2段だけなのだ。そのときは選んだ側のスイッチ枠が点灯するわけで、これが風量表示が「ないといえばないし、あるといえばある」としたゆえん。

もっとも、冷房時と暖房時とではAUTOにしろ手動にしろ、ブロアの送風能力は異なり、冷房時のAUTOは210~410 m3/hを無段階に、LOは172 m3/h、HIが410 m3/h。暖房時は140~282 m3/h、LOが112 m3/h、HIが282 m3/hだ。

その他詳細は表を参照のこと。

マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーの仕様。

なお、このソアラもいまのクルマも、空調といえば「25.0℃」が中心になるが、これは四季を通じ、25℃が人間にとっていちばん快適とされる温度であるからであることを覚えておくといい。

制御方式

いまのクルマのエアコンもユーザーが気づかないうち裏で細かな制御を行なっているが、1981年時のソアラは現代車並みのコントロールを行なっている。

マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーが行なう制御は次のとおりだ。

1.省燃費制御

不要なときにはクーラーコンプレッサーを自動でOFFにする。

省燃費制御

2.吸込口制御

「外気導入」「内外気混合」「内気循環」を自動で切り替える。

吸込口制御

3.風量無段階切り換え制御

AUTO時のブロア変速を無段階で行なう。

風量無段階切り換え制御

4.吹出口制御

「VENT(上半身送風)」「BI-LEVEL(頭寒足熱)」「HEAT(足元送風暖房)」を自動で切り替える。

吹出口制御

5.クーラーコンプレッサーOFF時補正制御

クーラーコンプレッサーをOFFにしても室温制御が可能なときは室温を一定に保つ制御を行なう。

6.ブロアOFF時コントロール

ブロアOFF時でも風温、吹出口を制御する。

7.日射補正制御

専用日射センサーにより、補正制御を行なう。

日射補正

8.ウォームアップ時風量制御

エンジン水温によってブロアのON/OFF、および風量を制御する。

ウォームアップ時風量制御

制御の元となる情報を受け取る内外センサーの配置は次の図のとおり。

室内の温度を測るセンサーは、いまのクルマならたいてい計器盤のドライバー膝付近が常套だが、このソアラではそのセンサーをセンターコンソールの後端に配して室内の代表温度を測ることにしたところがうまいし、室内気を吸うためのモーターをわざわざ併設しているのも手が込んでいる。

内外に配される、マイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー関連のユニットおよびセンサー類。
室内側の関連レイアウト。室内気を測るセンサーはコンソール後端にあり、内気を吸うためのモーターも一体になっている。

大発見・先進性の裏に秘められた原始的メカニズム

今回、このソアラのマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー解説をするにあたり、いろいろと調べたなかでぶったまげたことがある。

機械的な機構の場合、操作パネルのレバーやダイヤルと、吹出口の通路切り換え板や温度調整のための仕切り板(エアミックスドア)がリンクやワイヤーで接続されている。このリンクやワイヤーによって吹出口や内外気切り替えが行なわれるわけだ。

これがボタン操作式になると、リンクやワイヤーを、ひとの手によるダイヤルの代わりにサーボモーターが動かす。この場合、モーターがアクチュエーター(「アクチュエーター」とは、「動かすもの」くらいの意味に捉えればいい)となり、マニュアルエアコン(またはオートエアコンのマニュアル操作時)ならユーザーのボタン押しが引き金となってモーターが動き、オートエアコンならコントロールユニットがモーターに指令を送って快適空間になるように各部を動かすわけだ。

ところが! このソアラのマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーときたら、各部を動かすアクチュエーターは、何とエンジン負圧で行っていた。

いったん溜め込んだ負圧と分配されたダイヤフラムですべてを動かす・・・ここから先は言葉で説明するより図を見ていただくほうがわかりやすい。

バキューム回路図。吹出口選択やエアミックスドア・・・何を動かすにもエンジン負圧とダイヤフラムで動かしている。さすがにファンはモーターだ。
室内側のエアミックスドアを開閉するためのパワーサーボが助手席足元にある。

古いベンツのパワーウインドウは油圧でガラス昇降する構造だったのを思い出したが、それにしてもソアラのマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナー、先進的なのか原始的なのかよくわからないのが面白いというか、何というか……。

以上、ソアラのマイクロプロセスド・オートマチックエアコンディショナーの解説はここまでにしておこう。

次回のソアラ話は・・・なーににしましょうかねえ。

【撮影車スペック】

トヨタソアラ 2800 GT-EXTRA(MZ11型・1981(昭和56)年型・OD付4段フルオートマチック)

●全長×全幅×全高:4655×1695×1360mm ●ホイールベース:2660mm ●トレッド前/後:1440/1450mm ●最低地上高:165mm ●車両重量:1305kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.5m ●燃費:8.1km/L(10モード燃費)、15.5km/L(60km/h定地走行燃費) ●タイヤサイズ:195/70HR14ミシュラン ●エンジン:5M-GEU型・水冷直列6気筒DOHC ●総排気量:2759cc ●圧縮比:8.8 ●最高出力:170ps/5600rpm ●最大トルク:24.0kgm/4400rpm ●燃料供給装置:EFI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:61L(無鉛レギュラー) ●サスペンション 前/後:ストラット式コイルスプリング/セミトレーリングアーム式コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:293万8000円(当時・東京価格)

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