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国内では絶滅の危機!高級スポーツセダンとしての完成度は極めて高い
プリンス時代から数えて13代67年もの歴史を持つスカイラインは、良くも悪くも各時代の日産を象徴する存在だ。それは、すでに10年以上の長寿モデルとなっている、現行モデルの13代目V37型だけを見ても変わらない。
2013年11月に発表され、翌2014年2月に発売された国内仕様は、VQ35HR型3.5L V6 NA+パラレルハイブリッド仕様のみを設定。量産車世界初のステアバイワイヤ機構「ダイレクトアダプティブステアリング」(DAS)を全車に搭載したことも話題になった。
同年5月にはダイムラー製274930型2.0L直4ターボエンジン+7速AT搭載車を追加するが、2019年7月のビッグマイナーチェンジで廃止。代わりに304ps&400Nm仕様と、「400R」向け405ps&475Nm仕様の2種類からなるVR30DDTT型3.0L V6ツインターボエンジン+7速AT搭載モデルを設定している。
なおこの際には、高速道路でのハンズオフ走行を可能にする「プロパイロット2.0」がハイブリッド車に標準装備されたものの、2022年9月の仕様変更でこの「プロパイロット2.0」もハイブリッド車ともども廃止された。
2023年8月には、VR30DDTTの出力・トルクを420ps&550Nmに高めるなど車両全体をチューニングしたコンプリートモデル「ニスモ」を1000台限定の先着、さらにエンジンを手組みして精度を高めた「ニスモリミテッド」を100台限定の抽選で販売している。
このように、「技術の日産」の象徴であると同時に日産製スポーツモデルの象徴でもあるスカイラインは、現行モデル誕生以後の変遷を見ても、双方を象徴する存在として行ったり来たりの迷走を繰り返しているのがうかがえる。
2019年7月のビッグマイナーチェンジ後は販売増やユーザー層の若返りに一定程度成功するものの、2021年には次期モデルの開発中止が一部メディアで報じられ、その火消しに追われるほど、今やその存在は危うい。何よりスカイラインのみならず、セダンというカテゴリー自体が、SUVに取って代わられる形で大きく衰退した。日産の国内ラインアップを見ても、2024年12月時点でセダン系の車種はこのスカイラインのみである。
かくして、いつモデル廃止になってもおかしくない状況に置かれているスカイライン、そのホットバージョンである「400R」を、今回改めてチェックしたいと思う。
ブラウン本革と黒木目パネルが落ち着いた高級感を醸し出す
ビッグマイナーチェンジ直後は、ブラックのキルティング入り本革内装しか設定されていなかった「400R」だが、2020年9月の仕様向上では「400R」専用色として「スレートグレー」のボディカラーとホワイトの本革内装が追加。
2022年9月の仕様変更では専用ボディカラーが「スレートグレー」から「ミッドナイトパープル」に代わり、内装には有償オプションとして新たに「ブラウンインテリアパッケージ」が追加されており(ブラックとホワイトは継続設定)、徐々に「硬派なスポーツセダン」から「落ち着いた雰囲気の高級スポーツセダン」へと裾野を広げている。
今回テストした車両は、ミッドナイトパープルのボディカラーに「ブラウンインテリアパッケージ」を組み合わせ、さらにBOSE製オーディオやサンルーフなどを装着した、計655万5687円の仕様となっていたが、その値段に相応しいだけの質感を、内外装とも充分に備えている。
エクステリアに関しては、ビッグマイナーチェンジ前のインフィニティ仕様の方がより上質に感じられるものの、見る人の好みによってもその受け取り方は変わるだろう。
サイド部にキルティング加工が施された本革シートは、見た目こそ高級感があり落ち着いた雰囲気ながらクッションは硬めで、特に前席はサイドサポートも高いため、旋回時のホールド性に不足はない。
だが、2代目Y51型フーガのショート&ナロー版と言うべきパッケージングによる空間設計の粗さは如何ともしがたく、特に後席は上半身・下半身ともまっすぐに伸ばして座ることが難しい。
センタートンネルの張り出しが元来大きいうえ、左右席がフーガよりボディ中心側にずらされており、さらに身長174cm・座高90cmの筆者は頭頂部が天井に触れるため、上半身を前に屈めつつ下半身を左または右にねじる必要がある。首や腰を痛める可能性が高いため、できれば長時間は乗りたくないのが偽らざる本音だ。
荷室の使い勝手は良好で、後席を使用した状態でも510Lの容量があり凹凸も少ない。また後席背もたれにセンターアームレストスルーと6:4分割可倒機構も備わるため、幅が広く背も高い荷物を積むキャンプやマリンスポーツでない限り、荷物の置き場所に困ることは少ないだろう。
こと走りに関しては、「400R」に標準装備される、減衰力の可変幅が大きい電磁式比例ソレノイドダンパー「インテリジェントダイナミックサスペンション」(IDS)の絶大な効果を、まず感じずにはいられない。非装着グレードではランフラットタイヤの影響もあってか路面の凹凸を正直に拾い、常に強い突き上げを乗員に伝えてくるが、「400R」ではそれが劇的に軽減されるのだ。
エンジン、トランスミッション、ステアリング、サスペンションの協調制御を行うドライブモードを「ECO」や「NORMAL」で走行すると、街乗りでは極めて快適に過ごすことができる。ワインディングや高速道路では「SPORT」か「SPORT+」に設定すれば、減衰力が全体的に高められるうえ、DASがクイックかつ重めのセッティングとなり、安定感が格段に高まるため、走行状況に応じて積極的に使い分けるのがベストだろう。
そして「400R」用のVR30DDTT型3.0L V6ツインターボは、ターボらしい豊かなトルクと、NAのようなレスポンスと吹け上がり、甲高いサウンドを兼ね備えた、まさにターボとNAの良い所取りをしたような仕上がり。7速ATのギヤ比が特にローギヤ側で離れているため、高負荷時にはシフトアップ後に若干もたつくものの、それ以外の場面で不足を覚えることは皆無だった。初心者が乗り慣れないうちはむしろ持て余すのではないだろうか。
これほどまでに高いポテンシャルを街乗りや高速道路でものぞかせる、スカイライン400Rをワインディングに持ち込めば、楽しくないはずがない。路面の荒れたコーナーでも、凹凸をきれいにいなしつつ車体の揺れをしっかり抑えてくれるため、オンザレール感覚で旋回できる。VR30DDTTもまるで大排気量NAエンジンのような懐の深さがあり、タイトコーナーからの立ち上がりでも速度を取り戻すのは容易だ。
またフロント4ポット・リヤ2ポットのアルミ製対向ピストン&大径ブレーキは、その絶大な旋回・加速性能にも充分見合ったポテンシャルがあり、下りのワインディングでも制動力、コントロール性、耐フェード性とも申し分なし。FRならではのバランスの良い走りを、非常に高い次元で楽しむことができた。
ただしDASに関しては、路面からのキックバックやワンダリングを抑えるのに大きく貢献する一方、ステアリングインフォメーションが希薄かつ人工的なものに終始するのが気になる所。せめてDASのクラッチを任意で締結し、ステアリングとタイヤを物理的につなげられれば、言うことはないのだが…。
結論は、ズバリ“買い”だ!
では、「モデル末期の日産スカイライン400Rは“買い”か“待ち”か?」、その答えはズバリ“買い”だ。パッケージングや7速AT、DASなどに気になる点はあるものの、高級スポーツセダンとしての完成度は極めて高いと評価できる。
他の日産車を横目で見ると、現行RZ34型フェアレディZも405ps&475Nm仕様のVR30DDTTを搭載し、ATは9速に多段化。「バージョンST」と「ニスモ」には機械式LSDも装着されるが、価格は80万円以上高くなる。また敢えて言えば、2シーターの3ドアハッチバッククーペであり室内は狭く、「ニスモ」以外はシートの設計にも難がある。そして現行モデルのデビュー以来、いつ購入できるか判然としない状態が続いている。
そのうえ前述の通り、日産製セダンそのものが国内では絶滅の危機に瀕している。加えて昨今の危機的な経営状況を見るにつけ、次期型を期待するのは酷というものだろう。仮にフルモデルチェンジされたとしても、この「400R」ほどのコストパフォーマンスを維持できるかは、甚だ疑問だ。
フルモデルチェンジされずモデル廃止にもならなかったとしても、今後価格が上昇していくのは最早不可避。購入するなら早ければ早いほど良いのは間違いない。
車両スペック
■日産スカイライン400R(FR)
全長×全幅×全高:4810×1810×1440mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:1760kg
エンジン形式:V6気筒DOHCターボ
総排気量:2997cc
最高出力:298kW(405ps)/6400rpm
最大トルク:400Nm/1600-5200rpm
トランスミッション:7速AT
サスペンション形式 前/後:ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:245/40RF19 94W
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:10.0km/L
市街地モード燃費:6.5km/L
郊外モード燃費:10.6km/L
高速道路モード燃費:12.5km/L
車両価格:589万9300円