マツダは2021年1月28日、同社にとって初めての量産電気自動車、MX-30 EV MODELを発売した。2020年10月8日には2.0ℓ直噴ガソリンエンジンにマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた「e-SKYACTIV G」搭載モデルを発売している。
売れ行きはどうか、というと、データの期間がまちまちだが国内では
MX-30の2021年4月~9月の平均月間登録台数は268台
MX-30 EV Modelの2021年6月~11月の平均月間登録台数はわずか5台である。だからといって、マツダ初の量産EVが失敗だとは必ずしも言えない。重要市場である欧州では2021年1月~11月で1万614台売れている。月間平均台数は965台である。同時期、Honda-eが欧州では月間平均280台であることを考えれば、悪くない……というより、想定以上の数字をあげている、と言っていいだろう。
走り出す前にボンネットフードを開けて中を確認してみたところ、107kWの最高出力と270Nmの最大トルクを発生するモーターとインバーターは車両右側(写真では向かって左側)に偏って搭載されており、左側(写真では右側)はスペースがだいぶ余っている。こんなにスッカスカなエンジンルーム(いや、モータールームか)を見るのは久しぶりで、衝撃的ですらある。
内燃機関に比べて電動系コンポーネントがいかにコンパクトかを実感する景色だ。もっとも、EV(電気自動車)を動かすには駆動用のバッテリーが必要で、MX-30 EV MODELは総電力量35.5kWhのリチウムイオンバッテリーを床下に搭載する。バッテリーケースはボディと強固に結合することにより、効率良く車体剛性を向上させている。エアコンのシステムと共用する冷媒冷却システムを組んだのは、暑い夏を不安なく乗り切るためだ。
「MX-30 EV MODELはマツダにとって最初の量産EVなので、しっかりと信頼性を確保したい。空冷や水冷などさまざまな方式があるなかで、冷媒方式を選びました。室内のお客様は冷媒、バッテリーは空冷と分けるより、システムを一本化したほうが効率的だからです」と、開発主査の竹内都美子氏は説明した。
WLTCモードによる一充電走行距離は256kmである。現実的には200km前後だろう。MX-30はもう1タイプ追加されることが公表されており、2022年前半にはマルチ電動化技術を搭載したモデルが登場する。バッテリーに蓄えたエネルギーを使い切った場合は、ロータリーエンジンで発電し、そのエネルギーでモーターを駆動する。「3つのラインアップから、お客様の使い方に応じて選んでいただきたい」と竹内主査は話す。現状、エンジンルーム内でぽっかり空いた空間に、マツダの“御神体”であるロータリーエンジンが収まることになる。
EV MODELがe-SKYACTIV G搭載モデルと決定的に異なるのは、「モーターペダル」と呼ぶ電動モータートルク制御システムを採用していることだ。エンジンとモーターでパワーソースが異なるのだから当然だが、EV MODELは加速側だけでなく減速側も高応答に反応するモーターの特性を生かした制御を作り込んでいる。例えば、ドライバーがゆっくりペダルを操作しているときは車速管理がしやすいよう穏やかなトルク変化とし、素早い踏み込みに対しては加速意図を汲み取って力強い加速をレスポンス良く提供する。戻し側(トルクダウン側)も同様に緻密な制御ができるのは、モーターだからこそだ。
このモーターペダルの車速コントロール性を高めるデバイスとして、EV専用のステアリングホイールパドルが採用された。パドル自体はe-SKYACTIV G搭載モデルと同じで、左のパドルに−(マイナス)、右のパドルに+(プラス)と書いてある。e-SKYACTIV G搭載モデルの場合は6速ATのギヤを手動で上げ下げするのにパドルを使うが、EV MODELの場合は左のパドルを操作すると回生減速度が強まり、右のパドルを操作すると回生減速度が弱まる。どちらも2段階だ(デフォルトを含め計5段階)。
EV MODELのステアリングホイールパドルが特徴的なのは、アクセルオフ時の回生減速度だけでなく、アクセルオン時の加速度もパドルの操作によって変化することだ。右側のパドルを引くと回生減速度が弱くなると同時に、加速が元気になる。例えば、強い上り勾配で右パドルを操作すると、まるで走行抵抗が小さくなったかのように軽々と走るようになる。高速道路を一定速で走るような場合は、アクセルオフによる回生減速度が小さくなる右パドル操作が適。下り勾配では左パドルを操作して回生減速度を大きくすると、車速の管理がしやすい。といったような、シーンに応じた使い分けが可能だし、操作が楽しい。
ちなみに、左パドルを2回引いたときの最大減速度は−0.15Gだ。減速度が−0.15G発生しているときは自動的にブレーキランプが点灯する仕組みになっている。また、アクセルペダルの戻し(リフト)だけで完全停止はせず、微低速ではAT車のようにクリープ走行をする。
「駐車のしやすさとか上り坂での発進を考えると、クリープがあったほうが安全だし、使いやすいと思います」と、操安性能開発部の梅津大輔氏は説明する。「アクセルペダルの操作で右足をリフトアップして止めるのは、エルゴノミクスの観点からつらいと思っています。強い減速では足に慣性力が働いて前に持っていかれるのに、(慣性力に逆らって)リフトアップしなければなりませんから。ブレーキペダルをしっかり踏んで姿勢を安定させたほうが安心、安全です」
MX-30 EV MODELは回生協調ブレーキを搭載しているので、アクセルペダルをリフトした際だけでなく、ブレーキペダルを踏んだ際にもモーターの発電機能が生む抵抗を利用した回生ブレーキが働く。ドライバーが必要とする制動力に対し、回生ブレーキで足りない分を摩擦ブレーキで補う考えで、主役は回生ブレーキだ。
マツダ独自の車両運動制御技術、Gベクタリングコントロール(GVC)は、モーターのトルク特性を生かしてより幅広い領域で最適な前後荷重移動(ボディコントロール)を実現するe-GVC Plusへと進化した。内燃機関との比較では、ターンアウト時の制御やアクセルオフ時の制御においてモーターに分があり、ターンインからターンアウトまで、すなわちアクセルオンからアクセルオフまで、あらゆるシーンで前後荷重移動を狙いどおりに制御できるようになった(あくまでFFのクルマとしての範ちゅうで)。
車重は1650kgあるが、2〜3割軽く感じるほど身のこなしが軽い。動き出しの反応は速いが、そこからの動きはしなやかで、動きすぎることがなくスッと収まって次の動きに移行する。まるで一流のアスリートのように動きに無駄がない。だから、疲れず、安心だし、操っていて気持ちがいい。こう言っちゃナンだが、e-SKYACTIV G搭載モデルが一気に色あせて感じられるほど、MX-30 EV MODELは走りがいい。洗練されていて隙がないし、静かで、スムーズだ。
モーターのトルクと同期したサウンドをスピーカーから流すのも、MX-30 EV MODELの特徴。アクセルペダルを強く踏み込んだ際はビート感のあるサウンドを発し、ドライバーの気分を高揚させる。ボリュームは控え目なので、わずらわしくは感じなかった。サウンドのオンオフ機能は持っていらず、サウンドは常に響く。
「モーターのトルクを認知していただくためにEVサウンドをつけています」と梅津氏。「EVは基本的に静かですが、音は聞こえてきます。その音はロードノイズとモーターノイズ、ギヤノイズと風切り音の主に4つですが、すべて嫌な音だと思っています。ならば、気持ちのいい音を作ってあげたほうがいいという考えです。モーターがどれくらい頑張っているのか、加速側だけでなく減速側についても、よくわかるようなセッティングにしています」
人工的な音には違いないのだが、他社のサウンドのようなわざとらしさはない。無機的とか電子的といった表現よりも、有機的とかナチュラルといった表現があてはまりそうなサウンドだ。気になる方はぜひ実車でご確認を。
マツダは「人馬一体」による「走る歓び」をクルマづくりの哲学に据えている。その最新かつ最良の事例がMX-30 EV MODELはだ。現時点のマツダのラインアップで最高といったら、ロードスターのファンから反感を買うだろうか。ボディコントロールの観点において、内燃機関のクルマとは別種の楽しさがある。
MX-30 EV MODEL HIGHEST SET Technical Specifications 全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1565mm ホイールベース:2655mm トレッド:F1565mm R1565mm サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトーションビーム式 車重:1650kg パワートレーン:e-SKYACTIV 駆動用モーター:交流同期モーター 最高出力:145ps(107kW)/4500-11000rpm 最大トルク:270Nm/0-3243rpm 駆動用二次電池:リチウムイオン電池 総電圧:418V バッテリー容量:35.5kWh 水冷式 充電:DC充電 CHAdeMO AC(普通)充電 最大6.6kW 一充電走行距離(WLTCモード) 256km 交流電力量消費率 WLTCモード:145Wh/km 市街地モード 121Wh/km 郊外モード 129Wh/km 高速道路モード 152Wh/km 車両価格:501万6000円