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オーテックとニスモの違いとは? それぞれの個性と開発コンセプトを探る

オーテックとニスモという日産直系の市販カスタマイズモデルは現在、旧オーテックジャパンを母体とする日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社(NMC)がまとめて企画開発を手がけている。ともにスポーティであることを大前提として、そのうえでオーテックは「上質さと爽快感」というコンセプトを掲げる。対するニスモのコンセプトは「速さと高揚感」だそうである。
オーテックとニスモで、開発メンバーの顔触れが重なることもあるというが、NMCの担当氏に「サーキットやワインディングで真価を発揮するのがニスモだとしたら、もう少し日常的なシーンや高速道路で心地いいのがオーテック……ということでしょうか?」とたずねると、「大筋はそういうイメージと捉えていただいて構いません」との答えをいただいた。もっとも、ニスモが市街地や高速の乗り心地を無視しているわけではないし、オーテックオーテックで、は歴史的にワインディングでも溜飲の下がるクルマである。念のため。
オーテック&ニスモの戦略、進化する特別な日産車の魅力

ノートとノートオーラ(以下、オーラ)は日産の国内ベストラーということもあって、当初からオーテックとニスモの両モデルが用意されている。
まず、2020年11月の現行ノートのデビューと同時に内外装を専用仕立てとした「ノートオーテック」も発売。翌21年8月には今度はオーラの発売に合わせて、内外装だけでなく、パワートレーンやシャシーまで専用チューンした「オーラニスモ」が追加された。さらに、同年秋にノートの車高をリフトアップしてSUVの仕立てを施した「ノートオーテック・クロスオーバー」も登場している。

その後、23年12月にノートが、続く24年6月にオーラがマイナーチェンジすると、それをベースとするオーテックのラインナップが見直された。オーテッククロスオーバーとニスモはそのままだが、素のオーテックは、ベース車両がノートからオーラに変更となった。その理由をNMC担当者は「当初はオーラニスモとの差別化の意味もあって、オーテックはあえて5ナンバーのノートに用意しました。ただ、実際に販売してみると、お客様がオーテックに求めるのは“特別な日産車”であり、オーラのオーテックを求める声が多くありました。また、オーテックのお客様は最高のものを求める傾向で、(ノートに設定のない)BOSEサウンドシステムへの要望も強かったんです。実際、当初はノートオーテックの販売も好調だったのですが、オーラが出ると、ノートベースのオーテックの売れ行きも少し落ち着いていきました」と説明する。

そんなオーラオーテックに、さらに独自の走りの魅力を加えたのが、スポーツスペックである。オーテックの市販モデルといえば、古くはR32スカイラインやP10プリメーラのオーテックバージョン(スカイラインはRB26型エンジンの自然吸気版を搭載)、大ヒットしたK12マーチの12SR、Z33やZ34のフェアレディZのバージョンニスモ(ニスモ名義だが、開発は当時のオーテックジャパン)、そしてK13マーチベースのボレロA30……などなど、好事家に語り継がれるアツい走りを誇ったクルマが多い。そんな歴史もあって、独自の走りを求めるオーテックファンは少なくなく、それに対する最新の回答がスポーツスペックというわけだ。
スポーツスペックの走り、ニスモとは異なる“大人のスポーツ”

既存のオーラオーテックはいわばドレスアップモデルだが、このスポーツスペックはそれに加えて、パワートレーン、空力、そしてシャシーのすみずみにまで手が入る。
具体的にはパワートレーンをつかさどるVCM(ビークルコントロールモジュール)の専用セッティングにはじまり、大型リヤスポイラー、車高の20mmローダウン、専用タイヤ(ミシュランeプライマシー)、パワステ制御の変更、車高の20mmのローダウン、コイルのバネ定数アップ(フロントで約30%、リヤで約40%)、専用形状の前後バンプストップラバー、前後の専用ダンパー(ともに減衰力設定は専用で、さらにフロントは外筒板厚アップ、リヤはモノチューブに変更)、横滑り防止装置の専用セッティング、そしてボディのリヤ部分にパフォーマンスダンパーを追加している。

エンジンとモーターが高度に融合した最新ハイブリッドでは、エンジンやモーター性能を変えることも簡単ではなく、今回のスポーツスペックでも、最高出力や最大トルクは普通のオーラと変わりない。ただ、完全電動駆動なので、加速特性などのキャラクターは逆に、いかようにも味つけできるのが面白い。オーラスポーツスペックは、ノーマル、エコ、スポーツの全モードが専用セッティングになっているが、全体にベースのリニアな良さを残したまま、全体にレスポンスと力強さを上乗せした感じ。同じオーラのニスモのような過激な味わいでないところに、オーテックの主張を感じる。
シャシーもしかり。とにかく水平姿勢をキープするニスモに対して、スポーツスペックは全体に引き締まりつつも、ロールは比較的大きめで、しっかり荷重移動しながら、濃厚な接地感を伝えてくる。とくにリヤのしなやかさと路面に吸い付くようなロードホールディングが印象的で、リヤが落ち着いているから、全体に安心感が高い。いっぽうで、パワステは意外なほど重い味つけなのは、ちょっと古典的な味わいを目指しているのかもしれない。しずれにしても、ニスモより明らかに落ち着いた大人っぽい味わいが、オーテックらしさということなのだろう。