日産オーラ「AUTECH SPORT SPEC」は何が違う? スーパーGT最多4度戴冠のロニー・クインタレッリと峠を走ったら疑問氷解だった!

どんなシーンでも安心感があり、コントロールしやすいのがAUTECH SPORT SPECの美点。
日産モータースポーツ&カスタマイズが手掛けるコンプリートカスタムカー「AUTECH」に上質な走りを追求してハンドリングや加速感にも手を加えた「AUTECH SPORT SPEC」が誕生した。はたして走行性能はどのように進化しているのだろうか。スーパーGTシリーズのGT500クラスにおいて史上最多となる4度のチャンピオンに輝いたロニー・クインタレッリさんと高速道路から峠を走り、ドライビングのコツを聞いた。

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:井上 誠(INOUE Makoto)

市街地ではスポーティよりプレミアムなキャラが強く感じられる

日産・ノート オーラ「AUTECH SPORT SPEC」

日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)が手掛けるコンプリートカスタムカーには、モータースポーツDNAに基づくピュアスポーツ「NISMO」と、クラフトマンシップを実感できるプレミアムスポーティ「AUTECH」という2つのブランドがある。両者は、走る喜びや操る楽しさなど「スポーツ」の要素は共通するものの、走りの味付けにおいて、速さや高揚感を重視しているのが「NISMO」、上質さと爽快感を体現しているのが「AUTECH」となる。

そのAUTECHシリーズのフラッグシップとして登場したのが、セレナとノート オーラ(以下、オーラ)の「AUTECH SPORTS SPEC」である。「どんなシーンでも『安心感の高い走り』と『質感の高い乗り味』」という共通コンセプトにより仕上げられているという。

AUTECHテイストのスタイリングは健在。さりげなくプレミアム性を主張する。

では、AUTECH SPORT SPECは、どのような走りを実現しているのだろうか。発売されたばかりのオーラAUTECH SPORT SPECで確かめてみることにした。

試乗する前に、オーラAUTECH SPORT SPECの変更点を整理しておこう。湘南生まれというAUTECHのルーツを表現するクロームドット加飾のフロントグリルや波打ち際の白波を思わせるメタル調フィニッシュパーツ、海中に差し込む陽の光を思わせる専用デザインのホイールといったアイテムは、これまでのAUTECHと共通だ。

パワステ特性は変わっているが素性としての取り回し性能は良好。乗り心地にも悪影響はまったくない。

オーラAUTECH SPORT SPECに与えられた走りに関する部分の専用装備は以下の通り。非常に多岐にわたり、細部までこだわっていることが理解できる。

・VCM:ドライブモードの専用特性化
・ボディチューニング:ヤマハパフォーマンスダンパー採用
・タイヤ:ミシュランeプライマシー(205/50R17)
・フロントスプリング:専用バネ定数(約30%アップ)
・フロントストラット&ショックアブソーバー:減衰特性変更&外筒板厚アップ(2.3→2.6)
・リヤスプリング:専用バネ定数(約40%アップ)
・リヤショックアブソーバー:モノチューブ採用・減衰特性変更
・前後バンプラバー:専用形状
・電動パワーステアリング:アシストマップ専用化
・シャシー制御:VDC専用仕様
・空力特性:大型リヤルーフスポイラー

NISMOと共通の大型リヤルーフスポイラーを備えている。スタイリングだけでなく空力性能の向上にも寄与する。

専用スプリングやショックアブソーバーでフットワークを引き締めたことで車高は約20mmダウンとなっている。3ナンバーボディのオーラだけに、スポーツコンパクトらしいワイド&ローなシルエットが引き立っているのは見ての通りだ。とはいえ、車高を下げるチューニングはスポーティな方向性には効果的だが、乗り心地など快適性の面ではマイナスに作用することもある。

走り出すと、乗り心地に対しての不安は杞憂だったことが理解できる。ミシュランeプライマシーという快適性を考慮したタイヤ銘柄を選んでいることもあって、基本的な当たりは柔らかい。それでいて、段差を乗り越えたときにピシッと振動を抑えるダンピング性能の高さはシャシーチューニングの効果を感じるもの。とくにモノチューブショックアブソーバーを採用した後輪の落ち着きは、市街地でも上級な走り味となっていることが実感できる部分。一言でいえば、AUTECH SPORT SPECの目指した「プレミアムスポーティ」という要素のうち、前者のプレミアム性が際立つ乗り味となっていた。

大きく曲がっているようなシチュエーションでの安定性は抜群。

高速道路のジャンクションで実感する「粘り強いボディ」、継ぎ目で感じる「大人の乗り味」に驚く

AUTECH独自のフロントグリルは海面のきらめきを表現したデザイン。シーサイドを走るのがよく似合う。

市街地では、上質なスタイリングと乗り味の両立が確認できた。続いて、ワインディングに向かおうと高速道路に乗ろうとしたとき、衝撃が走った。

料金所に向かうランプや、異なる路線をつなぐジャンクションは大きなコーナーとなっていることが多く、四輪の接地感が高いほど安心して走れる。とはいえ、オーラはフロント駆動のコンパクトカーであり、そうしたシチュエーションにおいて抜群の安定性までは期待していなかった。だが、オーラAUTECH SPORT SPECは、期待を大きく上回るスタビリティを見せてくれた。とくにリヤの粘り感は感動レベルで、正直アマチュアレベルの筆者では限界性能に辿りつくことはないだろうと思えるほど。

4度のGT500チャンピオンに輝いたロニー・クインタレッリさんに、AUTECH SPORT SPECの良さが感じられるシーンやドライビングを教えていただいた。

というわけで、高速道路に入ってからAUTECH SPORT SPECの走りを深く知るためのアドバイザーとして、NISMOアンバサダー兼アドバイザーであるロニー・クインタレッリさんにご協力いただくことにした。長年、日本のモータースポーツシーンで活躍してきたロニーさんは2024年でスーパーGTから引退しているが、現役時代にはGT500クラスにおいて史上最多となる4度のチャンピオン(2011年、2012年、2014年、2015年)に輝いた名ドライバー。しかも、奥様がオーラNISMOを愛車としているなど、NMCのコンプリートカスタムカーについても造詣が深い。

2015年にGT500クラスでチャンピオンを獲得した「MOTUL AUTECH GT-R」 

そんなロニーさんがオーラAUTECH SPORT SPECのハンドルを握り、高速道路を走っての第一印象は「前後のバランスがいいね!」というものだった。

オーラのパワートレインは1.2Lエンジンと最高出力100kWのモーターを組み合わせた”e-POWER”で、電動テイストの強いBレンジで走るのがロニーさんの好み。つまり、回生ブレーキが強い状態でのアクセルコントロールとなるため加減速に伴うピッチング的な挙動が出やすい。そうした走らせ方をしたときにリヤタイヤの接地が安定しており、前後バランスが良好に感じられるという。

運転席のシートが電動調整式となっているオーラAUTECH SPORT SPEC。ミリ単位でドライビングポジションが調整できるのはいいね、とロニーさんも絶賛。

また、乗り心地の面では「道路の継ぎ目を通過したときにシュッと収まる感じがいいよね、これはAUTECH SPORT SPECだけの味付けだね」とロニーさん。前述したバランスの良さに、パフォーマンスダンパーが生み出すボディチューニングが効いていることの証左だ。

写真のように道路の継ぎ目を超えたときの安心感と高級感のある挙動はAUTECH SPORT SPECの面目躍如。

そうしたロニーさんのインプレッションを受けて、筆者も高速道路を走ってみた。たしかに、四輪接地感が高く、安心して高速走行ができる走り味となっている。加えて、タイヤが適度に変形する印象もあって、シビアすぎないハンドリングになっているのもロングツーリングにはプラスとなりそうだ。

じつはAUTECH SPORT SPECのリヤスプリングはNISMOより硬めの設定になっているということだが、けっして乗り味がハードなわけではない。リヤの動きを制御することで前後バランスの良さや四輪接地感の高さにつなげているのである。

AUTECH SPORT SPECはワインディングでも楽しい。

ワインディングでは一体感を重視したドライビングスタイルがおすすめ

下りコーナーでも四輪接地感の高さが失われることない。

ただし、マイルドなタイヤはスポーツドライビングにおいてマイナスとなることもある。はたしてAUTECH SPORT SPECはワインディングにおいて、どんな走りを見せてくれるのか。まずはロニーさんの助手席で、そのポテンシャルを味わうことにした。

ドライブモードは“SPORT”を選択、アクセル操作に対してレスポンスを重視したセッティングとなっているという。アクセルを踏み込んで、すぐさまロニーさんは「NISMOとは違うセッティングになっているね。オーラNISMOに用意されるNISMOモードはサーキット向けのハイレスポンスになっているけれど、AUTECH SPORT SPECのSPORTモードはコントロールの幅を残している」と話す。

ワインディングを楽しむならSPORTモードを選択するのがおすすめだ。

筆者もオーラNISMOに試乗した際に、NISMOモードを味わったことがある。たしかにレスポンスが良すぎて、逆にアクセルコントロールがアマチュアには難しいのでは、と感じる部分もあった。そうした難しさを、AUTECH SPORT SPECのSPORTモードで感じることはなく、扱いやすい。NMCがNISMOとAUTECH SPORTS SPECで明確に異なるセッティングをしていることを、ロニーさんは「コントロールの幅」という視点で教えてくれたのだった。

市街地や高速道路で乗り心地に貢献するタイヤ、ミシュランeプライマシーのワインディングにおける評価をロニーさんに聞いてみる。「たしかにショルダーの柔らかさはあるよね。サーキットではアンダーステアが顔を出しそうだけれど、タイヤの変形をステアリングを通して感じながら操作していくと、このタイヤの良さが引き出せるんじゃないかな」という。

NISMOとAUTECH SPORT SPECでは明確にキャラクーが分かれていて、ユーザーが自身の求める方向性のクルマを選択できるのは嬉しい。

このアドバイスをもとに、タイヤとの一体感を意識して走ってみると、なるほどNISMOとは異なるAUTECH SPORT SPECの目指している走りの世界が見えてきた。ワインディングにおいても四輪接地の良さを引き出すようなイメージで動かすと、思い通りのラインでコーナーを駆け抜けることができる。なるほど、プレミアムスポーティを謳うAUTECH SPORT SPECは上質な安心感を求めるユーザーには最適な味付けになっている。

スポーツドライビングにおけるターゲットとしてサーキットを意識したNISMOほどの刺激は求めないけれど、爽快感や、走りにも上質さを求めてこだわりたい、そんなワンランク上の走り味を望むユーザーにとってAUTECH SPORT SPECは最適な選択となるだろう。

AUTECH SPORT SPECのSPORTモードは、アクセルのレスポンスがちょうど良いセッティングなので扱いやすい。とロニーさんは語った。

日産・ノート オーラ「AUTECH SPORT SPEC」のもっと詳しい情報は、日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)のHPをご確認いただきたい。

AUTECH SPORTS SPECシリーズ 公式HP

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…