スバル・クロストレックの「◯△✕」は? 約39万円差のストロングハイブリッドをどう評価する?

SUBARUクロストレックに加わったストロングハイブリッド(S:HEV)
SUBARUクロストレックに新たに追加されたストロングハイブリッド(S:HEV)は、トヨタのTHSⅡを基盤に水平対向エンジンや独自AWDを組み合わせ、コストを抑えつつSUBARUらしい走りを実現している。燃費向上にも寄与し、厳しさを増す環境規制への対策にもなる。これにより、クロストレック購入時にはマイルドハイブリッド(MHEV)とS:HEVの2つから選べるようになった。

TEXT&PHOTO:塚田勝弘(TSUKADA Katsuhiro)

CセグメントSUVのSUBARUクロストレックに加わったストロングハイブリッド(S:HEV)は、トヨタのTHSⅡに水平対向エンジンや独自のAWD機構などを採用し、コストを抑えつつSUBARUらしい走りを実現している。同社の泣き所だった燃費向上は、商品力のアップはもちろん、CAFEなどの年々規制が厳しくなる燃費対策の切り札でもある。クロストレックを買うならマイルドハイブリッド(MHEV)かS:HEVか、という選択肢もできたことになる。

SUBARUクロストレックに加わったストロングハイブリッド(S:HEV)

「マイルドハイブリッド」と「ストロングハイブリッド」の差は?

従来からあるマイルドハイブリッド(MHEV)も新たに加わったストロングハイブリッド(S:HEV)もともに「e-BOXER」を名乗るのと、内外装の差が小さいため、外観をパッと見ただけでは違いが分かりにくい。価格差は、MHEVの「Limited(4WD)」と4WDのみとなるS:HEVの「Premium S:HEV」と比べると約39万円となっている。

S:HEVの専用オーナメント

S:HEVは、「e-BOXER」の専用オーナメント(ロゴのフォントと隣のエンジンを模したイラスト)が異なり、ダークメタリック塗装と切削光輝が施された専用18インチアルミホイールを履く。動きを感じさせるアルミホイールは、シャープな足元を演出しているが、「S:HEV」のオーナーは、もう少しMHEVとの差が欲しいと感じるかもしれない。ハイブリッド(HV)が当たり前になった現在では、トヨタなどはHV専用エンブレムやオーナメントを廃止する流れになっていて、さり気なくアピールするのが今どきなのかも。

S:HEVのハイブリッドのエネルギーフロー

インテリアは、ブラックトリム&ブレイズガンメタリック加飾、グレーのファブリックシートのほか、メーター左側の回転計がパワーメーター(パワーインジケーター)になり、EVドライブモードスイッチが加わっている。安全装備ではアイサイトに標識認識機能が加わっている。それでも外観同様に、パッと見の差は大差といえるほどではもちろんない。あえて言うなら内外装の差が価格差ほどではないのが「△」か。なお、「S:HEV EX」にすれば、「アイサイトX」やナビなどの標準化のほか、オプションでAC100V/1500Wのアクセサリーコンセントも設定する。

EVドライブモードを追加

走りの良さは文句なしで「◯」、いや、二重丸だ!

価格差を実感するのは走りだろう。ストロングハイブリッド化によりモーター発進が基本となり、中低速域でもEV度合いが一気に高まっている。それに伴い静粛性が向上。専用サスペンションは、リヤダンパーロッドの延長やダンパーにチェックバルブスプリング(ボトム側)に追加されている。同じコースで乗り比べると、両仕様ともに上下動は感じさせるものの、揺れの収束が素早いのはS:HEVで、よりフラットライド感を得ている。乗り味の差は小さくなく、MHEVからの乗り替えであればすぐに気がつくはず。

そして、2.0LのMHEV に対し、ミラーサイクル化された2.5Lエンジンの排気量の余裕は、燃費向上だけでなく動力性能の差にも大きく貢献している。MHEVは145PS/188Nm、S:HEVは160PS/209Nmというエンジンスペック。さらにモーターは、MHEVの10kW(13.6PS)/65Nmから88kW(119.6PS)/270Nmへと大きく向上したことにより、スタートダッシュから中間加速、高速域のパンチ力まで明確にS:HEVが上回っている。筆者はS:HEVに発売前のクローズドコース、青森県の八甲田山で開催された雪上試乗会、さらに都内や関東地方の山岳路でも乗る機会を得たが、スムーズかつ力強い走りは、その魅力が燃費だけではないことを実感した。高速道路での加速感や登坂時の力感は、S:HEVの大きな美点だ。

S:HEVの2.5L水平対向エンジン

さらに、モーター駆動になる利点は、雪上(圧雪路やシャーベット路、アイスバーン)などでも実感できた。急発進を試みても後輪がスリップする前に瞬時に走り出すだけでなく、アームブッシュの見直しにより路面の追従性も高くなり、安心感もある。それでいながら揺れの収まりもいいため、乗り心地は十分に快適で、前席だけでなく後席でも不快な揺れを抱かせることは少なかった。

S:HEVの後席。居住性に差はほとんどない

トランスアクスル後方に電子制御カップリングの4WD機構を配置し、応答性の高さを実現し、プロペラシャフトを通じて大トルクを後輪に伝達できる利点があるが、山道(とくに雪上)での安定感のあるハンドリングにも寄与していて、ライントレース性の高さも長所となっている。走りの良さは文句なしで「○」、いや、二重丸だ。

そして、WLTCモード燃費は、MHEV(4WD車)の18.8km/Lに対し、3.9km/Lと大きな差があり、燃費ももちろん大切なポイントであるから「○」。その走りっぷりも含めてS:HEVを指名したいところだ。

「×」まではいかないが、「△」のポイントも

パッケージングも頑張っていて、パワーコントロールユニットをエンジン後方上部に収め、駆動用バッテリーは、荷室床下に配置。荷室容量は、MHEVの311Lに対し、279Lと小さくなっている。駆動用バッテリーの配置により荷室床面が高くなったためで、荷室高はMHEVの708mmに対し、688Lと低くなっている。サブトランクも4Lから1Lになっている。実用上、大きな影響を与えるほどではないが、ゴルフバッグは3セットから2セットになるなど、確かに床面の高さは感じさせる。クロストレックのボディサイズで積載性もかなり重視するのならMHEVも選択肢に入れてもいい。あえて「×」にするほどの差ではないものの、「△」ともいえるかもしれない。

S:HEVのラゲッジ

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著者プロフィール

塚田 勝弘 近影

塚田 勝弘

中古車の広告代理店に数ヵ月勤務した後、自動車雑誌2誌の編集者、モノ系雑誌の編集者を経て、新車やカー…