ヴァリアント=ステーションワゴンのみとなったパサート

VWパサート

ところでパサートはこの現行モデルから、ボディ形状が「ヴァリアント」(=ステーションワゴン)のみとなってしまった。驚かされたのはそれが日本仕様のみの話ではなく、本国ドイツも同じということだ。つまり「セダン」の需要は世界的に見ても減衰し、その座がSUVに奪わたということになる。

パサートのセダンは2022年にマイナーチェンジされた先代の8.5世代が今の所は最後のモデル。
2017年デビューのアルテオンも2025年でついに終売となった。
ゴルフのセダン版、ジェッタは一部地域で健在だが、ドイツ本国では販売していない。
VWのセダンではEVモデルのiD.7がラインナップされる。
ID.7はステーションワゴンもラインナップ。

ちなみに日本ではいまだ「ゴルフ」の人気が根強いものの、グローバルでは既に「ティグアン」が一番売れているという。
しかしだからこそ、いやだからこそだろう、筆者はこの新型パサートに惹きつけられるものを感じた。それが何なのかを、ここでは紹介して行こう。

世界レベルでは最も売れているVW車はティグアン。

マイルドハイブリッド、プラグインハイブリッド、ディーゼルのラインナップ

新型パサートのパワートレインは、全部で3つ。ガソリンエンジンは1.5L直列4気筒ターボ(150PS/250Nm)を軸にマイルドハイブリッドを組み合わせた「eTSI」と、プラグインハイブリッド仕様の「eHybrid」をラインナップ。そして2.0L直列4気筒ディーゼルターボ(193PS/400Nm)搭載車の「TDI」には、FFベースの4WDシステムとなる「4MOTION」を組み合わせている。トランスミッションはハイブリッド組が乾式の7速、TDIが湿式の6速DSGとなる。

VWパサートeHybridエレガンス

グレードは基本的に「エレガンス」と「R-Line」の2種類だが、マイルドハイブリッドの「eTSI」のみベーシックグレード(「エレガンスベーシック」)が設定される。今回試乗したのはパサートeHybridの「エレガンス」だ。

VWパサートeHybridエレガンス

まず走らせて感激したのは、動的質感。これが現行フォルクスワーゲンのなかでも、群を抜いて高いことだった。そのカギを握るのは、ストロングハイブリッドだ。しかしそのメリットを筆者は”重さ”だと感じた。

150ps/5000-6000rpm・250Nm/1500-4000rpmを発揮する1.5L直列4気筒DOHCインタークーラーターボと85kW・330Nmのモーターを組み合わせたプラグインハイブリッド「eHybrid」。

もちろんその質感には85kW(定格出力55kW)/330Nmの走行用モーターがもたらすシームレスな動力性能と、現行世代でさらに向上した遮音性が大きく貢献している。しかしその芯の部分では、電動パワーユニット(PU)やバッテリーを搭載したことによる車重の増加が、動的な質感をバランスさせている。全長で130mm、ホイルベースでは50mm伸びたボディを、どっしりと地面に抑え付けているのである。

ボディサイズは全長4915mm×全幅1850mm×全高1500mm。ホイールベースは2840mm。
空気抵抗係数(Cd値)が先代の0.31から0.25と大幅に向上している。
ボディサイズはパワートレインやグレードで違いはなく全車共通。

クルマは軽いほどに走りが良くなる、というのは一般的な常識だ。しかし新型パサートは、プラグインハイブリッド化を前提に、もっと言えば将来的な電動化を見据えて、そのプラットフォーム・モジュール「MQB evo」を煮詰めたのだろう。バッテリーや電動PUを搭載しながらボディバランスを整え、その重さをも使って、乗り味を整えてきたのだと筆者は体感した。

VWパサートをドライブする筆者。

電子制御可変ダンパーによる優れた乗り心地

そしてこれを支える足周り、新しくなったアダプティブシャシーコントロール“DCC Pro”が、ダメ押しで質感を高めている。
フォルクスワーゲンは大衆車ながらもこれまで特別なモデルに可変ダンパーをオプションとして用意してきたが、現行DCCはその電子制御が遂に、伸縮別調整に進化したのだ。誇らしいことにサプライヤーは、日本の「カヤバ」である。

マクファーソンストラット式のフロントサスペンション。

2WAYダンパーと聞くと筆者のような走り好きは、レーシングユースの超高級システムを思い浮かべる。その用途は限界領域における姿勢制御で、たとえば「ターンインでもう少しアンダーステアを抑えるために、リヤダンパーを伸ばして……」といった具合に減衰力を調整して行く。

リヤサスペンションはマルチリンク式。ショックアブソーバーには「KYB(カヤバ)」のステッカーが見える。

果たしてそんなシステムが、レーシングモデルではないパサートに必要なのか? と筆者も最初疑問に思った。しかしその乗り心地は素晴らしく、「これならエアサスいらずだ!」と思えるほどしっとりと路面をなぞる。

聞けばボディには車体の水平レベルを測るために3点式のセンサーが内蔵されており、車体傾き具合、つまり路面の状況に応じて減衰力が電子制御されるのだという。なるほどそれだけ細かい制御をするならば、伸び縮みをアクチュエーターで別調整する意味もあるというわけだ。

当日は試乗会場からワインディングを目指したが、旋回Gが高く周り込んだカーブが多い場面でも、パサートの走りは素晴らしかった。
4種類あるモードのうち「スポーツ」を15インチのモニターから選ぶと、ダンピングはもちろんパワーユニットや電動パワステが安定方向に協調制御され、各閾値が上がる。それまで影を潜めていたエンジンが存在感を高め、アクセル開度に応じてターボとモーター両方のブーストを効かせる。

センターコンソールの15インチ大型タッチディスプレイで各種機能を操作する。走行プロファイルは「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「カスタム」の4種類。

しかしそれ以上に感心させられるのは、たとえスポーツモードでもパサートのキャラクターが一切ぶれないことだ。ダンパーは決して突っ張ることなくロールスピードを抑え、路面からの突き上げをいなす。たしかにダンパーは減衰力の基準値を高めているのだが、その起点を前後して、4輪の伸び・縮みを細かく制御しているのだ。

だから多少ロールは大きくなれど、コンフォートモードのままでもパサートはワインディングを気持ち良く走る。躍度(Gの変化度合い)に応じて減衰力を時には高め、ときには緩めて、その姿勢をフラットに保ってくれるのである。

またカスタムモードでは、この基本減衰値をタッチひとつで任意に設定できる。技術的にはポルシェ911GT3RSのように伸び・縮みを別調整することも可能なはずだが、それをしないのはコストの兼ね合いと、操作における混乱を避けるためだろう。そこはクルマ側に任せて制御させる方が、気持ち良く運転に集中できる。つまりDCC Proは、アクティブダンパーなのだ。

「カスタム」では、DCCやステアリングだけでなく、ACCやエンジン音など設定を好みに合わせてかなり細かく設定できる。

eHybridはチャージモードや急速充電こそないが、実燃費は29km/Lを記録

そんなパサートeHybridで唯一残念なことがあるとすれば、急速充電機能を持たないことだ。だから筆者のようにマンションに暮らすユーザーは、充電環境が得にくい。

ラゲッジルームのアンダートレイに収納された給電ケーブル。

ちなみにパサート eHybridは、可能な限りエンジンをかけずにモーターだけで走ろうとする。意図的にアクセルを踏み込めば1.5Lターボエンジンが目を覚ますけれど、街中を普通に走らせる限りメーターの針が左半分のモーター領域を越えて、右半分のタコメーターゾーンへ突入することはない。そして高速巡航時も、追い越し加速をかけない限りはこれが続くから、極めてEVに近い感覚が味わえる。しなやかな乗り心地とモーターライド、ここにマッサージ機能を効かせてお気に入りの曲でも流せば、プレミアムセグメントいらずの移動空間が得られる。

フロントシート
リヤシート
フロントシートにはマッサージ機能を装備。
マッサージプログラムも複数用意される。

EV航続可能距離が132km(WLTC値)というのは、少々リアリティに欠ける数字だ。だがプラグインハイブリッドが「電気を使い切ればただの重たいガソリン車」だという声も、少々ペシミスティックだと思う。

なぜなら筆者は充電状態80%、EV走行可能距離約70kmから電池を使い切ったが、その後もパサートは変わらず静かに走り続けた。バッテリーは性能維持の関係からSOC(残量)がゼロになることはない。総電力容量25.7kwhのうち走行用に使われる電力量が19.7kwhという諸元から考えても、時折起動するエンジンが充電を促し、バックアップ電源がモーターを回し続けているのだろう。

車両の各種設定画面。
回生の強弱を設定可能。

国産PHEVのようにチャージモードを持たないことについては、メーカーごとの考え方があるはずだ。そもそもがCO2排出量を抑えるためのプラグインハイブリッドだという立ち位置ならエンジンを掛けてチャージするのは本末転倒だろうし、災害時の電力確保と考えればそれがライフラインになるとも言える。ともかくパサートにはチャージモードがないから、走らせていてもゲージは回復しない。

ラゲッジルームは通常時510L、拡大時で最大1770Lを確保。リヤシートは4対2対4の分割可倒式。マイルドハイブリッドとディーゼルは690L/1920Lとさらに容量が大きい。
ラゲッジルーム下の2/3はバッテリーが収まるが、隙間は収納スペースに活用できそう。
ラゲッジルーム左側面には荷掛けフックとDC12V電源ソケットを備える。
右側面にはAC100V/150Wのコンセントが備わる。

しかしその走りは、たとえ高速巡航でエンジンを回しながら走っていたとしても、日本の速度域なら十分静かで快適だ。
そして199km走りきったあとの燃費が29km/Lだったのは、燃料がプレミアムガソリンであることだけが惜しいけれど、かなりのパフォーマンスだと感じた。

VWらしいシンプルで質実剛健なインテリア。インターフェースをセンターコンソールの15インチタッチディスプレイとステアリングまわりに集約し、ダッシュボードは極力シンプリな構成になっている。

敢えて重箱の隅を突くなら1860kg(DCC Proと電動パノラマスライディングルーフ装着車)の車重に対してどれくらいタイヤがもつかだが、6000~1万kmといわれる日本人の年間平均走行距離内であれば4年のライフサイクルの方が早く来そうだ。

「エレガンス」系は18インチホイールに235/45R18サイズのタイヤを組み合わせる。試乗車はグッドイヤーのイーグルF1アシンメトリック5を装着していた。「R-Line」系では235/40 R19サイズになる。

eHyridはフラッグシップに相応しいパワートレイン

総じてフォルクスワーゲン・パサートeHybridは、筆者が経験した限り最良のフラグシップモデルだ。ワゴンボディとなってもその剛性感に不満はなく、低い重心と重厚感、それを支えるしなやかな足周りで、SUVとの格の違いを静かに見せつける。

eHybridの車両重量は1830kgだが、試乗車はDCC Proと電動パノラマスライディングルーフが装着され1860kgとなる。

パサートにはTDIの4MOTIONもある。軽油の安さと路面を選ばない4MOTIONの走りは魅力だが、少なくとも常用でのトータルバランスはハイブリッドライドに軍配があがる。
だからこそ、クルマに質感を求めるドライバーにはパサートeHybridを体験して欲しい。ティグアンのプラグインハイブリッドは、まだ導入の見通しが立たないようだからぜひ。

メーカーフォルクスワーゲン
車名パサート
グレードeTSI
エレガンス
TDI 4MOTION
エレガンス
eHybrid
エレガンス
全長4915mm
全幅1850mm
全高1500mm
ホイールベース2840mm
車重1570kg1740kg1830kg
最低地上高
最小回転半径5.5m
乗車定員5名
トランク容量690〜1920L510〜1770L
エンジンDXD型
水冷直列4気筒DOHCインタークーラーターボ
DXN型
水冷直列4気筒ディーゼルターボ
DUC-EAN型
水冷直列4気筒DOHCインタークーラーターボ
排気量1497cc1968cc1497cc
最高出力150ps/5000-6000rpm193ps/3500-4200rpm150ps/5000-6000rpm
最大トルク250Nm/1500-4000rpm400Nm/1750-3250rpm250Nm/1500-4000rpm
燃料/タンク容量ハイオク/66L軽油/66Lハイオク/47L
WLTC燃費17.4km/L16.4km/L18.0km/L
サスペンションF:マクファーソンストラット
R:マルチリンク
ブレーキF:ベンチレーテッドディスク
R:ディスク
タイヤサイズ235/45R18
駆動方式FF4WDFF
トランスミッション7速DCT6速DCT7速DCT
モーター4452BATTYPV85
最高出力13kW85kW
最大トルク56Nm330Nm
電池容量0.7kWh25.7kWh
価格553万円624万円655万9000円