11.2インチの大型センターディスプレイは見やすさも使い勝手もバッチリ
年を取ると、時間が経つのを早く感じるようになるのはなぜだろう。ついこの間、お正月を迎えたばかりだと思ったらもう1年の3分の1が終わってしまった。そして、ボルボのフラッグシップSUVであるXC90の2代目モデルがデビューしてから早くも10年以上が経っていると聞いて、これまた驚いた。
2代目XC90が世に出た2015年と言えば、マイナンバー制度が開始されたり、フォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件が発覚したり、ラグビーワールドカップで日本が南アフリカに勝利して五郎丸ポーズが流行ったりと、さまざまな出来事があった年だ(懐かしい…)。


では、それ以来、XC90がなぜフルモデルチェンジを実施していないのか。その理由のひとつは、ズバリ、セールスが好調だから。グローバルの累計販売台数はまもなく100万台に達し、日本でも安定して年間1000台が売れているという。また、日本ではユーザーの年齢層が若く、平均して40代後半。ラインナップの中で一番高額なクルマにもかかわらず、最も若い年齢層から選ばれているというのも特徴なのだとか。
そういうわけで、堅実に売れ続けているXC90が行った今回の改良メニューをご紹介しよう。まず、エクステリアはAピラーから前が全面的に新設計となっている。特にフロントフェイスは大幅にイメージチェンジが図られ、電気自動車(BEV)であるEXシリーズが採用する最新のデザイン言語に則った、よりシンプルかつクリーンな顔つきに変身。ヘッドライト内のトールハンマーの光り方が中空になっていたり、グリルにはボルボのエンブレムであるアイアンマークに呼応した斜めのバーが配置されたり、ボルボ車として初めてシーケンシャルウインカーが採用されたりと、新しい要素が随所に盛り込まれている。
リヤビューはというとテールランプ内部の配色が変更され、非点灯時はより引き締まった印象に。また、アルミホイールも新デザインのものを採用し、プラグインハイブリッドモデル(PHEV)はグロッシーブラック仕上げの22インチ、マイルドハイブリッドモデル(MHEV)はクローム仕上げの20インチを標準で装備する。細かいところでは、充電口のリッドの形状が円形から四角に変更されたのも新型を見分けるポイントだ。
インテリアもガラリと印象が変わった。まず目を引くのが、9インチから11.2インチへと大型化されたセンターディスプレイ。ただ大きくなっただけでなくピクセル密度も21%向上してより画面が精緻になったのもうれしいポイントである。
また、インフォテインメントシステムも最新のものにアップデートされ、マップやメディアなどよく使う機能に素早くアクセスできる画面構成になっていたり、画面下部のコンテクスチュアルバーには低速走行していると自動的に車外カメラのアイコンが表示されたりと、使い勝手が格段にアップしている。
使い勝手と言えば、従来モデルでは画面操作で3階層を辿らなければならず不評だったドライブモードの切り替えボタンが常設されたのもトピック。そのほかにもセンターコンソールに設けられていたスマートフォンのワイヤレス充電器の位置を前方に移設したことでスペース効率が向上したり、エアコンの吹き出し口を縦型に変更することで最新のボルボ車とデザインを統一したりと、細かいところまで手が加えられた。


インテリアで「さすがボルボ」と感心させられたのが、サステイナブル素材を積極的に取り入れていること。改良によって直線的な形状になったダッシュボードのデコパネルには100%リサイクル素材を採用するほか、エントリーグレードのシート表皮では本革を廃止し、松脂やリサイクルPETなどが原料の「ノルディコ」に変更された。また、上級グレードにも100%リサイクルポリエステルによる布製シートの「ネイビー・ヘリンボーンウィーブ・テキスタイル」を設定するなど、旧来の高級車の固定概念にとらわれない先進的な取り組みが実現している。

XC90のパワートレインは、マイルドハイブリッド(MHEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)の2種類。どちらもエンジンは排気量2.0Lの直列4気筒ターボだが、前者は最高出力250PS/最大トルク360Nm、後者は同317PS/400Nmとスペックが異なる。
今回の改良ではMHEVのエンジンがミラーサイクル化され、5.3%ほど燃費が向上した。一方、PHEVの方はキャリーオーバー。というのもPHEVはすでに3年前、バッテリー容量の増大(11.7kWh→18.8kWh)やISG(モーター機能付き発電機)、リヤモーターの出力強化といった大掛かりな改良が行われていたからだ。その結果、0-100km/h加速5.3秒、EV走行レンジ73kmを実現。燃費も13.3km/Lと、MHEVモデルより約10%優れている。

今回の試乗車は、XC90の販売割合のうち約3割を占めるというPHEVだ。出発時はバッテリー容量が十分残っていたので、街中ではエンジンの助けを借りることなくモーターで走行したが、電動ならではのスムーズさを実感することができた。
XC90で特に好印象だったのは、その静けさだ。ピラー内に発泡充填材を、エンジンルームと車内の間のファイヤーウォールにも遮音材を追加したことで、外部からの騒音の侵入を低減。さらにPHEVでは逆位相の音を出して騒音を打ち消すアクティブノイズキャンセレーションも搭載しているとのことで、それも効いているのだろう。静粛に包まれた車内で、スピーカーメッシュ・デザインが一新された「Bowers & Wilkinsハイフィデリティ・オーディオシステム」から流れる音楽に耳を傾けながらドライブを楽しんでいると、まるでサウナに入った後のように「ととのった」気分になってしまった。あぁ、極楽極楽。
PHEVではエアサスペンションが標準装備となっている。これは従来型からの継承だが、新型も引き締まってはいるけれどゴツゴツしない、アルデンテな乗り心地が味わえる。275/35R22という大径かつ低扁平タイヤを履いているとは思えない穏やかさだ。これも極楽ドライブを実現する要素のひとつだ。
ちなみにMHEVでは、今回から標準サスペンションにフリクションDダンパー(周波数感応型ダンパー)が新採用されている。

なお、PHEVでは設定によって回生ブレーキを強化した「ワンペダルドライブ」も可能だ。アクセルのみで加減速をコントロールでき、XC90の場合は停止まで行ってくれるのがうれしい。アクセルオフするとギクシャク感が気になってワンペダルドライブがしづらい車種もあるが、XC90はそのあたりの制御も巧みで、積極的にワンペダルドライブを活用しようという気になる。
最新のPHEVらしいな、と感心させられたのは、Googleマップと連携する「ビークルエナジーマネジメント」機能を搭載すること。目的地までのルートを分析し、高速道路などではエンジン走行を優先し、降りた先でEV走行できるように電力を温存するなど、トータルで燃費を最適化してくれる。EVやPHEVを選ぶ際は、カタログスペックや価格だけではなく、こうしたバッテリーの制御や充電に関する機能がどれだけ豊富かもチェックしておきたいもの。その点、XC90のPHEVはさすがの充実ぶりだ。

ボルボは従来、「2030年までに100%EV化」という目標を掲げていたが、昨今の情勢を踏まえ、その移行時期を後ろ倒しにすることを発表した。ただし、「2040年までに温室効果ガス(GHG)排出ゼロの企業になる」という中長期目標は不変で、2030年時点での目標として「BEV+PHEVで全体の90〜100%を構成する」としている。そうした過渡期にあり、PHEVの存在価値にあらためて注目が集まっている今、XC90は実にタイムリーなマイナーチェンジを行ったと言えるだろう。
ボルボXC90 Ultra T8 AWD Plug-in hybrid
全長×全幅×全高:4955mm×1960mm×1775mm
ホイールベース:2985mm
車重:2300kg
サスペンション:Fダブルウイッシュボーン式/Rマルチリンク式
駆動方式:AWD
エンジン
形式:直列4気筒DOHCターボ
排気量:1968cc
ボア×ストローク:82.0mm×93.2mm
圧縮比:10.3
最高出力:317PS(233kW)/6000rpm
最大トルク:400Nm/3000-5400rpm
燃料供給:電子燃料噴射式
燃料:プレミアム
燃料タンク:71L
フロントモーター:T57型交流同期電動機
定格出力:32.5kW
定格電圧:450V
最高出力:52kW/3000-4500rpm
最大トルク:165Nm/0-3000rpm
リヤモーター:TZ220型交流同期電動機
定格出力:99.0kW
定格電圧:470V
最高出力:107kW/3280-15900rpm
最大トルク:309Nm/0-3280rpm
駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
電圧:369V
容量:51Ah
総電力量:18.8kWh
トランスミッション:8速AT
燃費:WLTCモード 13.3km/L
市街地モード10.5km/L
郊外モード:14.4km/L
高速道路:14.3km/L
EV走行換算距離:73km
タイヤサイズ:275/35R22
車両本体価格:1294万円
