6月29日締切!価格は800万円以上!? 500台限定のスバルS210の抽選に応募する?しない? 8年ぶりのSシリーズにその価値はあるか……

スバルは2025年1月に開催された『東京オートサロン2025』にて、STIコンプリートカー「S210」を発表。限定500台となるこのモデルは抽選販売となり、5月下旬より応募受付を開始している。いよいよ6月29日の応募締切も迫りつつあるが、改めてこの8年ぶりの「S」シリーズを眺めてみよう。 PHOTO:OPTION/MotorFan.jp/SUBARU

https://motor-fan.jp/mf/article/327826
S210の概要やディティールについてはこちら。

ベース車両のWRX S4 STI Sport R EXに乗ってみる

S210に試乗する前に、比較用にWRX S4 STI Sport R EXに試乗する。別の機会で今回の試乗コース以外、一般道などでも乗ったことはあるが、現代的なハイパフォーマンスモデルとして印象はとても良かった覚えがある。

試乗車はS210(手前)に加え、WRX S4 STI Sport R EXが持ち込まれた。

試乗コースは舗装の良いクローズドコース。メインストレートとワインディングを組み合わせたようなレイアウトで、アップダウンもなかなか激しい。
そのようなコースでWRX S4は水を得た魚のようだ。スポーツモデルらしいハンドリングと傾斜をものともしないパワー。AWDがもたらず圧倒的安定感。スバルが標榜する”安心と楽しさ”を高次元で堪能できる。

S210のベース車両となるWRX S4。試乗車のグレードはSTI Sport R EXだった。

筆者は根っからのMT”狂信者”であることをあらかじめ宣言しておくが、やはり気になった点はCVTだった。クラッチが無いのは仕方ないにせよ、Dレンジでの走行はもちろん、マニュアルモードを使用しても慣れや感覚、ドライバーの技量不足の問題かもしれないが、始終リズムが合わせにくかった。狙ったところで狙ったギヤとエンジン回転数に合わせられないのだ。

WRX S4のCVT「スバルパフォーマンストランスミッション」とFA24型ターボエンジンとの組み合わせは、実は高く評価されているという。

また、SI-DRIVEも「i」モードは試乗コースを走るには大人しすぎ、「Sモード」でも物足りず「S♯」でようやく良いフィーリングが得られた。とはいえ、あくまでこの試乗コースでの印象であり、一般道を走る分にはCVTもSI-DRIVEも不満はない。ハンドリングやクルマの動きが良かっただけに惜しいと感じた部分である。

試乗コースでこそ不満は出たが、ハイパフォーマンスセダンとしてよく出来たクルマである。

まさにベース車両の上位互換!さらに引き上げられた”安心と愉しさ”のレベル

結論から言ってしまえば、S210はWRX S4のまさに正しく”上位互換”であった。
走り出してすぐにもわかるあらゆるリニアリティの向上。開発内容で謳われる微小舵応答性はWRX S4よりも明らかにリニアだし、エンジンのレスポンスも鋭さを増している。それでいて神経質なところはなく、あくまで自然なフィーリングが保たれている。

ストレートでコースの制限速度まで加速するにしても、WRX S4は「ちょっと頑張って踏もうか」という感じだったのに対し、S210は自然にしかも素早く狙った速度まで加速でき、ともすれば行きすぎてしまいそうなくらい。コーナーからの脱出でもアクセルワークに対してリニアに回転と速度が上昇する。

コーナー枠でも懐の深さを感じさせる。ロールを抑えた硬めのセッティングではなく、あくまで自然にロールさせつつドライバーに不安を感じさせない粘り腰を見せる。コーナーリング中に曲率が変わるような回り込んだブラインドコーナーでも、ステアリングを切り足すだけで狙ったラインにクルマを乗せられる。そもそも見えているコーナーであればほぼ一発でステアリングの舵角を決められるので、足すにしても戻すにしても修正舵が必要になるケースが少なかった。

ちょっとオーバースピード気味にコーナーに進入してしまっても、修正は容易だ。ステアリング操作でも、コーナーリング中のブレーキでも、少なくとも試乗コースの路面と制限速度では破綻する気配すら微塵も感じられない。逆にどうやったら破綻させられるのか疑問に思うほど。
まさにスバルの標榜する”安心と愉しさ”がよりハイレベルで実現されている。

S210はスバルパフォーマンスミッションの完成形

S210のSI-DRIVEは「i」「S」「S♯」のどのモードでも試乗コースをそのモードが意図している質感で走ることができた。この点は「S♯」以外は何か物足りなかったWRX S4との大きな違いとして感じられた。

出色はCVT「スバルパフォーマンストラスミッション」の出来映えである。WRX S4のイメージを引きずっていたが、それは一瞬にして消し飛んだ。Dレンジの制御があまりに的確かつスピーディなのだ。加速でもコーナー進入時の減速でも、ほぼ自分のイメージしていた通りにシフトダウン・シフトアップが行われる。

WRX S4と同じようにマニュアルモードでも走ってみたが、正直言って自分でギヤをマニュアル操作するよりもDレンジ任せにした方がギヤ選びは的確だった。自分より明らかに上手いのだ。

そもそも、世界的にはむしろハイパフォーマンスカーこそ2ペダル化の趨勢にあり、S210が2ペダルであることも時代的には当然なのかもしれない。

久保凜太郎選手と佐々木孝太選手に話を伺った際も、両選手とも一応マニュアルモードも使ってはみたものの結局ほとんどDレンジで走ったそうだ。レーシングドライバーも納得の制御である。

試乗コースを走る久保凜太郎選手。同乗でレーシングドライバーがS210をドライブするところを拝見。

マニュアルトランスミッションを3ペダルとシフトレバーを駆使して走るのは楽しい。しかし、ハイレベルに研ぎ澄まされたS210のハンドリングを楽しむなら、アクセル・ブレーキ・ハンドルだけに集中するというのもひとつの方法論として”アリ”だと思えた。

ハイパフォーマンスカーではその頂点とも言えるレーシングカーこそ早くから2ペダル化されてきた。シフトチェンジに煩わされることなく、アクセル・ブレーキ・ステアリングに集中できる方がタイムが刻めるというわけだ。

MT狂信者の個人的な主観は横に置くとして、CVTのS210はSTIコンプリートカーの開発コンセプトである高次元の「誰がどこで乗っても意のままに」が見事に体現されていた。
もういっそ、スペシャルなシートやエクステリア/インテリアの加飾、高級オーディオなどは無くても良いのでエンジンやCVT、足まわりなどのシャシーワークはS210をWRXの標準にして欲しい。それくらいノーマルのWRX S4が霞んでしまう……S210はそんな仕上がりだった。

WRX S4 STI Sport R EX(左)とS210(右)。WRX S4のS210と比べると落ち着いた佇まいも良い感じ。

欲を言えば、このS210のハンドリングを、エンジンレスポンスを、3ペダルMTで味わってみたいと思うMT狂信者であった。

最新と最古のSTIコンプリートカー

S210は最新のSTIコンプリートカーである。では最古のコンプリートカーは?試乗会で配布された資料では1998年発売のインプレッサ22B STIバージョンが最初に記されていた。
しかし、さらに遡ると1994年に同じくGC8型(ワゴンGF8型もあり)インプレッサWRXに改造車検扱いだったメーカーチューンのインプレッサWRX STiバージョンがあった(後のSTiバージョンのシリーズには数えられていない)。

インプレッサ22B STIバージョン
インプレッサWRX STiバージョン(写真はワゴン)

実はまだ遡ることができて、1992年に当時人気絶頂にあった初代レガシィツーリングワゴン(BF5型)にSTiバージョンが限定発売されている。さらに初代レガシィには……厳密に言えば違うのかもしれないが……もうひとつSTIコンプリートカー的なモデルがそれより前に存在した。

初代レガシィツーリングワゴンの後期型で追加されたブライトン220。フロントグリルはSTiバージョンと同形状だった。

初代レガシィのトップグレードであるRSを競技ベース車として販売するにあたり、専用サスペンションなどのSTI製の競技パーツやパフォーマンスパーツを組み込んだRSタイプR、のちには職人が手組みしたコンプリートエンジンまで搭載したRSタイプRAがそれだ。

初代レガシィのトップグレードだったRS(BC5型)。
最初の競技ベース車両だったRSタイプR。装備の簡略化による軽量化に加え、強化サスペンションなどのパフォーマンスパーツなどが組み込まれた。
さらにSTiによる手組みのエンジンを搭載するなどしたRSタイプRAを追加。サイドのステッカーが「Handcrafted by STi」になっている。

おそらくこのレガシィRSタイプR/RAがSTI最古のコンプリートカーになるのではないだろうか。STIオフィシャルサイトのコンプリートカーヘリテイジページは22Bから始まっているので、公式の見解ではないのかもしれないが。

STIオフィシャルサイトのヘリテージページ。コンプリートカーは1998年のインプレッサ22B STIバージョンから始まる。

そんなレガシィRSタイプRAとS210を乗り比べてみると、流石に約35年の時間経過に伴う進化や品質は如何ともし難いものがあるが、その根底にあるドライブフィール、特にリニアで素直なハンドリングには相通じるものをあるように感じられた。

初代レガシィRSタイプRAとS210。オレンジのクルマはWRX S4 STI Sport R EX。

もちろんレガシィRSタイプRAは30余年を経た個体でコンディションも新車当時には及ぶべくもなく、古いクルマゆえのダイレクト感や荒々しさに魅力を感じることを除けば、S210はたとえトランスミッションがCVTだったとしてもレガシィRSタイプRAの上位互換であると思えた。

初代レガシィRSタイプRA。S210に比べて小さく低いボディと300kg軽い重量は現代のクルマには望めない美点ではある。

そこには初代レガシィの開発に携わり、後のSTIコンプリートカー開発を主導した辰己英治氏……すでに2024年にスバル/STIを勇退しているものの、その精神は後進にしっかりと受け継がれているのだな、と強く感じさせたのである。

ただし、初代レガシィRSタイプRAはS210の試乗会場となったコースは走っていないし、逆にS210も試乗会場以外は走っていないので、同条件での比較ではない点は留意いただきたい。
車名S210WRX S4レガシィ
ボディタイプセダン
グレードSTI Sport-R EXRS type RA
全長4690mm4670mm4510mm
全幅1845mm1825mm1690mm
全高1465mm1465mm1395mm
室内長1925mm1875mm
室内幅1515mm1415mm
室内高1205mm1155mm
ホイールベース2675mm2580mm
最小回転半径5.6m5.3m
トレッド(参考値)F:1575mm
R:1585mm
F:1560mm
R:1570mm
F:1465mm
R:1455mm
最低地上高135mm
乗車定員5名
重量(参考値)1630kg1610kg1290kg
エンジンFA24型
水平対向4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
EJ20G型
水平対向4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
排気量2387cc1994cc
最高出力300ps/5700rpm275ps/5600rpm220ps/6400rpm
最大トルク375Nm/ 2000-5600rpm375Nm/2000-4800rpm269.7Nm/4000rpm
燃料/タンク容量ハイオク/63Lハイオク/60L
サスペンションF:ストラット
R:ダブルウィッシュボーン
F・R:ストラット
ブレーキF・R:ベンチレーテッドディスク
ホイールサイズ19インチ×9.0J18インチ×8.5J15インチ×6.5J
タイヤサイズ255/35R19245/40R18205/60R15
駆動方式フルタイム4WD(VTD)フルタイム4WD
トランスミッションCVT(スバルパフォーマンストランスミッション)5速MT
スペック比較(参考)。S210はプロトタイプ。