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「軽い・速い・安い」の3大原則
クルマという存在が多種多様なニーズに応えるため、なんでもできる便利なツールになって久しい。まるでパソコンやスマホのように機能はどんどん増えていき、誰が運転しても便利に使えるようになると同時に致命的なネガは見当たらなくなった。ひと昔前のクルマ雑誌ではトラブルが発生することを前提とした長期レポートが人気だったが(特に輸入車)、現代のクルマはノートラブルかつフレンドリーで面白味がない、と昭和のオジサンは少し物足りず残念な気分にもなる。基本的に昭和のクルマ好きはMなのだ。
しかしノートラブルでフレンドリーなクルマは、自分を筆頭に資金力に不足がある庶民にとっては歓迎すべきこと。運転時に特別な技術は不要で、壊れないからメンテナンス費用は抑えられ、昔だったらお金で買っていたクルマの蘊蓄や情報もネットで簡単に拾える。そんな今だからこそ、高嶺の花だったスポーツカーを気軽に選べるというものだ。中でも本格的なスポーツカーの代名詞と言える、エンジンを背負ったミッドシップモデルは、以前なら趣味性が高くて(運用シーンが限定され、整備性は低い)なかなか手を出しにくかったが、今なら誰もが気軽にお買い物リストに加えられる。
とはいえ、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレン、ブガッティなど名だたるスポーツカーブランドからリリースされている「スーパースポーツorハイパースポーツ」カテゴリーのミッドシップモデルはお値段もスーパー。今や億超えのモデルも珍しくない。性能だってスーパーだから、ポテンシャルを発揮できるシーンはサーキットだけと言っても過言ではないだろう。
そこで原点に帰る。スポーツカーとは、批判を覚悟して言うなら、軽ければ軽いほどエライのだ(暴論)。どんなにハイパワーなエンジンを積んで速く走るためのギミックを満載し、高価なパーツを使っていても、クルマは物理法則に逆らえない。かのアインシュタインも「E=mc2」とスポーツカーを定義しているし(ウソ)、古事記にも書いてある(大ウソ)。従って今選ぶべきミッドシップスポーツは「軽い・速い・安い」の3大原則を貫いた、ライトウェイト・スポーツであると主張するものである。
大昔のライトウェイト・スポーツは、それなりに覚悟が必要だった。軽さを正義とするため各パーツの耐久性は二の次になって壊れやすかったり、快適装備が省略されて天候次第でドライブがゴーモンになったり、運転する本人ばっかり楽しんで同乗者に愛想を尽かれたり。しかし! 現代のライトウェイト・スポーツはそんなこととは無縁・・・とまでは言い切れないものの、ほぼ理想のカーライフを楽しめるクルマに仕上がっている。
EV化が進むこのご時世、ひょっとしたら今の内燃機を積んだライトウェイト・スポーツより軽量で楽しく安価なモデルは誕生するかもしれない。それを待つのもひとつの手だが、熟成された今の内燃機式ライトウェイト・スポーツは旬を迎えていると思う。前置きが長くなったが、自分が欲しい今買えるライトウェイト・スポーツ3選を紹介する。
運転中、ニヤニヤが止まらないアルピーヌ A110
1世紀に突如復活して話題を呼んだアルピーヌ A110。往年の名車・A110のコンセプトとイメージを見事に昇華させたライトウェイト・スポーツであり、まずは見た目から超ストライク。異径4連ヘッドライトを備えたフロントスタイル、あえてスタイリングを優先させてスポイラー類を備えないナローなリヤスタイル、そのどれもが「ザ・ライトウェイト・スポーツ」の趣だ。
パワートレインは1.8リッター直4ターボと7速DCTの組み合わせで、基本ラインナップは最高出力252psのA110と同292psのA110Sを揃える。車両重量はA110Sが1110kgを計上し、エリーゼには及ばないものの充分にライトウェイト・スポーツと呼べるスペック。
まず動き始めから「これは違う」と実感できる。タイヤのひと転がりで車体の軽さを感じ取れ、10メートル進んで顔が二ヤついてくる。アクセルペダルとエンジンが寸分のタイムラグもなく直結して進むこの感覚、価格が何倍もするスーパースポーツモデルと遜色ない。そして真骨頂はやはりワインディングにおける身のこなしだろう。クイックに反応するステアリングが頭に描いたラインを正確に縫い、次のコーナーが待ち遠しくなる。スポーツの醍醐味がそこに存在する。
もし運転している顔を傍から見られたら、さぞやキショイと思われていることだろう。終始ニヤニヤしているのは自分でも自覚できるレベルでドライブが楽しい。試乗した7速DCTでこれだから、これがマニュアルトランスミッションだったら絶頂していたかもしれない。オススメは若干パワフルなA110Sだが、無印A110でも楽しさの度合いは変わらない。欲しい・・・。
一度は乗っとけロータス・エリーゼ
2021年、ついにこの時が来た。近代ロータスの礎を築いたエリーゼは生産を終了した。振り返れば20世紀末に発表され、時代に逆行するようにミッドシップレイアウトのライトウェイト・スポーツをリリースしたロータスは、それしか生き残る術が無かったとはいえ、大きな賭けだったと思う。いや、それこそクルマ好きの本心を探り当てたロータスのマーケティングが勝利したのだろう。
現代の肥大化する一方の軽自動車でさえなかなか見られないアンダー1000kgのボディ(エリーゼ スポーツ240 ファイナルエディションで922kg!)にトヨタ製1.6リッター直4エンジンを搭載し、6速マニュアルトランスミッションで操る快感は筆舌に尽くしがたい。特にワインディングを泳ぐように走らせることができたときの楽しさは、これぞライトウェイト・スポーツだ! と心の中で喝采を挙げること間違いなし。
シリーズ1はやや粗削りなところがあったが(それも魅力と言える)、モデルライフを経るに従って特に快適性を中心に細かなネガは一掃された。使い古された感想だが「まるで自分の腕があがった」ように感じるのは紛れもない事実だ。絶対速度は高くないが、低く構えたドライブポジションによって体感速度はスピードメーターがバグったように感じられる。乗り降りのしやすさは良好ではないものの、カーライフが苦になるほどではない。それよりも人車一体感という、日常生活では得難い快楽を満喫できる。
最終モデルのエリーゼ スポーツ240ファイナルエディションがお勧めだが、新車を手に入れるのは少々難しいかもしれない。それでも市場には多くはないがユーズドカーが流通している。注目したいのはその価格。新車価格との差が少ないのが見て取れるはずで、つまりもし手放すことになったとしてもリセールバリューが非常に高いモデルだということ。一説にはそのバリュー、フェラーリ並みとも・・・。
文句なし! ポルシェ 718 ケイマン
「718 ケイマンをライトウェイト・スポーツと呼んでいいの?」との声が聞こえてきそうだが、絶対重量がすべてではない!と抗弁したい。確かに前記の2台と比較すれば少々重いし(718 ケイマンで1340kg)、ステアリングのヒラヒラ感はどっちかと言えば手応えがある部類だし、ライトウェイト・スポーツに付きもののプリミティブ感は皆無だし・・・あれ?
いやいや、ミッドシップレイアウトに起因するお尻の下から旋回して軽々とコーナーをクリアしていくフィーリングは間違いなくライトウェイト・スポーツのそれ。911の「よっこらしょ」という感じとは一線を画し(一般的な速度での話しですよ)、充分以上にライトウェイト・スポーツ感を楽しめる。
718シリーズはケイマン以外にボクスターやスパイダーという選択肢もある。本音を言えばスパイダーがマイベストだが、お値段がね・・・。あくまでも「軽い・速い・安い」の3大原則を全うするなら、ここはケイマン一択。さすがポルシェ!という完成度の高さ、信頼感、理詰めのクールさなどなど、エリーゼやA110に勝るとも劣らぬ魅力が満載だ。
伝統の水平対向エンジンが4気筒ターボになって、そこをネガと捉える人もいるかもしれないが、長い目で見れば部品点数の少なさは維持費に有利に働いてくるから悪いことではない。個人的にはどんどん大きくなる911シリーズより、718シリーズの方がポルシェでは買いだ。911シリーズより全然安いし。楽しさと価格を鑑みたコストパフォーマンスは、ライトウェイト・スポーツの括りだけでなく、すべてのスポーツカーの中でもトップ10に入ると思っている。