三菱アウトランダーPHEVの4WD性能を雪上で満喫!ツインモーター4WDの実力は想像を超える

三菱アウトランダーPHEV P 車両本体価格:532万700円
三菱自動車のアウトランダーPHEVに乗り、針路を北にとった。
求めたのは“雪”である。雪の上でアウトランダーPHEVの性能を確かめたかったのだ。
TEXT:世良耕太(SERA Kota) PHOTO:小林直樹(KOBAYASHI Naoki)

車両運動統合制御システム、S-AWCとはそもそもなに?

南会津の前沢曲家集落にて

アウトランダーPHEVはその車名が示すとおり、プラグインハイブリッド車だ。しかし三菱自動車はあえて、「プラグインハイブリッドEV」と表現している。走りの基本はEVだからだ。20kWhもの容量がある(先代は13.8kWhだったので、45%も増えている)バッテリーのエネルギーを使いきったら、エンジンを始動して発電し、バッテリーに充電しながらモーターで走る。エンジンの動力で走行してモーターがアシストするモードも備えているが、例外的と考えていい。走行状況やバッテリー残量に応じてシステムが自動でモードを切り換えてくれるので、ドライバーはモード切り替えを意識する必要がないし、モードの切り替わりを感じることもない(と言って言いすぎなら、感じにくい)。

アウトランダーPHEVは航続距離を気にする必要のないEVと捉えることもできる。それも、とことん走りを意識した。三菱は「ツインモーター4WD」と呼んでいるが、アウトランダーPHEVは高出力のモーターをフロントとリヤにそれぞれ搭載して4輪駆動(4WD)を実現している。フロントモーターの最高出力が85kWなのに対し、リヤモーターの最高出力は100kWでリヤのほうが大きいのは、運動性能を最適化する観点からだ。

エンジン 形式:2.4ℓ直列4気筒DOHC 型式:4B12MIVEC 排気量:2359cc ボア×ストローク:88.0×97.0mm 圧縮比:11.7 燃料供給:PFI 最高出力:98kW/5000pm 最大トルク:195Nm/4300rpm 燃料:レギュラー 燃料タンク:56ℓ

前後のモーターはトルクを適切に配分するだけでない。アウトランダーPHEVはブレーキ制御によって左右輪間の駆動/制動力を最適に制御して高い旋回性能と走行安定性を実現するアクティブ・ヨー・コントロール(AYC)や、横すべり防止装置として機能するアクティブ・スタビリティ・コントロール(ASC)、さらに、ブレーキのロックを防ぐABSを統合的に制御するシステムを搭載している。

これがモードを切り替えるセレクター

車両運動統合制御システム、S-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)だ。ドライバーの意のままに、操舵どおりにクルマが遅れなく動くことを目指したシステムである。これが実現すれば、ドライバーはクルマを運転していて楽しいし、思いどおりに動けば、(雪道のような)悪条件でも安心して安全に走れる。クルマがドライバーのイメージどおりに曲がれば、ステアリングの切り増しによって大きくロールすることもないので揺れが少なく、同乗者も快適に過ごせる。

本当にそうなのかどうか確かめるのも、今回のロングドライブの目的だった。アウトランダーPHEVにはまだ特徴があり、ドライブモードにも触れておかなければならない。シフトセレクターの手前にドライブモードセレクターがあり、運転スタイルや路面状況に合わせて7つのモードに切り換えることができる。

通常使用するのは「NORMAL」で、運転スタイルに合わせて選ぶモードは「ECO」と「POWER」だ。大まかに言ってパワー感の切り換えで、弱=ECO、中=NORMAL、強=POWERのイメージである。

これがパワーモードの「後ろ姿」

路面状況に応じて選べるモードは4種類ある。キビキビと元気に走り回るのに適した「TARMAC」と、砂利道などの未舗装路に適した「GRAVEL」、雪道などの滑りやすい道に適した制御を行なう「SNOW」、ぬかるんだ路面や深雪での脱出性を重視した「MUD」である。各モードは走行中でも切り換えることが可能。モード切り替え時はフル液晶のメーター中央部に走行シーンがイメージできるイラストが表示されるので、直感的なセレクトの役に立つ(なぜ、POWERだけ後ろ姿?)。

東北自動車道を北上するアウトランダーPHEV。車内の静粛性はとても高い。

カタログ上のEV走行換算距離(WLTCモード)は83kmだ。東京を起点に福島県の高畑スキー場周辺を目指したので、ストレートに向かえば片道およそ250kmの行程になる。東北自動車道を北上中にEV走行に必要な電気エネルギーは使い果たし、エンジンが始動して発電しながらの走行になった。西那須野塩原ICで高速を降り、国道400号線を走って塩原を抜け、国道121号線をたどって会津高原方面に向かう。

バッテリー残量が減っても、停止時からの発進は必ずEV走行になる。車速が高まるのを待つように発電のためエンジンが始動するが、エンジン音が乗員の耳に届かないようにする配慮(遮音や吸音)が行き届いているため、EV走行時とエンジン始動時のフィーリングは変わらない。音も変わらないし、アクセルペダルを踏む足の裏から伝わるフィーリングも変わらない。「いま、エンジンかかっているんですよ」と後席の乗員に話しかけると、「え、そうなの?」と予想どおりの答えが返ってきた。自分が開発したクルマではないのに、なんだか誇らしい気分になる。きっと、次に別の乗員を招き入れた際も、同じようなやりとりをするだろう。

雪上ドライブを存分に楽しめるS-AWC

雪上でも自信を持ってドライブできる。

塩原を過ぎ、会津高原に差し掛かったところで雪が目立つようになってきた。北西に移動するにつれ、路肩だけにあった雪はところどころ道路を覆うようになってきた。ヒヤッとするのはトンネルを抜けた後の下り勾配で、日陰になった路面に硬そうな雪が残っているような状況だ。カーブしていようものならなお質が悪い。しかし、恐る恐る通過してみればなんのことはない。ガシガシと硬い雪を踏みしめる感触を伝えるだけで、アウトランダーPHEVは乗り手を不安にさせるような挙動を見せずに通過する(ブリヂストン・ブリザックDM-V3のスタッドレスタイヤを装着)。

ドライブモードでNORMALを選択していても、アウトランダーPHEVは後輪にトルクを配分しており、常に4WDで走っている。直進安定性を確保するためだ。ただ、燃費/電費を考えて配分は理想よりやや弱めに設定されている。もう少ししっかりした走り味が欲しいときは、TARMACを選ぶといい。本来は乾燥路向けのモードだが、後輪へのトルク配分が増すため安定感が増す。同時に回生ブレーキのモードが最強になるため、アクセルペダルオフによるスピードコントロールがしやすくなる(その他のモード選択時、パドルでも調節可能)。

南会津町の峠で雪道の走りを堪能した。路面は圧雪。外気温は氷点下のため雪は引き締まっており、スタッドレスタイヤのブロックやサイプはしっかり食い込んでくれそうだ。幸いにも交通量はまったくといっていいほどなく、ほぼ貸し切り状態である。偏りすぎと指摘されるかもしれないが、筆者の好みはやはりTARMACだ。NORMALから右にワンクリックしてTARMACに切り換えた途端、エンジンが始動して戦闘モードになる。最大システム出力の185kWを引き出す準備が整ったということだ。4WDは旋回性を重視した制御になり、旋回立ち上がりで意図して少し強めにアクセルペダルを踏み込むと、お尻を降り出すような素振りを見せる。

ちょっとした遊びに興じても一切不安がないのは、車体がしっかりしているからだ。ステアリングにしてもアクセルにしても、操作に対するクルマの反応が忠実で、思った以上に動いてしまうとか、曲がらないとか、止まらないといったことがない。狙い以上の動きを見込んで早めに操作するとか、スペースに余裕を見てコーナーに進入するといった気遣いは無用(ドライブモードを問わない)。だから、安心して運転できるし、存分に走りが楽しめる。

よくよく考えて見れば、アウトランダーPHEVは3列シートを備えた大柄なボディだし、車重は2トンを超えているが、大きさも重さも一切感じさせないというのが、雪の峠道を含んだロングドライブを経験してみての感想だ。クルマに鞭をくれたときは引き締まった肉体を持つアスリートの俊敏性を披露し、一般道や高速道を巡航するときは、巡航高度に達して水平飛行しているときの旅客機のような、フラットな乗り心地を提供する。旅客機とアウトランダーPHEVで徹底的に異なるのは、静粛性だ。仕立てのいいインテリアも効いて、アウトランダーPHEVは静かで居心地のいい上質な移動体験を提供してくれる。

三菱アウトランダーPHEV P
 全長×全幅×全高:4710mm×1860mm×1745mm
 ホイールベース:2705mm
 車重:2110kg
 サスペンション:Fマクファーソンストラット式&マルチリンク式 
 駆動方式:ツインモーター4WD
 エンジン
 形式:2.4ℓ直列4気筒DOHC
 型式:4B12MIVEC
 排気量:2359cc
 ボア×ストローク:88.0×97.0mm
 圧縮比:11.7
 燃料供給:PFI
 最高出力:98kW/5000pm
 最大トルク:195Nm/4300rpm
 燃料:レギュラー
 燃料タンク:56ℓ
 フロントモーター
 型式:S91
 最高出力:85kW(定格出力40kW)
 最大トルク:255Nm
 リヤモーター
 型式:YA1
 最高出力:100kW(定格出力40kW)
 最大トルク:195Nm
 リチウムイオン電池
 総電圧:350V
 総電力量:20kWh
 燃費:ハイブリッド燃料消費率WLTCモード 16.2km/ℓ
  市街地モード 17.3km/ℓ
  郊外モード 15.4km/ℓ
  高速道路モード 16.4km/ℓ
 EV走行換算距離(等価EVレンジ):83km
 車両本体価格○532万0700円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…