「最高にちょうどいいホンダ」
ヴェゼルをドライブするのは2021年5月に行なわれた新車広報試乗会以来。フィットベースのSUVという成り立ちなのだが、フィットとヴェゼルでは乗り味がだいぶ違う。両モデルとも現行では、従来の1モーターハイブリッド(i-DCD)に換えて、2モーターのe:HEV(従来はi-MMDと呼んでいた)を採用している。もちろん、ノンハイブリッドのコンベのモデルも用意されているが、主力はどちらもハイブリッドモデルである。
乗り味が違う、と書いたのは、ヴェゼル、そしてシビックからホンダのクルマ作りが良い意味で変わってきたように感じるからだ。デザインも身のこなしもヴェゼルから変わったと思う。
そのおかげもあってか、ヴェゼルの販売は好調だ。
2021年1-12月の国内販売台数は
ヴェゼル:5万2669台
フィット:5万8780台
となっていて、ほぼフィット並み。
2021年度(2021年4~22年3月)となると
ヴェゼル:5万9674台
フィット:5万5947台
とヴェゼルの方が売れている。
BセグSUVのライバルは、といえば
ヤリスクロスはヤリスの中に含まれているから実際の販売台数はわからない。日産キックスは2万9622台、マツダCX-3は7839台だから、やはりヴェゼルは好調なのだ。
主力グレードのe:HEV Z(FF)モデルを借りだして数日間生活をともにしてみてわかったことは、サイズも乗り味も燃費も使い勝手も絶妙なバランスでとても使いやすいということだ。
ヴェゼルのサイズは
全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm ホイールベース:2610mm
だ。
これが大きすぎず小さ過ぎず、ちょうどいいのだ。
ヴェゼルは、BセグとCセグの中間のサイズだ。
BセグSUVのヤリスクロスは
全長×全幅×全高:4180mm×1765mm×1590mm ホイールベース:2560mm
でCセグSUVのカローラクロスは
全長×全幅×全高:4490mm×1825mm×1620mm ホイールベース:2640mm
である。ほぼ同じサイズは
キックス
全長×全幅×全高:4290mm×1760mm×1610mm ホイールベース:2620mm
だ。
ちょうどいいサイズで、ちょっとだけ背が高い。だから視点も少し高くて自信を持ってドライブできる。おそらく、これまで5ドアハッチバックが担ってきたポジションをヴェゼルのようなコンパクトSUVが完全に押さえたということなのだろう。実際、高速道路でも市街地でも、本当に乗りやすい。フル乗車でのドライブ、ひとりの通勤、買い物、すべてにちょうどいいのだ。
その代わり、アウトドア感は薄いし、オフロード臭さも皆無だ。だから4WDでなくFWDでいい。5ドアハッチバックより乗り降りしやすく、運転もしやすい。しかもスタイルは威圧感がなくて洗練されている。価格はフィットより高いけれど、せっかくならヴェゼルにしたい、と思うのは、当然だ。
ラゲッジスペースは、さほど大きくない。家族4人で本格的なキャンプに出かけるには小さいだろう。でも、そういうシチュエーション以外で不自由を感じることはあまりなさそうだ。週末にスーパーマーケットに出かけて1週間分の食料を買い込んでも大丈夫。また、後席は横方向にはさほどでもないが前後方向にはかなり余裕がある。175cmのドライバーがポジションをとって後席に乗り移ってみると、膝と前席の背の間には20cm程度の余裕がある。
今回の試乗では長距離は走れなかったが、市街地、郊外路、高速道路を均等に200kmほど走ることができた。燃費は22.1km/ℓと優秀な値(WLTCモード燃費の89.1%)だった。以前、キックス(もちろんe-POWERだ)を試乗した際は、230km走って19.0km/ℓだった(正確な比較にはならないが)。
個人的には、流行のSUVよりセダンやハッチバックの方が好みなのだが、ヴェゼルのサイズなら(とくに全高1590mmは使いやすい。機械式駐車場には入らないかもしれないが)、あり、だと感じた。同じように多くの人が受け取るから、きっとヴェゼルは売れているのだろう。このサイズ、このパッケージング、この使い安さ、運転しやすさに慣れてしまったら、なかなか「次は背の低いクルマにしよう」とはならないだろう。
ヴェゼルに乗って、人気の理由がわかった気がするが、同時に「ヴェゼルの次にホンダ車に乗り換えるなら、どれになるの?」とも思った。CR-V(4605mm×1855mm×1690mm)へは行きづらい。ちょっとゴツイし……。きっと、ヴェゼルのユーザーは、ヴェゼルが気に入って乗っているだから心配することはないのだろうけれど。
ホンダ・ヴェゼル e:HEV Z(FF) 全長×全幅×全高:4330mm×1790mm×1590mm ホイールベース:2610mm 車重:1380kg サスペンション:Fマクファーソン式 Rトーションビームアクスル式 駆動方式:FF エンジン形式:直列4気筒DOHC+e:HEV(i-MMD) エンジン型式:LEC 排気量:1496cc ボア×ストローク:73.0mm×89.4mm 圧縮比:13.5 最高出力:106ps(78kW)/6000-6400rpm 最大トルク:127Nm/4500-5000rpm 過給機:× 燃料供給:PFI 使用燃料:レギュラー フロントモーター:H5型交流同期モーター 最高出力:131ps(96kW)/4000-8000rpm 最大トルク:253Nm/0-3500rpm バッテリー:リチウムイオン電池(60セル) 燃料タンク容量:40ℓ 車両価格:293万7000円