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AE86から始まったカーライフ
大学生でバイク乗りだった20歳の夏。バイトに精を出し秋には口座残高が60万円になった。「じゃあ、クルマでも買う!?」といつものバイク屋に相談しに行った。当時現行型の入門スポーツといえばフィットRSのマニュアルが人気。スイフトスポーツならZC31Sが登場したころだ。
フィットか中古のAE111か……プジョー306のMTも気になっていた(ちなみにここで306を買っていたら「Tipo」誌に履歴書を送っていたハズ)。
なにがいいかな、とフワフワ考えていたら、バイク屋のおじさんがクルマを探してきてくれた。そして「ごちゃごちゃ言わんとハチロク買え~!」と、あっさりAE86を買うことになった。
18年前の当時でさえ、すでにハチロクは5万円とか10万円ではなく、50万円は出さないと買えない存在だったから、「マジか! ハチロク買えちゃうなんてラッキー」と思っていた。
納車日に始めて対面したAE86はトレノ2ドアGT。ちなみに車体37万円で、車検2年とSEI(住友電工 現アドヴィックス)のブレーキパッド新品付きで60万円だった。
頭文字D世代の自分にはハチロクは憧れの存在だったが、トランク付きグレードがあるとは知らなカッタ……。「拓海と同じハッチバックが良かったナァ……」と心のなかで思ったけど、バイク屋のおっちゃんは怖すぎて、もちろん声にはできなかった。
そこからサーキット走行会に通うようになった。パワステレスでリジッド式のリヤサスが生むソリッドな乗り味は格別。自分の中のスタンダードは永遠にAE86のハンドリングなのだ。そう、やすやすと曲がらないからこそハチロクなのである。
ちなみに僕の調査では、ロードスターを乗り継ぐ人はずっとロードスターで、AE86の人はずっとAE86という傾向が強いように思う。
GR86の開発にも携わる佐々木雅弘プロは「AE86も雪山用に何台も買ったけど、結局ずっと持っているのはロードスター」。レーシングドライバーでありYou Tuberの大井貴之さんは、NBロードスターを何台も乗り継いでいる。AE86派はというと、GAZOO.comでAE86連載をしているジャーナリストの山田弘樹さんはず~っと何台もAE86。
似たような年式でどちらも1600ccのNAなのに、あまりオーナーが行ったり来たりしないのは、そのハンドリングのキャラが違いすぎるからだろう。
思わず買ってしまった86前期
取材でさまざまなクルマに乗る機会があるが、衝撃を感じたのは86前期だった。速すぎないエンジンにオーソドックスなボディと足まわりはAE86の雰囲気。そして、そのボディと足まわりが絶妙。ちゃんと運転すれば、ちゃんと曲がるクルマなのだ。これって当たり前に聞こえるが、クセの少ないクルマは、じつは意外と少ない。
86の良さは素直なところ。パーツが豊富で自分色に染められるところはたしかにハチロクである。
だからこそ、ロードスターはいまひとつ馴染めない。所有したこともあるし、歴代すべてが素晴らしいクルマであるのはわかるが、『ちょっと違う』のがロードスターシリーズ。
めちゃくちゃしなやかな足まわりで、荷重移動がしやすくドライビングの上達にピッタリなのは事実なのだが、荷重移動がしやすいのがちょっと馴染めない。
ハチロクはリヤサスがろくに動かないので荷重移動なんて大変なことである。だから、頑張って曲げようとする。それこそが「ハチロクはドライバーを育てる」と言われる所以だと思う。まぁ、ドライバーを育てるというか……そうでもしないと曲がれないのだ。
ハンドリングはステアリングを切ったぶんだけ曲がる。ステアリング切ったら曲がるの普通でしょ? と思われるが、「意のままに」というと、これまた当たり前ではないのだ。じつに素直に曲がっていく。そのコーナリングには爽快感がある。
僕はその時点ではS15シルビアに乗っていた。ターボパワーは充分。ボディも180SXから乗り換えると剛性もあり、じつに素晴らしく感じられた。
しかし、86のブレーキング時に強いGで減速できる足まわりとボディの性能、コーナリング時に素直に曲がっていく感覚は衝撃だった。「20年の差」をモロに感じさせられる出来事だった。
そこですぐに86前期を中古で買ったのだった……。次回に続く。