トヨタMIRAI 「水素っていくらですか?」「どのくらい入るんですか?」「1kgでどのくらい走るんですか?」

水素燃料電池車のトヨタMIRAI
トヨタMIRAI Z 車両本体価格:790万円 オプション込み価格:843万4600円 ボディカラー:フォースブルーマルティプルレイヤーズ16万5000円、245/45ZR20タイヤ+20×8 1/2アルミホイール カッパー加飾 12万 7600円、デジタルインナーミラー+パノラマルーフ 13万2000円など
いうまでもなくトヨタMIRAIは、水素燃料電池車(FCEV)である。燃料は水素。さて、水素はいくらするのか? MIRAIにはどのくらい積めて、どのくらい走れるのか?
TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎Motor-Fan
【トップ画像】トヨタMIRAI Z 車両本体価格:790万円 オプション込み価格:843万4600円 ボディカラー:フォースブルーマルティプルレイヤーズ16万5000円、245/45ZR20タイヤ+20×8 1/2アルミホイール カッパー加飾 12万 7600円、デジタルインナーミラー+パノラマルーフ 13万2000円など
水素充填口はリヤ左側。MIRAIには、多くのトヨタ系サプライヤーが関わっている。SiCパワー半導体はデンソー製。 水素循環ポンプとエアコンプレッサーは豊田自動織機製、高圧水素タンクは豊田合成製、高圧水素ステンレス鋼は愛知製鋼製、高圧水素供給バルブと減圧弁はジェイテクト製だ。

トヨタMIRAIに乗って都心のガソリンスタンドに入った。間違ったワケではなく、洗車のためである。きれいになったMIRAIを受け取るとき、店員さんは筆者に尋ねた。
「水素はどれくらい入るんですか?」と。
「5.6kgくらいですかね」と答えると、
「えっ、そんなもん?」と、驚きの表情を浮かべた。
「水素っていくらくらいするんですか?」
「1kg1100円で、1kgで100kmくらい走りますね」
「へえええええ」

2014年に発売された初代MIRAIの水素搭載量は約4.6kgだったが、2020年に発売された2代目MIRAIの水素搭載量は約5.6kgになった。水素搭載量を増やすのが、2代目MIRAIにとって重要な開発テーマだった。新しいMIRAIが20インチのホイールを履く(オプション。標準は19インチ)のは、水素搭載量を増やすためだ。


後輪駆動ベースのプラットフォーム、GA-Lを使う新型MIRAIのプロポーションは、伸びやかで美しい。

ピンと来なくて当然である。床下に搭載する水素タンクの直径を稼ぐために大径ホイールを採用したのだ。ホイールの径が大きくなれば、地面から車軸までの高さを稼ぐことができる。その前に、初代の前輪駆動から後輪駆動に切り換えた。プラットフォームは、レクサスLSやLSが使うTNGAのGA-Lプラットフォームを使う。

レクサスLSやLCはエンジンをフロントに搭載し、プロペラシャフトを使って動力をリヤに伝え、後輪を駆動する。2代目MIRAIは、空気中の酸素とタンクに搭載する水素を反応させて電気を取り出すFCスタックをフロントに搭載。リヤに搭載するモーターで後輪を駆動する。電気はケーブルで送ればいい。プロペラシャフトは必要ないから、その代わり、センタートンネルに64ℓの水素タンクを収めた。このセンタートンネルを水素タンクの収納スペースとして利用したかったので、GA-Lプラットフォームを採用したと言い換えてもいい。おかげで、しっかりした造りのサスペンションも手に入った。

タイヤ&ホイールは245/45ZR20タイヤ+20×8 1/2アルミホイール
FALKENのAZENIS FK510を履く。
サスペンション形式は、GA-LプラットフォームのレクサスLS/LC、クラウンと同じだ。
フロントとリヤサスペンションは、マルチリンク式

後席下に52ℓ、荷室下に25ℓの計3本のタンクで総容積は141ℓである。ガソリンなら105kg程度搭載できる容量だが、水素は70MPa(約700気圧)に圧力を高めた状態で貯蔵して、約5.6kgである。40ℓ(約30kg)とか50ℓ(約37.5kg)のガソリンと日常的に触れている人にとって、5.6kgと聞けば「そんなもん?」となるのは当然だ。そんなもんで500kmは走る。問題は水素の体積エネルギー密度が低いことで、5.6kgの水素を積むのに141ℓのタンク容量が必要なことだ。

初代が前輪駆動だったのに対して2代目は後輪駆動。レクサスLS、LCなどが使うTNGAのGA-Lプラットフォームを使う。
先代と2代目の水素タンクとFCスタックの配置の違い。新型(2代目)は水素タンクを3本積む。注目点のひとつは、新型の3つの水素タンクは径が同じになっていること。

大きなタンクを積もうと思ったら、いきおい大きなクルマにならざるを得ない。MIRAIはホイールもデカイが、図体もデカイ。全長×全幅×全高は4975×1885×1470mmである。初代MIRAIに対して、全長は85mm長く、全幅は70mm広く、全高は65mm低くなっている。初代MIRAIは着座位置が高い割に足の位置も高くて居心地が悪かったが、新型ミライはFCスタックを前席下から前車軸上に移したこともあって着座位置と全高を低くできている。運転席の着座姿勢に関して、まったく違和感はない。

全長×全幅×全高:4975mm×1885mm×1470mm ホイールベース:2920mm
トレッド:F1610mm/R1605mm 最低地上高:155mm
車両重量:1970kg 前軸軸重970kg 後軸軸重1000kg 最小回転半径 5.8m

対照的に、後席はやや窮屈だ(筆者の身長が184cmだとしても)。GRヤリスの後席よりは格段にマシだし必要十分なのだが、外形サイズから期待するほどの広さではない。足元はギリギリだし、頭上はミニマム。後席ドアの開口部は狭く、脚の出し入れはしにくい(体の固さはさておき)。

いっぽうで、ドアの閉まり音がいい(とくにフロント)のに感銘を受けた。閉めた瞬間に「いいクルマだな」と無意識に感じ取っている気がする。ステアリングホイールは握りもいいが、動かした際の感触もいい。なんなら、クルマが右足の動きに合わせてそっと動き出し、路面の形状に合わせてタイヤ〜ダンパー+スプリングと入力が減衰し、サスペンションを構成するコンポーネントを通じてボディを伝達し、最後にシートを通じて体に伝わる感触が心地いい。燃料電池車だのなんだの言う前に、MIRAIは高級車であることが、走らせてみるとわかる。

室内長×幅×高:1805mm×1595mm×1135mm 初代MIRAIは乗車定員が4名だったが、新型は5名だ。
インテリアの質感も高級車然としている。

新型MIRAIは乗り味が上質なのもいいが、圧倒的に静かなのもいい。ロードノイズや風切り音はよく抑えられている。MIRAIに乗っていると、「無音」であることにも価値があるのを認識する。ステアリングの右側にあるASC(アクティブ・サウンド・コントローラー)のスイッチを押すと、モーターの出力に連動して人工的なサウンドがスピーカーから流れるが、あまりに人工的すぎて個人的にはNGだった。これなら、静寂を味わったほうがいい。

イワタニ水素ステーション芝公園での水素充填の模様。

水素の充填に必要な時間はガソリンを給油する時間と変わらない。営業日や営業時間にばらつきがあって、水素を充填したいタイミングで近くに水素ステーションがあるとは限らないのが難ではあるが、実用上、フルタンクで500km走れそうなことがわかると、水素切れの心配はしなくなる。少なくとも、電気自動車に乗っているときのようなドキドキ感(悪い意味で)はなかった。ただ、MIRAIを買うなら、あてにできる水素ステーションは近くにあったほうがいいだろう。

1回の水素充填で走れる距離は、2021年5月にフランスで1003kmの記録達成のあと、日本の自動車メディア関係者有志のチームが6月に1040.5kmという世界記録をマークしている。

新型MIRAIの価値は、「これは高級車だね」と乗り手に悟らせる上質な乗り味。「無音」と表現したくなるほどの高い静粛性。それに、モーターがもたらす応答性が高く、スムーズな走りだ。リヤに搭載するモーターの最高出力/最大トルクは182ps(134kW)/300Nmで、2トン弱の車重に対してとびっきり高出力/高トルクというわけではないが、必要にして充分だ。充電してモーターの走りを楽しむのではなく、水素でモーターの走り(しかも上質な)を楽しむという選択肢もありだ。


燃費:WLTCモード 135km/kg  市街地モード:13.6km/ℓ  郊外モード:16.6km/ℓ  高速道路モード:18.4km/ℓ 1充填走行距離約750km
トヨタMIRAI Z

全長×全幅×全高:4975mm×1885mm×1470mm
ホイールベース:2920mm
車重:1970kg
サスペンション:Fマルチリンク式 Rマルチリンク式
駆動方式:FR
FCスタック
形式:固体高分子型
型式:FCB130
最高出力:174ps(128kW)
セル数:330個
接続方式:直列
燃料:圧縮水素
タンク:高圧タンク(3本)
タンク容量:141ℓ(前方64ℓ+中52ℓ+後方25ℓ)
公称仕様圧力:70MPa
モーター:交流同期モーター(永久磁石式同期モーター)
型式:3KM型
定格出力:48.0kW
最高出力:182ps(134kW)/6920rpm
最大トルク:300Nm/0-3267rpm
電池:リチウムイオン電池
容量:4.0Ah
個数:84個
接続方式:直列

燃費:WLTCモード 135km/kg
 市街地モード:13.6km/ℓ
 郊外モード:16.6km/ℓ
 高速道路モード:18.4km/ℓ
1充填走行距離約750km
車両本体価格:790万円
オプション込み価格:843万4600円
ボディカラー:フォースブルーマルティプルレイヤーズ16万5000円、245/45ZR20タイヤ+20×8 1/2アルミホイール カッパー加飾 12万 
7600円、デジタルインナーミラー+パノラマルーフ 13万2000円など

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…