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アルトワークスは酷道専用機?
それにしても対向車が少ない。ここまですれ違ったクルマは2台で、いずれも軽自動車であった。都内に住んでいるとDやEセグメントのドイツ製プレミアムサルーンなども見慣れた存在になってしまっているが、やはりこうした日本古来の道には軽自動車が適任だということか。
ほかには数台のバイクともすれ違ったが、なるほどこういった酷道険道には軽自動車以上にバイクは適した存在だ。
軽自動車同士とはいえ、写真をご覧いただいてもわかるとおり、すれ違いはかなりスリリングだ。ガードレールはなく、運転席から道路左端はほとんど見えない。
こんなところで谷間に落ちたら、助けが来るのは何時間後だろうか? 対向車もなく単独で落っこちたら、それこそ誰にも気づかれないのでは? などと恐怖に怯えながらも、一方で酷道険道ドライブの独特のリズムをかなり楽しんでしまっている自分がいる。
ブラインドコーナーの連続なので、いつ対向車が来るかもわからない。たまに登山客が横切るし、動物だって飛び出してくるかも知れない。だから目を三角にしてレッドゾーン寸前まで引っ張ったり、タイヤを鳴かせながら曲がるなんてことは絶対に出来ない。
それでも楽しいのはアルトワークスの、あまりの軽さに依るところも大きいだろう。何しろ車重は670kgで、地球上に敵はケータハム・スーパーセブンしかいない(KTM X-BOWとか、まぁ探せばいろいろありますが)。
こうした飽きるほどタイトターンが続くコースでは、クルマの重さがじわじわと効いてくる。重いものを振り回している感覚が精神的に負担となり、気疲れしてきて、そのうち曲がることが面倒くさくなってくる。これではとても運転など楽しめず、操作が雑になってきて安全上もよろしくない。
2800rpmくらいから急激にブーストが立ち上がるセッティングも昔ながらのホットハッチらしく、思わず頬が緩んでしまう。もちろんかつてはしかたなくそうなってしまっていたのだが、現代のアルトワークスは当然ながら意図的にそう演出しているだけで、アイドリングからのトルクにも不足はなく、極低速コーナーが続く酷道険道でも扱いにくさはない。
そんな演出なんて子供だましでは、と訝る向きも、新たに専用設計された剛性感と節度感に溢れる5速MTには舌を巻くだろう。ショートストロークでコクコクと操作が決まり、動くはずのない方向にはまったくブレない。およそ軽自動車用とは思えぬギヤボックスである。ただし、筆者にはシフトレバーの位置が近過ぎて、奥側の1、3、5速に入っているのに、手前側の2、4速に入っていると勘違いしてしまう場面が何度かあった。