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直6ディーゼルのアクセルをガバッと踏んでみる
マツダのラージ商品群の第一弾として登場したCX-60の初試乗は、あいにくの豪雨のなかで行なわれたが、そんな悪条件を乗り越え、ルート前半で30km/Lを超える驚異的な好燃費をマークした。期待のストレート6・3.3Lディーゼルターボ+48Vのマイルドハイブリッドシステム(XD-HYBRID)が、早速そのポテンシャルの高さを見せてくれたカタチだ。
今回は『その性能はホントですか?』をテーマに、伊豆箱根方面へのロングドライブに出て、アクセルペダルを遠慮なしにガバッと踏んでみた。
通勤ラッシュの収まらぬ都心での走りは、大きなボディが気がかりだったものの、長いボンネットは左右の見切りが良く、意外と苦にならない。高い視点からの景色も開放感があって、いままでのSUVよりもなぜか見晴らしが良く思える。フラットなボンネットや左右に伸びのあるインパネ周りの影響か、スッキリとした前方視界が大きなボディを意識させない。
渋滞では頻繁にアイドリングストップが機能するが、これはいただけない。
筆者はどんなクルマでもロングドライブをするときには、まずアイドリングストップとヘッドアップディスプレイ機能を止める性格(どうしても好きになれない)だけに厳しめの評価となるが、CX-60の直6エンジンはアイドリングストップでドスンと息をとめ、ゴロンと再スタートする。せっかくの6気筒エンジンのスムーズさが活かされていないのが惜しい。
48Vのモーターが少しでも発進性能に活かされれば、不満は少しは緩和されるだろうが、残念なことにエンジン始動とひと転がりにパワーを喰われてしまい、滑らかさや振動吸収に効果は発揮できていない。
高速道路に入ると今度は静粛性能の高さが光る。これこそストレート6の真骨頂。100km/h、1500rpmで巡航中はフロントボンネットの下にあるのがディーゼルであることはまったく感じさせない。小さなピッチで伝える燃焼フィールは6気筒ならではの緻密さで、尖ったノイズの発生を抑えてくれている。
加速フィールは輸入車のようにズシリとくることなく、サウンド同様に滑らか。アクセルをガバッと踏めば伸びのある回転フィールを見せるものの、力の出方は穏やか。ここはもっと3.3Lディーゼルターボの力強さを体感したいところだが、エンジニアに訊けば、燃費と排ガス対策に大排気量化のゆとりを最大限に振った結果だという。
エンジン 形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 型式:T3-VPTS型(e-SKYACTIV D3.3) 排気量:3283cc ボア×ストローク:86.0mm×94.2 mm 圧縮比:15.2 最高出力:254ps(187kW)/3750pm 最大トルク:550Nm/1500-2400rpm 燃料供給:DI 燃料:軽油 燃料タンク:58ℓ モーター MR46型永久磁石式同期モーター 最高出力:12kW/900rpm 最大トルク:153Nm/200rpm
そう、この大排気量化は、クリーンな排ガスと燃料消費抑制のために開発されたユニットで、輸入車SUVのような逞しさを目指したものではなかった。引き換えとして高速ではガバッと踏む頻度が増しても20km/Lを超える燃費を残すし、輸入車のように定期的に尿素水AdBlue(アドブルー)を補給する手間もない。究極の大排気量ディーゼルターボエンジンなのだ。
ドライブフィールでも燃費向上へのこだわりを知る。クルージング領域に入るとちょくちょくエンジンは止まり、当然ちょくちょくエンジンは再始動する。エンジンが停止する、いわゆるコースティング状態に入りやすく、加減速の少ないなかでの走りであれば、燃料節約のためによく頑張ってくれていると思う。
半面、緩やかな加減速をともないながらの高速クルージングでは、エンジン復帰時に速度と回転にずれが生じてしまうのか、コースティング状態に入っていたことを気づかせてしまい、せっかくのストレート6の滑らかさに水を差す。
このあたりはもう少しリッチな気分でドライブを楽しんでいたい思う。いまのマツダを代表する上級モデルなのだから、ここは燃料をケチらず走らせるか、もう少し同期性能の磨き込みに期待したい。
ワインディングでの身のこなしはどうだろう?
ワインディングではアクセルをガバッと踏んでいる領域が多いせいかエンジンパワーは滑らかに引き出され、大きなボディを楽々走らせてくれる。モーターのサポートなのか多少の加減速ではエンジン音の変化は少なく、静粛性の高さを極めてくれている。上級モデルならではの質感に満足感は高い。
ハンドリング面ではウェット路面となってしまったコーナリング時、手応えの頼りなさが気になった。細かな振動を押さえ込んだ快適性とのトレードオフなのか、旋回中にステアリングを切っていくことにためらいを感じる。速度を合せるように踏んでいっても4WDらしいフロントの牽引力やトレース性は感じにくく、ガバッと踏めば押し出されるような印象があって、FR的な走りに終始する。
FRベースの4WDとはいえ、アクセルをガバッと踏めば少なくとも余剰パワーを予測してフロントの駆動力が増し、引っぱり感を作り出すはずなのに、それを感じにくい。燃費のことを考えてフロントへのトルク配分をを躊躇っているのだとするなら、SUVとして本末転倒である。ここもやはり駆動ロスをケチらずフルタイム4WDの効果を最大限、味あわせてほしかった。
乗り味全体としては、カドがなくなり粗さが消えてマツダ車の骨太感にしっとり感が加わった。ただ、アクセルをガバッと踏んだり、突起乗リ越えや、わだち路などでは、フロントがゆっくりと上下したり、左右に進路がとられるなど、揺れが大きい。
約300kmを、燃費を気にせず遠慮なく走って思ったのは、モノトーンで体育会系の質感と走りを持つマツダ車が、大きく変わったことだ。上質感のある内外装や、穏やかさを持つエンジンや走行フィールは高級グレードとしての味わい深さを持つ。
そのうえで今回、アクセルペダルを遠慮なく踏んでみても、燃費は18.2km/Lと実用モデル並みのデータを残し、試乗会で経験した30km/Lの好燃費性能は『本当でした』と断言したい。しかも、今回の試乗の半分以上は、渋滞と山道だったのだ。
ただ、走るほどに燃費にまつわるエンジンフィールや、FRベースでの4WDの駆動力不足感など、気になるポイントも多く噴出した。その結果としての好燃費であるならばじつに惜しい。剛性感の高いボディやピッチングを押さえ込もうとしたサスペンションレイアウトなどの資質の高さを活かし切れていない。
エンジンを止める頻度を抑えたり、フロントに駆動力を流すタイミングを早めて4WD状態をキープしやすくすることで、走りのフィールや乗り味は大幅に向上し、今回の不満の多くは解消できるはず。しかも仮に1割燃費が悪化しても2トン近いボディを遠慮なく走らせても15km/L以上は確実に走れる。
胸を張って投入した最上級SUVモデルだけに、もう少しゆとりを持たせて、本来持っている基本性能の高さを最大限発揮してもらいたい。それで初めてストレート6・3.3Lディーゼルターボ+48VのマイルドハイブリッドシステムとFRベース4WDモデルの真の実力が発揮でき、ラージ商品群の面目躍如だ。
これから続くラインアップとCX-60のエンジン仕様違いの試乗を楽しみにしたい。
CX-60 XD-HYBRID Premium Modern 全長×全幅×全高:4740mm×1890mm×1685mm ホイールベース:2870mm 車重:1940kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式/Rマルチリンク式 駆動方式:4WD エンジン 形式:直列6気筒DOHCディーゼルターボ 型式:T3-VPTS型(e-SKYACTIV D3.3) 排気量:3283cc ボア×ストローク:86.0mm×94.2 mm 圧縮比:15.2 最高出力:254ps(187kW)/3750pm 最大トルク:550Nm/1500-2400rpm 燃料供給:DI 燃料:軽油 燃料タンク:58ℓ モーター MR46型永久磁石式同期モーター 最高出力:12kW/900rpm 最大トルク:153Nm/200rpm トランスミッション:トルクコンバーターレス8速AT 車両本体価格:552万7500円