シートに座ったまま路面でタバコの火が消せる! トヨタ2000GT、苦心のドライビングポジション【TOYOTA 2000GT物語Vol.13】

「運転席に座ったまま路面でタバコの火が消せる」とまでいわれた、TOYOTA 2000GTの極端に低いドライビングポジション。木製モックアップによりミリ単位で足元スペースを稼ぎ出し、スポーツカーとレーシングカーの理想のポジションを追求した。
REPORT:COOLARTS

シートの着座位置をとにかく低くしたい

X型バックボーンフレームを通すフロアトンネルが巨大になったため、運転席の足元スペースが狭くなった。吊り下げペダルのレイアウトに苦労の跡がしのばれる。

TOYOTA 2000GTの開発チームは、ドライビングポジションに非常にこだわりがあったという。デザイナー野崎喩が社内の技術報に発表した文章には「この車の基本構想である“グランドツーリングカーでありながらときに応じてレーシングカーにもなりうる”という観点からも、ドライビングポジションの最重要点の1つであった」と述べている。

しかしながら、日本初の本格GTであること、X型バックボーンフレームを採用したことで、ドライビングポジションの決定には大変な苦労が伴った。野崎によると、「ドライバーの運動、操作の範囲、視野、車体構造のありかた、フレーム、そしてトレッドとホイールベースとの調整など、各担当部署が相呼応して進めた」という。前面投影面積を小さく、車体重心を低くするために最低地上高155mm、車内高950mm、全高1160mmが極限値とされた。

室内高を低くするためには、シート着座位置を出来る限り低くする必要があった。ドライビングポジションを決めるため、室内の木製モックアップが作られた。開発チームにチーム・トヨタのキャプテンである細谷四方洋が加わったことで、安定した高速走行と優れた運転性能を可能にする装備が盛り込まれる。

高速コーナリングの際に身体がズレないように左側にフットレストを付け、右側にはニーパッドで踏ん張りがきくようになっているのは、その成果だという。

身体のホールド性を考えて本革よりも断然滑りにくい発泡ビニールレザーをシート生地に敢えて採用した。

まるでコタツのようなドライビングポジション

しかし、開発チームは一般のモノコックボディではほとんど問題にならないフットレストの取り付けにも難渋した。X型バックボーンフレームを採用するTOYOTA 2000GTのセンタートンネルは大きく、フットレストを取り付けるスペースが60mmほど不足していたのだ。

野崎はシャシー担当の山崎進一に、X型バックボーンフレームの形状を若干変更するように提案し、足元の空間を20~30mmほど広げることに成功する。残りは、アクセル、ブレーキ、クラッチの3つのペダルのセンターをステアリングシャフトから少し外側にオフセットさせることで間に合わせた。

ドライビング時には、左足はフットレストに置き、ほぼ水平に踏ん張った姿勢になるので、多少のオフセットは気にならないという判断からだ。このペダル配置が、室内のモックアップでの最大の確認事項だった。

実際のTOYOTA 2000GTを観察すると、確かにクラッチペダルの真上をステアリングシャフトが通っている。さらにペダルレイアウトは、各ペダルを吊り下げ式にし、ヒール&トゥがやりやすい形状と間隔にしてある。

ドライバーを支えるバケットタイプのシートは、下半身をタイトに、上半身をソフトにホールドするのが望ましい。TOYOTA 2000GTのシートは、座面を極力薄くし。腰を安定させるためにバックフレームを後方まで延長している。同様に、上半身を安定させるためにハイバック形状を採用。

また、シートの表皮に敢えて発泡ビニールレザーが使われた。本革シートにする企画もあったが、ドライバーの身体を確実にホールドするには発泡ビニールレザーの方が向いていたからだという、試作シートは、実走試験しながらリファインされていった。

こうして決定したTOYOTA 2000GTのドライビングポジション。極端に座面が低い運転席に座れば、両脚は「まるでコタツに入っているかのよう」に真っすぐ前方に伸びる。シフトレバーの位置とシフトパターンの設定もスポーツカーおよびレーシングカーとしての使用を考慮して決定された。

ステアリングを操作しながら、速やかにギアをシフトするために最適な位置とストローク寸法、滑らかなヒール&トゥを行なうためのペダル配置など、日本初の本格GTに相応しい仕上がりと言えよう。

座面の驚異的な低さがよく分かる。「モーターファン別冊 トヨタ2000GTのすべて」より。モデル:藤木由貴

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