目次
前期型にしか存在しない3ドアモデルに緊急試乗!
エンジンチューンの内容はホンダのタイプRに匹敵か!?
3代目マーチのメーカーチューンドモデル、それが2003年10月に登場したオーテックジャパン肝入りの12SRだ。
ベースはCR12DEを搭載する1.2Lモデルだが、その内容は凄まじいの一言。ピストンはハイコンプタイプの専用強化品で、圧縮比をベースエンジンの9.8から11.5までアップ。カムも中高回転域のパワーと伸びを重視した専用プロフィールを持つもので、併せてバルブスプリングも強化品が組み込まれる。
さらに、容量が拡大していると思われる兄貴分のCR14用EXマニ&キャタライザーを流用して、専用センターパイプにカルソニックカンセイ製メインマフラーを奢るなど排気系もチューニング。もちろんECUも専用品だ。
最高出力はベースエンジンの90psに対して20%アップとなる108psを達成。1.2LエンジンのNAチューンとしては驚異的と言えるパワーアップ率で、その発生回転数も5600rpmから6900rpmに引き上げられている。
ちなみに、オーテックジャパンでは当初「こんな特殊なクルマ、そうそう売れないだろう」と思っていたらしく、前期型のエンジンは職人が一機ずつ手組みしていたという噂があったりする。
さらに2005年8月以降の中期型では、ポート研磨に専用ステンレスEXマニを投入し、ECUセッティングも変えることでパワーが110psまで向上した。
ミッションは5速MTのみの設定で、駆動系では軽量フライホイール、ヨーロッパ仕様のMT車から流用した専用クラッチカバーとクラッチディスクが装着され、軽快な走りを生み出す。エアクリーナーボックスに付くメッキ処理された日産エンブレムも、実は12SR専用だったりする。
3ドアモデルがラインナップされていたのは、2003年10月から2005年8月までの前期型のみ。販売期間が2年弱と短く、当然、販売台数も5ドアモデルに比べて圧倒的に少ない。取材車両は電動格納式ドアミラーを備えているので、2004年4月以降に発売された前期型の後期モデルだ。
外装はエアロパーツはカタログモデルの14Sに準じるが、アルミホイールやスモークタイプのリヤコンビネーションランプが相違点。オプション設定されたリヤ&リヤクォーターウインドウのプライバシーガラス仕様だと、クルマがより引き締まって見える。
シャシー下面のフロント左右には高速走行時のリフトを抑えるエアスパッツも備わる。スポーティに見せるだけでなく、空力性能も考えている辺り、真面目に設計されたことが伺えるというものだ。
ホイールは15インチ6.0Jのエンケイ製で12SR専用デザインを採用。これに185/55-15サイズのポテンザRE-01が標準装備される。また、足回りでは車高15mmダウンの専用チューンドサスが組まれる他、前後スタビライザーのレートアップ、専用ブレーキマスターシリンダーの採用なども行なわれる。
内装も同様で、オレンジ&ブラックの2トーン表皮を持つスポーツシートやメーターパネル、革巻きステアリングホイール&シフトノブ(ステッチはシートに合わせてオレンジを採用)、メーターとオーディオ周りのカーボン調パネルなどが12SR専用。
ちなみに、シート表皮の色は中期型になるとグレー&ブラック、後期型ではブルー&ブラックと変更されるのは、12SRの基礎知識である。
リヤシートも同様の配色で、背もたれは60:40分割(後期型は一体式)で倒すことが可能で、ラゲッジスペースを拡大することができる。
センターコンソールにはエアコン操作パネル、ハザードスイッチ、シガーソケットが設けられる。ハザードスイッチの下には引き出し式の灰皿が備わり、上部は2DINのオーディオスペースとエアコン吹き出し口になる。
アルミペダルは12SR専用品。ロゴが入った専用フロアマットは、オプション設定されたものだ。
乗り味は想像以上に強烈だ。1速からレッドゾーン手前の7000rpmまで回してシフトアップ。4000rpmくらいからカムに乗る感覚を楽しめて、タコメーターの針が勢いをつけて跳ね上がっていく様は、いかにも小排気量のハイコンプ仕様らしく実に小気味良い。
そして軽さ。前期型5ドア12SRですら940kgだというのに、3ドアになるとさらに20kg下回るたったの910kgなのである。この数値、ホットハッチとして人気が高いZC33Sスイフトスポーツに対しては、なんと80kg…つまり、大人1人分以上も軽かったりするのだ! 車重1トン前後のクルマでこの差はどうにも埋めようがないほど大きく、12SRは専用セッティングの足回りも含めて身のこなしがやたらと軽快。
ハンドリングも正確で、ターンインからコーナリング中のステアリング切り足し/切り戻しまで、わずかな操作に対してもレスポンス良くクルマが反応してくれる。そんなオーテックジャパンの見事な仕事ぶりには「吊るしの仕様で良くここまで仕上げたものだ!」と、もはや舌を巻くしかない。
正直、乗り心地には多少の硬さを感じるが(中期型以降は仕様変更でマイルドな方向に振られた)、それすらスポーティ感の演出と受け取れるから、嫌な感じはまるで無しだ。
戦闘力は必要にして十分。そして痛感する。このクルマはその辺の“ありきたりなスペシャルモデル”などとは大きく異なり、オーテックジャパンというワークス系メーカーが気合を入れて作った正真正銘のチューニングカーなのだと。
■SPECIFICATIONS
車両型式:AK12
全長×全幅×全高:3695×1670×1505mm
ホイールベース:2430mm
トレッド(F/R):1460/1445mm
車両重量:910kg
エンジン型式:CR12DE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ71.0×78.3mm
排気量:1240cc 圧縮比:11.5:1
最高出力:108ps/6900rpm
最大トルク:13.7kgm/3600rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(FR):185/55-15