1200馬力オーバーのフルカーボンZ
漆黒のフロリダハリケーン
広い国土を誇るアメリカにおいて、各州を転戦する全米規模の二大タイムアタック大会が、グリッドライフとグローバル・タイムアタックだ。そして年に一度、コロラド州で開催されるパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムも、チューニングカーの延長線にあるレーシングマシンで参加できるトップクラスの競技のひとつである。

フロリダ州タバレスで『アタッキング・ザ・クロック・レーシング』を経営するショーン・バセットは、自ら製作したダットサン240Zで、それらのタイムアタックやヒルクライムに参戦している。もともと二輪のレースからキャリアをスタートさせたショーン。四輪に移行してから、いわゆる「趣味が高じて仕事になる」流れでショップを起業した。240Zはタイムアタック用として製作した処女作であり、出世作でもある。
「ベース車はボロボロだったんだけど、おかげで1100ドルと格安だったんだ。だから躊躇することなくチューブラーフレームを組んだり、外板を全部カーボンで作り直したり、大胆な作り方にチャレンジできたんだよ」。


そう語るショーンは独立する前にカーボン製品を作る会社で働いていた経験もあったため、パネル類やエアロパーツをカーボンで成形することにも精通。強烈な出面のワイドフェンダーを始め、空力効果を上げるフロントスプリッターとリヤディフューザー、脱着式になっているリヤハッチ、その上に背びれのように備わるドーサルフィンなど、あらゆるボディパーツを自らカーボンで製作している。

アメリカにはV8のエンジンチューナーが数多いるが、ショーンがチョイスしたのはテキサススピード&パフォーマンスが展開するLS3型のカスタムエンジン。排気量は427ci(約6997cc)にまで拡大されており、しかもそれをギャレットのG42-1200タービンで過給する。最高出力はブースト次第で1200hp(約1216ps)まで実現するというから驚異的だ。
トランスミッションもユニークで、ドミワークスというメーカーが提供するアダプタープレートを介して、BMW純正のゲトラグ製7速DCTをドッキング。HTGのトランスミッションコントローラーで制御を行ない、ステアリングハブにパドルシフト付きのボタンボックスも備えて、瞬速のシフトチェンジを決めることができる。
「パイクスピークだと変速が速いDCTならトータル2分は短縮できるんだ。1200hpはさすがにクレイジー。ストレートの速さはヤバいよ(笑)。セッティングはコース特性ごとに変えているから、実際には800hpくらいに抑えていることもあるね」。


吸気と点火系はMSDのアトミックエアフォースインテークマニホールドとダイレクトイグニッションで強化。ラディウム・エンジニアリングの12ガロン燃料タンクは、内蔵ポンプとサージタンクを一体構造にしたFCSTシステムを搭載。アルコール含有燃料のE85を使用し、エンジン制御にはハルテックのネクサスR5を使用する。ドライサンプ方式のオイル供給システムも備え、オイルタンクは助手席にマウント。

ホイールはBCフォージドの鍛造ワンピースモデルであるTD01。サイズはフロント10J×18、リヤ11J×18で、トーヨータイヤがアメリカで展開するセミスリックタイヤ、プロクセスRRを組み合わせる。



ダッシュパネルもカーボンでワンオフ製作し、ハルテックのIC-7デジタルダッシュや追加メーター類をマウント。車内全体がロールケージで覆われ、シートはサベルトのレース用フルバケットであるTAURUSを装着。ステアリングにはショップオリジナルのボタンボックスを装着し、DCTの変速に使用するパドルシフトを備える。クラッチが不要なのでOBPのビレットオルガンタイプで2ペダル化。ウッドワードのラックとDCエレクトロニクスのモーターを使って、ステアリングの電動アシストも実現している。

シャシーマウントのAPR製カーボンGTウイングが目を引くリヤビュー。サスペンションは前後ともS13型240SX(シルビア)のコンポーネントとサブフレームを加工取り付けし、FDFレースショップ製のビレットアームとナックルを装着。ホイールハブは350Z(Z33)用を使用する。BCレーシングの3WAY式ZRコイルオーバーでローダウンを施し、レース中のタイヤ交換も容易にするモートンのエアジャッキも装着。
カーボンボディでさぞや軽いかと思いきや、車両重量は2750ポンド(約1247kg)と、むしろオリジナルより重たい。だが、V8ターボを搭載していることを考えると十分に軽く、パワーウェイトレシオは仮に811psで計算しても1.53kg/psと驚異的だ。
ショーンは240Zをあくまで純粋なレーシングカーとして仕上げてきたが、2018年のSEMAショーに出展したところ、本人も驚くほどの反響を呼んだ。「僕は常々すべてのレーシングカーはショーカーになり得ると思っているんだけど、それを証明できたと思う。レースでの整備性も考慮に入れた作り方をして、独特の機能美が生まれるところを評価されたことが嬉しかったね」。



速さと機能美を兼ね備えた240Zは、この取材後も日々アップデートされ、タイムアタックとヒルクライムで大活躍。ショーンと彼のショップの名声は全米に轟いている。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI
