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ナンバー付きの実働車はこの1台のみ
フィギュア高橋大輔の凱旋パレードでも活躍!
まさかこんなクルマが作られ、しかも動態保存されているなど思ってもみなかった。大きく姿を変えずに22年間も生産され続けたことから、“シーラカンス”などと呼ばれた初代デボネア、そのオープンモデルだ。
オーナーは岡山県倉敷市に住み、クルマを始め昭和のアイテムやグッズなどを幅広く収集するコレクターの丸岡さん。自らのコレクションを保管、展示している私設博物館は“マビ昭和館”と呼ばれ、ひと月に一度だけ一般に対して無料で開放もされている。デボネアオープンもいつもはそこに保管、展示されているのだが、今回は取材のため動かしてもらうことになった。
初代から3代目までデボネアを乗り継いできた丸岡さんにとって、デボネアオープンは特別な1台だ。
いわく、「三菱が3台だけ生産し、そのうち2台は岡山県庁と倉敷市役所に寄贈されました。残る1台は三菱自動車水島工場のPRセンターに展示されていたんですよ」とのこと。
今は丸岡さんと、とある別のコレクターが1台ずつ所有、残る1台はすでに廃車になっている。つまり現存するのは2台だけで、しかもナンバー付きの実働車は丸岡さんの1台しかないのだ。
そんな貴重なクルマなのに丸岡さんは大事にしまっておくのでなく、調子を維持するため月に最低1回は走らせている。また、過去には瀬戸大橋が開通した時や水島港まつり、フィギュアスケートで高橋大輔がメダルを獲得した時などのパレードに参加。今でも交通安全パレードなど、依頼があれば積極的に出動する。
マビ昭和館の一角に掲げられたパネル。2010年にバンクーバー冬季五輪で銅メダルを獲得したフィギュアスケーターの高橋大輔が、このデボネアオープンで地元・倉敷市内を凱旋パレードした時のものだ。
しかし、2018年7月の西日本豪雨でマビ昭和館が床上浸水するという、全く予期してなかった事態が発生。水位は1.8mにも達し、デボネアオープンを始めとした展示車両が水没してしまったのだ。
丸岡さんは閉館も考えたそうだが、地元のクルマ仲間や高校生の支援を得て修理&レストアを実施。デボネアオープンは見事に復活し、マビ昭和館も2019年5月に再オープンを迎えることができた。
強い陽射しが照りつける梅雨の晴れ間の下、純白のボディが眩しいデボネアオープン。「みなさんの支援のおかげで水害に遭う前よりも元気な状態になりました」と丸岡さんは笑う。
デボネアコンバーチブルの細部をチェック
実車を見てまず驚いたのは、ソフトトップを持たない本当のオープンカーということだ。そもそも県庁や市役所に寄贈されたパレード用のクルマだから、ルーフを閉める必要がないわけで、常時オープン状態ということにも納得する。取材の日に雨が降らなくて良かった…と、天に感謝した瞬間だ。
インテリアから見ていこう。グリップが細い2本スポークのステアリングホイールや横長のスピードメーター、レバーが長いコラムATシフトなど昭和の香りが漂いまくるダッシュボード周り。ステアリングコラム上のダッシュパネルには車名エンブレムが備わる。スピードメーターの左側は三菱電機製AM/FM電子チューナーラジオで、その下にはカセットデッキも確認できる。
ステアリングコラム右側のダッシュパネルに備わるのは、スモール/ヘッドライト(右)とワイパー(左)のプル式スイッチ。ワイパーは間欠機能付きで時間調整も可能となっている。
その下にはヒーターの風量と温度調整、吹き出し口切り替えの各レバーが備わる。
さらに、ステアリングコラムを挟んだ反対側には電動調整ミラー(右)、エアコンON/OFF兼風量調整(中)、エアコン温度調整(左)の各スイッチが並ぶ。パーキングブレーキはステッキ式だ。
運転席ドアトリムに設けられたパワーウインドウスイッチ。左が前後左右4ヵ所のウインドウ用で、上面には右からFR(右前/運転席)、FL(左前/助手席)、RR(右後ろ)、RL(左後ろ)の刻印が入る。右端は運転席ウインドウをワンタッチで全開/全閉するためのスイッチ。
コラムATだが、前席はベンチタイプでなくセンターアームレスト付きのセパレートシート。ヘッドレスト左右には、後席に立って乗る際に使うアシストグリップが備わる。
トランクパネル前部の一段高くなったところはパレード時の腰かけ用。実際そこに座らせてもらい走行したのだが、想像していた以上にアイポイントが高く気分も昂揚した。左右にはアシストグリップも装備。
後席の上からヒーロー気分でインプレッション!
早速、デボネアオープンに同乗させてもらう。パレード用のクルマなのだから、自分でステアリングを握って試乗するよりも、後席の上に座って走るとどうなのか?ということを体感してみたかったのと、走りながらのインカ―写真をぜひ撮りたかったからだ。
スニーカーを脱いで後席に上がり、あの高橋大輔も座ったところに腰を降ろす。座り心地はやや硬め…という感想は割とどうでもよくて、想像と大きく違っていたのが目線の高さ。上半身のほとんどがフロントウインドウの上に飛び出しているのだから、それはそれは高い!! しかも、目の前を遮るものは何もない。壮観だ。
G54B型エンジンは振動を感じさせることなく、黙々と与えられた仕事をこなす。“アストロン80”という愛称が与えられたこのエンジンは振動低減のためのサイレントシャフトを持ち、三菱の直4エンジンとしては最大排気量を誇った。ちなみに、取材車両は車両型式がA33であることから、78年4月以降に生産された53年排ガス規制適合車と判断できる。
ゼロ発進時にスルスル…と前に出てくのは、すっかり乗り慣れた丸岡さんの運転技術もあるのだろうが、聞けば低速で安定した一定走行ができるよう、ファイナル比も見直しているそうだ。
まさにパレードスペシャルなデボネアオープン。これで沿道に多くの観衆でもいてくれればもっとまともな同乗インプレができただろうに、気づけば対向車のドライバーから珍獣でも見つけたような視線が送られるばかり。現実はなかなか厳しいのです!
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:マビ昭和館 岡山県倉敷気真備町辻田961 TEL:086-698-0809