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450馬力の20Bロータリーが吠える!
腹の底から響くV8サウンド、天井知らずの青い空、ビールの泡と焼けたオイルの匂い。これがアメリカンレーシングのイメージではないだろうか。しかし、INDYやNASCARと並ぶ人気を誇るグランダムシリーズでは、甲高いエキゾーストサウンドを轟かせて世界の強豪を追い回す和製マシンの姿を見ることができる。それが、3ローターエンジンを搭載したマツダRX-8 GTだ。(OPTION誌2012年9月号より)
♯70 SpeedSource RX-8 GT[SE3P]
マツダREマシンによる24回目の優勝を目指した2012年。24時間のドラマは、RX-8 GTに勝利を用意していなかった。彼らの烏帽子は折れ夢も破れたが、そこには孤高の戦士の凛とした姿があった。
デイトナ24時間レース
1992年に長谷見昌弘/星野一義/鈴木利男/アンデルス・オロフソン組のニッサンR91CPが総合優勝し、やっと日本中に知れわたるようになったデイトナ24時間レースだが、実は2012年で50回目の記念大会を迎えるほどの伝統ある耐久レースである。
しかし、NASCARのデイトナ500が派手なオーバルレーシングなのに対し、こちらは若手のアマチュアから長いキャリアを誇るベテランまでが参加できる「緩さ」が特徴のひとつ。
コース上でマシントラブルがあると、ヨーロッパ型の耐久レースではその時点でリタイヤが確定することが多いが、デイトナではオフィシャルのトラクターに吊り下げられたマシンはガレージに戻され、チームには修復が認められる。ギアボックスの分解整備までも可能で、チャンスがある限り這い上がれる仕組みになっているのがいかにもアメリカ的だ。
約3.6kmのオーバルトラックと、2km強のインフィールドを繋ぐ複合コースが特徴のこのレースは、踏みっぱなしの超高速区間の後にフルブレーキングの第1コーナーを一昼夜で700周以上通過する過酷な設定が売りとなっている。つまり、少し速いだけのマシンではこのレースには立ち向かえない。24時間耐えられる信頼性と耐久性が不可欠なのである。
このレースで、マツダロータリーは過去30年間以上に渡り、不動の強さを誇ってきた。1979年にデビューしたてのSA22Cがクラス優勝を勝ち取って以来、2010年にスピードソースチームがエントリーしたRX-8GTがGTクラスで優勝するまでに、実に合計23回もの部門優勝を記録している。
ピストン往復運動がなく、回り続けようとする回転運動だけでパワーを絞り出すロータリーエンジンは、全開フルスロットルと全閉ブレーキの繰り返しには滅法強いと言える。
20B搭載のマツダRX-8 GT
マツダRX-8 GTは、マツダUSAがレースでのREの復権をかけ、REチューナー兼「勝てる」シャシービルダーとして当時急成長中だったスピードソースと手を組み、2006年にデビューさせたグランダムGT専用マシンである。
オールカーボンのボディシェイプはRX-8そのものだが、シャシーはスチールチューブによるスペースフレ—ム。この軽量シャシーのフロントに450psを発生する20Bを搭載し、デフとギアボックスを一体化したトランスアクスルをリアに配している。
500psのポルシェ997GT3-RSが車重1360kgなのに対し、RX-8は車重1080kg程度の軽量シャシーが軽快なハンドリングと耐久性を両立。このマシンが、グランダムGTに登場してからデイトナ24時間レースは再び活況を呈するようになったと言えよう。
近年では、フェラーリ458やアウディR8などのFIA-GT3マシンがGTクラスに参加するようになった。また、依然としてポルシェ軍団の層は厚く、カマロなどのアメリカンマシンもRX-8の良きライバルとしてレーストラックでは立ちはだかっている。この激戦区の中、甲高い3ローターサウンドを轟かせてデイトナの30度バンクを駆け抜けるマツダRX-8の姿は、頼もしい。
2010年にスピードソースRX-8が23回目のデイトナ24時間優勝を果たした後、RX-8は同年のグランダムGTチャンピオンカーに輝いている。カーナンバー70を付けたブラック塗装のRX-8の写真を見た人も少なくないだろう。
この頃、RE雨宮が国内スーパーGTにこのマシンを持ち込むという計画を立てたが、車両規則上コンバートが難しく断念した経緯がある。
孤高の戦士、24回目の勝利を失う
24回目のクラス優勝を果たすべく今年デイトナの地を踏んだ#70スピードソースRX-8 GTには、予想に反し、ホワイトとブラックに塗り分けられた特別なカラーリングが施されていた。それは、あたかも決戦に出かける武士の「戦(いくさ)」装束に似ていた。息をのむほど凄みのある美しさだった。
2012年1月30日15時30分。アメリカ国歌「星条旗」を直立不動で聞いたスピードソースのドライバーは、3ローターエンジンに火を入れ、24時間のロングジャーニーに出かけていった。#70 RX-8の予選順位は25位と後方だったが、スタートから3時間目には9位にまで浮上。その後訪れる夜の間に周回を稼ぎ、息が切れ始めたライバル達を追い詰めるのが彼らの常套手段だった。
しかし、今年は夜間の濃霧もなく、トラック表面の舗装がフレッシュになったことから、車重の重いGT3勢も彼らが嫌がるバイブレーションを気にすることなく速いペースを刻んでいた。
そして、24時間目。一度のアクシデントもなく、トラブルやヒューマンエラーもなかった#70 RX-8は6位でレースをフィニッシュ。彼らの周回は自己最多であり、燃費やタイヤの摩耗も含め、全て計画通りだった。だが、敗れた。
フロリダ州コーラルスプリングスのガレージに戻った戦士は、居住まい正しく、少し汚れた装束のままそこに佇んでいた。ロータリーにまつわる悲しい話などどこ吹く風か、その目はただ真っすぐに、輝かしい未来だけを見つめているかのように思えた。
■マツダRX-8 グランダムGT仕様
クラス:グランダムGT
エンジン:マツダ20B 3ローターエンジン
燃料供給装置:EGI ペリフェラルポート吸気
最高出力:450ps/9000rpm
ギアボックス:EMCO 6速トランスアクスル
クラッチ:トリプルメタルディスク
サスペンション:ダイナミックDSSV
ブレーキ:ALCON
ディスクホイール:BBS 18インチ
シャシー:ライリー・テクノロジーズ XXIV
電子制御:ボッシュ
燃料タンク:ATL 24ガロン
寸法:L4521mm W1854mm WB 2692mm
重量:1082kg