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パワーとレスポンスにさらなる磨きをかける!
エンジン制御はスピードスロットル式に変更
ヨーロッパツーリングカー選手権のグループA規定に合わせ、BMWのレース部門M社が3シリーズをベースに開発。それが1986年デビューの初代M3だ。エンジンは、リヤミッドシップスポーツカーM1が搭載する3.5L直6の2気筒をカットした2.3L直4DOHCで195psを発揮。ミッションはゲトラグ製直結5速MTで、のちZF製5速MTに変更された。
さらに1988年に高圧縮化&カム交換でパワーを220psに高めたエボリューションが、1990年には排気量を2.5Lに拡大して238psを誇ったエボリューションIIが登場することになる。そんなM3のチューニングを手がけたのが“テクノプロスピリッツ”だ。
青く塗装されたカムカバーの“M Power”の文字が誇らしげな2.3L直4DOHCエンジン。ヘッドは燃焼室側とカム側が別体の2分割構造を採用するなど、レースでのメンテナンス性を考えた設計となっている。「エボリューションIIのプラグコードが赤なんだけど、純正品は10数万円もするんでウルトラ製を使っているんだよね」と、自らもE30のM3を2台乗り継いだ熊倉代表。
4連スロットルは純正45φに代えて、ボルトオン装着できるエボリューションII用48φに交換。併せてポート拡大加工も施されている。
スロットルと同じくカーボンチャンバーもエボリューションII用を流用。エアクリーナーはARC製を使っている。また、ラジエターをアルミ製に交換して、ファンもノーマルのカップリング式から電動式(押し込みと引き抜きの2基がけ)に変更することで、冷却性能も高められている。
さらに、腰下にはアメリカのCP社が設計、JE社が製作したワンオフハイコンプピストンとイギリス・アロー社の強化コンロッドを装着。クランクシャフトはJUNに出してチェック&加工を依頼したところ、曲がりはナシ、バランス取りも最小限で済んだという、精度抜群の純正フルカウンタータイプを使用する。ちなみに、排気量は2.3Lのままだが、圧縮比はノーマル10.5から12.5へと高められている。
一方、ヘッド周りはポート拡大加工を施して、ノーマルよりもバタフライバルブ径が大きいエボリューションII用4連スロットルをドッキング。カムはバルブリフターの外側に当たってしまうことからヘッドに逃げ加工を施した上で、IN/EXとも作用角292度、リフト量12.0mmというプロフィールを持つタイプに交換されている。
と、メカニカルな部分はNAメカチューンの王道といえるハイカム&ハイコンプ仕様。エンジン特性をより高回転高出力型に振りながら、さらに制御系まで見直すことで大幅なレスポンスアップも狙っていたりする。
その核になるのが、MAXXオートモーティブ製のサブコン。点火時期はコントロールできないため純正ECUに依存しているが、燃調の制御はノーマルのホットワイヤ式エアフロをキャンセルしてスピードスロットル方式へと変更。スロットルの0-5ボルト電圧を純正ECUのエアフロマップに入れ、吸気温センサーで補正をかけることでエアフロレス化を実現しているのだ。
「ウチのハチロクも4スロで同じように制御してるけど、補正をキッチリかけてやればアイドリングは安定してるし、低回転域で扱いにくいなんてこともないんだよね。普通に街乗りできて、レスポンスも抜群なら文句ないでしょ?」と熊倉代表。
マフラーはワンオフ製作されたデュアルタイプを装着。また、加速力を向上させるため、ファイナル比のローギヤード化も図られている。
走りのモデルらしく、シンプルで機能的なダッシュパネル。ステアリングや260km/h&8000rpmフルスケールメーターはM3専用品だ。
グループAではボディ形状の変更が認められていない。そこで、リム幅10Jのホイールを装着できるよう前後ともブリスターフェンダー化が図られている。また、バンパーもリップスポイラーの追加に合わせてデザインを変更。
ブリスターフェンダーと並んで、エクステリアのハイライトと言えるのがリヤ周り。空力性能の改善を狙い、リヤウインドウの角度を寝かせ、トランクリッドを高くしてスポイラーも追加。フロント周りの手直しと併せて、Cd値はベース車の0.38から0.33へと向上している。
トランクリッドの高さを稼ぐため、FRPで全面的にリメイクされたトランクパネル。空力性能の向上だけでなく軽量化の面でも貢献している。
ホイールはBBS RGで、前後215/40R17サイズのピレリPゼロネロを装着。この角度からだとトランクリッドをカサ上げしていることがよく分かる。
…と、内外装についてもひと通り説明してみたが、気になるのはそのパフォーマンスだ。ECUセッティングが煮詰まっていないため推測でしかないが、エボリューションIIに搭載された2.5L仕様の238psを余裕で超えてくることは確実。
チューニング内容からすれば、当時2.5LのグループAマシンが誇った330psには届かないまでも、それに匹敵する130ps/L…つまり300ps前後は十分狙えるはず。NAメカチューンでそれだけパワーがあれば…考えただけでワクワクしてくるというものだ。
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:テクノプロ スピリッツ 埼玉県川越市小中居945-1 TEL:049-235-4886
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