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下りを制する者は峠を制す。
茨城の筑波パープルライン、群馬の碓氷旧道と並んで、全国的に名の知れた北関東屈指の峠の一つに数えられるのが栃木の『いろは坂』。国道120号線の一部を担い、上り車線(第二いろは坂)と下り車線(第一いろは坂)が完全な別ルートとされた珍しい峠だ。それはつまり、「対向車が存在しない」ことを意味する。麓の馬返(うまがえし)と上り切った中禅寺湖の標高差は約500m。9.5kmをかけて駆け上がる第二いろは坂はもちろんだが、それより全長が3kmも短い第一いろは坂の方が勾配も急になるわけで、ここをホームコースとする走り屋達は「面白いのは断然下り」と口を揃える。グリップとドリフトの両刀使いが集まった、いろは坂の今をレポートしよう。
先輩から後輩へ脈々と受け継がれるもの。そこには、旧き佳き走り屋の世界があった。
約束した時間の10分前。待ち合わせ場所として指定された某PAに到着すると、すでに“彼ら”は集まっていた。シルビアと180SXを中心に86やロードスターなどFR車ばかり。しかも、オーナーの8割が20代ということも含め、良い意味で予想とは少し違う展開だ。
フロントタイヤに軽くネガティブキャンバーの付いたクルマが多い。話を聞いてみると、「グリップもドリフトも、どっちもやるんですよ」とのこと。
彼らはチームを組んでいるわけではなく、いろは坂を始めとした峠や、日光、エビスといったサーキットで走りを共に楽しむ仲間という関係だ。
圧巻だったのは3台1組で走ってもらった第一いろは坂での追走ドリフト。徐々に近付いてくるスキール音を聞きながら撮影ポイントで待つ。街灯が一切ない真っ暗闇を切り裂くヘッドライトの光。決して広くはない道幅を目一杯使ってフェイントから振り返し、3台が連なって目の前のコーナーを駆け抜けていった。それもストリートとは思えないほどの超接近戦で。
今回の取材は18歳からいろは坂を走り続けて44年、OPTION誌との付き合いも40年近くになる現役ランナー、K氏の協力によって実現した。
「昔、S30Zに乗る速い先輩がいて横に乗せてもらったことがあるんです。Zはフロントが重いからアンダーステアのまま曲がっていく。それでも速かったんですよ。その走りに衝撃を受けて。面白そうだから、後輩と一緒に行ってみるかと」。
先輩と同じS30Zで走り始めたK氏は、速さを求めてSA22Cに乗り替え。ただ、上りはそこそこ行けても、下りでブレーキがもたなかった。そこで次に選んだのがKP61だった。
「クルマが軽いんで下りは速かったですよ。でも、パワーがないから上りが厳しい。それで、発売されたばかりのハチロクに乗り替えたんです。これはバランスが良かったですね」。
長年いろは坂を走りながら、数多くの後輩を見てきたK氏が言葉を続ける。
「今日集まってもらったのは自分の子供よりも若いコ達ですけど、団結力はあるし、先輩たちが言うこともちゃんと聞いてくれる。だから、一緒に走るのが楽しいし、彼らの腕が上達して、走り屋として成長していくのを間近で見られるのが嬉しいんですよ。ドリフトは3回のうち1回は成功するパターン。ちょっとアンダーステアが出ちゃったり、横に向きすぎちゃったりもあるんだけど、確率で成功3割って言ったらなかなかのもんでしょ。野球なら3割バッター。凄いことだと思いますね」。
その一方で、ルールやマナーを守らない走り屋も目に付き、警察による取り締まりも厳しくなったことで走りにくくなっているのが現実。そのため、あえて特定はしないが、いろは坂以外の峠を走る機会が増えたという。幸いにして北関東でも海なし県と言われる栃木、群馬は、峠には事欠かない土地柄だったりするのだ。
「上りと下りをトータルで考えた時、ベストな1台をなかなか見つけられないこと。そこに、いろは坂の面白さがあると思います。極端な話ですけど、もし雪が降ったら、下りは軽の4駆でGT-Rに勝てますから。小さいクルマでも十分に勝機がある。だから、いろは坂は下りの方が好きなんですよ」。
終始笑顔で、最後にそう語ってくれたK氏にとって歳など関係ない。20代の若者達と一緒に今でもいろは坂を走り続ける理由は単純にして明快、「楽しいから」だ。
Close-up Winding Tuned
スカイライン【HCR32】/オーナー:レイ(24歳)
初めての愛車に乗り続け、東京に住みながら月2~3回ペースでいろは坂に通う。走りのために近々、栃木に引越すという気合の入れようだ。エンジンはCLRチューンのRB25DET改TD05-18G仕様で350ps。足回りはエンドレスジール車高調(F11kg/mm R5kg/mm)が組まれる。
86【ZN6】オーナー:たけちゃん(24歳)
エンジンは吸排気チューン仕様のFA20。HKSエアクリーナーにアメリカ・ボーラ製エキマニ(UELヘッダー)を組み合わせることで、あえて昔ながらのボクサーサウンドを聴かせる。足回りはブリッツZZ-R車高調、ブレーキはディクセル製パッドで制動性能を向上させている。
180SX【RPS13】/オーナー:しおん(24歳)
年間ラーメン250食をたいらげる一方、ベンチプレス110kgを誇る筋肉系オーナー。ボディ色ミレニアムジェイドは自らオールペンしたものだ。エンジンはSR20DET改GT-SSのNISチューン制御仕様。ブリッツZZ-R車高調やATS 2ウェイLSDで足回りや駆動系を強化。
グロリア【Y32】/オーナー:のわ~る(25歳)
他の人が乗ってないという理由で選んだベース車をCLRでチューニング。VG30DETは前置きインタークーラーに交換したブーストアップ仕様。自作エアロを装着し、Z32純正5速MTへの換装がポイントだ。足回りは前Y33用JIC車高調、後S14用KTS車高調が組まれる。
シルビア【S15】/オーナー:N(27歳)
鮮やかな赤に全塗装されたワイドボディと巨大なリヤウイングが目を引く1台。エンジンはピークパワーを狙いSR20DET改TD06仕様とされる。足回りはテイン車高調で強化。前9.5J+12、後10.5J+15というワイドな18インチホイールが足元に迫力をプラスする。
180SX【RPS13】/オーナー:Rigi(27歳)
エンジンをSR20DETからDEに載せ換え。エアクリーナー、エキマニ、マフラーを交換した吸排気チューン仕様となる。また、ファイナル比を4.3に変更してロ―ギヤード化。しおんくんにガンメタで全塗装してもらったボディを2ヵ月でぶつけてしまったことが最近の悲しい出来事。
86【ZN6】/オーナー:通りすがりの者(46歳)
「何年走っても飽きることなく、日々楽しく修行してます」というオーナー。ノーズの4連フォグが個性的な86はHKS製エキマニ&マフラーを装着し、ECUチューンでレブリミットを引き上げ。TRD製3速クロスMTやクスコ2ウェイLSDと合わせて走りの楽しさを倍増させている。
180SX【RPS13】/オーナー:とば(27歳)
滑走集団 団地組メンバー。エンジンは鍛造ピストンやH断面コンロッドで本体を強化し、550ccインジェクターにR35純正エアフロ、東名ポンカム(IN/EX256度)などをセット。タービンはGT-SSをチョイスする。赤アルマイトリムのスーパーアドバン(前後8J×17)が渋い。
ロードスター【NA8C】/オーナー:サメ様(22歳)
いろは坂を走り始めてまだ3ヵ月ほどというオーナー。現場で記入してもらったスペック表を見てみると、『駆動系:スゴイ、足回り:もっとスゴイ、ブレーキ:ききません。あまり』…ということで、ちゃんと話を聞くべきだったと反省。足下はOZの16インチにDNAエコスの組み合わせだ。
シルビア【S14】/オーナー:タカネザワ(25歳)
しまった、スペック表から仕様を読み取れないクルマがもう1台…。でも、『ブレーキ:4つ』というのが意表を突く回答で面白かったんでオッケー(笑)。ボディは、しおんくんにオールペンしてもらったミッドナイトムラサキ。ヘッドライトには作業用(ワーク)ライトが仕込まれている。
シルビア【S15】/オーナー:江連 栞(23歳)
クルマが好きでCLRに転職した走り屋女子。走りも通勤も、このドリフト仕様S15でこなす。エンジンはSR20DEでオーテック製エキマニを装着。ニスモ6速MTに4.6ファイナルの組み合わせで速さも十分だ。足回りはD-MAXスーパーストリート車高調、ブレーキはGPスポーツ。
シルビア【S15】/オーナー:危野郎(26歳)
自慢はシックスパックの腹筋で、しおんくんと並ぶ筋肉派。NAながらキレた走りを売りとし、第一いろは坂のダウンヒルでターボ勢を追いかけ回す。エンジンは吸排気チューン+CLRオリジナルECU仕様。ORC製メタルシングルクラッチにカーツ製LSD、4.6ファイナルで駆動系も強化。
シルビア【S14】/オーナー:こんちゃん(28歳)
背筋270kg!! を誇る筋肉自慢がここにも。エンジンはS15純正タービンやトラスト前置きインタークーラーを入れ、GT-RポンプとS15用インジェクターなどで燃料系も容量アップしたブーストアップ仕様。前GPスポーツ、後テイン車高調にニスモロワアームで足回りチューンも。
シルビア【S14】/オーナー:タカシュー(24歳)
エンジンブローを機に後期改前期NAに仕様変更。エンジンは基本ノーマルでマフラー交換のみ。駆動系はメタルクラッチ、LSD共にニスモ製で強化する。車高調は前ブリッツZZ-R、後D-MAXで、オリジナルナックルも装着。ブレーキはリヤパッドのみプロジェクトμD1スペックを組む。
ロードスター【NB6C】/オーナー:トッシー(33歳)
テイン車高調にプロジェクトμレーシング777パッドを組むなど、足回りとブレーキを重点的にチューニング。第一いろは坂ではパワーは重視されないため、エンジンは吸排気系まで含めてノーマルだ。最近やったロールバーの装着を始め、日常メンテやパーツ交換などの作業も自らがこなしている。
180SX【RPS13】/オーナー:テント(20歳)
エンジンはT517Z仕様。東名ポンカムを組み、エクセレントワークスフルデュアルマフラーで抜く。車高調はDG-5で、リヤサスメンバー上げ加工も実施。ホイールは前SSRガルトマイヤー、後AVS VS5の9J×17を4本通しで履く。テントくんもTeam激滑愚連隊メンバー。