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販売台数稼ぎを目論んだ最後の悪あがき?
国産ターボ隆盛期を彩った希少モデル!
1967年から1983年まで生産され続けたFRセダンのフローリアン。その後継モデルとして1983年4月に発売されたのが、いすゞ車として初めて駆動方式にFFを採用したアスカ(正式車名フローリアンアスカ)だ。
エンジンは、直4ガソリンが1.8Lの4ZB1型(105ps)、2.0Lの4ZC1型(電子制御キャブ仕様115ps/キャブ仕様110ps)、同ターボ版4ZC1-T型(150ps)の4種類。直4ディーゼルは2.0Lの4FC1-J型(70ps)と、ターボ仕様4FC1-T型(85ps)が用意された。
1985年7月のマイナーチェンジで内外装の手直しが行なわれるのと同時にグレード体系を一新。同年10月にはガソリンターボモデルに、専用の内外装と足回りを持つスポーツグレードのイルムシャーが追加された。
余談に入るが、初代アスカと聞いてロボタイズドMTの先駆け“NAVi-5”を真っ先に思い浮かべる人は多いだろう。乾式クラッチを持つ世界初のATとして話題を集め、その可能性にも大きな期待がかけられた。
が、あまりにも低すぎた完成度からトラブルが頻発。そのため、実はいすゞが密かにクルマを回収していたとか、パーツ供給を意図的に止めてオーナーが乗り続けられないように仕向けていた…など、聞き捨てならない話も耳にする。
多少の誇張はあるにせよ、“火のないところに煙は立たない”である。それが単なる噂だとは思えないし、何よりNAVi-5を搭載したアスカが中古車市場に全く出てこないのは、“掃討作戦”が功を奏したからと考えるのが妥当。さらに、メーカー自らがその存在を消そうとしたのは、NAVi-5が負の遺産であり黒歴史でもあることをいすゞが強く認識していた証だ。
話を戻そう。取材車両は1988年式の最終型ターボLGで、カタログには“注文仕様”と明記されるグレード。珍しいクルマが好きで6年前に手に入れたオーナーの石原さんによると、「LGとターボLGはモデル末期に加わった、恐らく販売台数稼ぎのグレードでしょう。余っていたクルマにあれこれ装備を付けて売り切っちゃえみたいな。ターボLGは販売期間が短い上に車両本体価格もイルムシャーより高かったんで、販売台数は極めて少ないはずですよ」とのことだ。
当時“シグナス”というサブネームが与えられたいすゞのエンジン。2.0L直4SOHCターボの4ZC1-T型は初代ピアッツァにも搭載された。「インパルス(北米でのピアッツァの車名)用のキットをアメリカから取り寄せてエンジンをオーバーホールしました。このエンジンはオイルパンからのオイル漏れが持病で、パッキンをもう4回も交換してますけど直らないんですよ」と石原さん。日本初の“オイルパンフローティングシステム”がその原因なのだろうか?
車重が1100kg弱に抑えられていることもあり、NA領域の2000~3000rpmでもよく走る。ターボ過給を体感できるのは3500rpmからで、インパネ左下のTURBOインジケーターが緑色に点灯して視覚にも訴える。そこからトルク感が一段と増し、タコメーターの針の上昇に合わせて6000rpmまでパワーも高まっていく。エンジンの吹け上がり方は軽快というより豪快だ。
シフトワイヤーと並列で装着されたシフトダンパー。実際どれくらいの効果があるのか定かではないが、確かに「ワイヤー式にしてはスムーズにチェンジできる!!」…ような気がしたのは本当だ。
直線基調でオーソドックスなデザインのダッシュボード。センターコンソールは完全分離タイプとなる。ステアリングホイールはMOMO製3本スポークに交換。また、スピードメーターの右側に電圧計と燃料計、タコメーターの左側に油圧計と水温計が配置される。
ダッシュボード右端のパネルには電動リモコンミラー、リヤデフォッガー、フォグランプの他、ガソリン車に標準装備される操舵力可変パワーステアリング(V.S.S.S.)のスイッチが並ぶ。パワーステアリングのアシストは3段階に切り替えが可能。
LGとターボLGはセミバケットシートのレカロLXが標準装備。生地はモケットとなる。イルムシャーにもレカロLXが装着されるが、ヘッドレストがネットタイプで表皮にウールを採用するのが違いだ。
後席は背もたれがヘッドレスト一体型でセンターアームレスト付き。尚、トランクスルー機能は上級グレードに設定されない。
トランクリッドに装着された控えめなリヤリップスポイラー。純正オプション品とも、イルムシャー標準品とも違う独自の形状となる。つまり、いすゞはアスカ用として少なくとも3種類のリヤスポイラーを用意していたということだ。
サイドステップは付かないが、フロントエアダムやリヤアンダースポイラーはイルムシャーと共通。ホイールは、ボディ同色フルカバー付きのイルムシャー用14インチアルミ製が装着される。タイヤは標準195/60R14に対して1サイズ細い185/65R14サイズのネクストリーが組み合わされる。
ターボ専用にセッティングされた足回りは、しっかりとダンピングが効いた欧州車的なフィーリング。乗り心地と運動性能のバランスが高い次元で図られ、適度なロールやピッチングを許容しながら、ステアリングやアクセル&ブレーキ操作に対してナチュラルな挙動を見せる。その入力を受け止めるボディは剛性感が十分で、とても30年以上も前のクルマとは思えなかった。一言で表現するなら、高速クルージングも快適にこなせる上質なスポーティセダンというのが相応しい。
初代アスカは、時代が平成に変わった直後の1989年3月に生産終了。その後、アスカはBC系レガシィ、CD/CF系アコードのOEM車として代を重ねていくことになるのであった。
■SPECIFICATIONS
車両型式:JJ120
全長×全幅×全高:4440×1670×1375mm
ホイールベース:2580mm
トレッド(F/R):1405/1410mm
車両重量:1110kg
エンジン型式:4ZC1
エンジン形式:直4SOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ88.0×82.0mm
排気量:1994cc 圧縮比:8.2:1
最高出力:150ps/5400rpm
最大トルク:23.0kgm/3000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トレーリングアーム+トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(FR):195/60R14
●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)