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究極を目指したC30A改ツインターボという選択
ホンダ乗りのプライドが徹底的にNSXを弄り倒す!
アメリカの日本車チューン&カスタムシーンの中心を成すのは、今も昔もホンダ車だ。安くて速いホンダ車に、スピードを求める金のない若者が飛びつくのは日本もアメリカも同じで、とくにアメリカのホンダ乗りは日本以上に熱い連中が多い。
このNSXのオーナー、マイケルも熱狂的なホンダ党だ。なにしろその車歴はシビック→インテグラ→S2000とホンダ一色。しかも着実にグレードアップしてきたその流れから、3年前(取材時)についに念願のNSXを手に入れた。
アメリカのホンダシーンで見かけるクルマは大半がシビックとインテグラで、そこからS2000にグレードアップできる人間はごく少数だ。そして、ホンダスポーツの頂点に君臨するNSXを手に入れる事ができるのは、ほんの一握りに過ぎないことは言うまでもない。
マイケル自身も「32歳でNSXオーナーになれた事を誇りに思う」と語るが、彼のプライドはNSXを所有することだけではなく、カスタムすることにも込められていた。
「NSXを実際に買っても、モディファイするのには勇気がいる。でも俺は構わないんだ」。その言葉通り、マイケルはNSXを自分色に染め上げるべく、徹底的に手を入れた。
見どころはやはりエンジンだ。C30Aユニットは、ギャレットのGT2871Rタービンを使ったカスタムツインターボシステムでドーピング。制御は、AEMのエンジンマネジメントシステムV1シリーズ2が担う。
クーラントタンクとオイルキャッチタンクはワンオフ製作。ウォーターメタノールのインジェクターはインマニの途中にセットされている。
そして、このNSX最大の特徴は、車体下部にツインでマウントされたインタークーラー。ディフューザー越しに見えるのはビジュアル的なインパクトも大きい。マフラーはこのインタークーラーの間を抜けて通される。
足回りはJRZのRSコイルオーバーでセットアップ。エナジーサスペンションのブッシュセットや、NSX-R用のシャシーバー&スウェイバーも組み込まれる。
ホイールは日本鍛造の象徴でもあるボルクレーシングTE37。チャンピオンシップホワイトでペイントしたカスタム品で、ワイドフェンダー化により前9.5J×17+22、後10.5J×18+15を履きこなす。タイヤはプロクセスR888(F235/40-17 R295/30-18)だ。
ブレーキはストップテックを選択。JDMパーツに拘らず、USパーツの良い物も巧みにブレンドして作り上げている。
エクステリアは各メーカーのNSX用エアロパーツを、独自にブレンドすることで完成させた。フロントはタイテックのJGTC2000フロントバンパー、フロントカナード、DOWNFORCEのフロントワイドフェンダー、VISION DCのレーシングミラーという組み合わせだ。
リヤはDOWNFORCEのNSX-Rタイプリヤスポイラーにタイテックのディフューザー&カーボンフード、ルートKSのマドンナスタイルリヤワイドフェンダーという構成だ。
マイケルいわく「スポーツカーは赤」というイメージで、ボディのラッピングはレッドをチョイス。半艶仕上げとすることで、絶妙な今っぽさもプラスされた。今後はVOLTEXのGTウィングを装着予定で、それがこのNSXに施す“ラストピース”だそうだ。
一方のインテリアは、4Pロールケージが入ってレーシーな雰囲気。バー部分には彼のイニシャルと、彼のルーツであるカンボジア国旗が入れられている。追加メーターはAEMの空燃比計とブースト計をセットする。
シートはレッドのレカロ、ハーネスはブラックのタカタと、アイテムの色味にも拘っている。チューンドでありながらオーディオに凝るのもアメリカ流で、シート背面にはJLオーディオの巨大なサブウーファーを美しくインストール。
トランク内もフルカスタム済みで、レザーを張ってアンプ類をセット。底面にあるアルミ製のタンクは5ガロン入るメタノール用だ。
マイケルのNSXは、どちらかというとカーショーでトロフィーを穫ることを目的とした“ショーオフ”仕様だが、このツインターボの作り込みは本気で行われており、その最高出力は実測値で530psと本物。インテークには混合気の冷却に効果のあるウォーターメタノールのインジェクターも備えており、このNSXが速いマシンなのは間違いない。
ちなみに、エンジンのヘッドカバーに入れられた“LONG BEACH”とは、彼の地元の地名だ。南カリフォルニア最大の港湾都市として栄えてきた場所だが、一方で昔から荒くれ者が多いのか、治安が良くなくポリスの取り締まりが厳しいエリアとしても知られている。
マイケルは「そんなエリアに住んでいても、NSXに乗ってカスタムしてるんだぜ」というプライドを、このヘッドカバーの文字に込めているのだ。
PHOTO:Akio HIRANO TEXT:Takayoshi SUZUKI