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Hパターンミッションで世界初のゼロヨン6秒台をマーク!
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最高出力は脅威の2000馬力オーバー!?
いわゆるHパターンのマニュアルトランスミッションのことを「ミッション」と呼ぶように、アメリカにも「スティックシフト」という別の呼び方がある。
ドラッグレースが盛んな東海岸ではイベント毎に様々なカテゴリーが存在するが、スティックシフト=シーケンシャルシフトやトルコンATではないという分類条件は、かなり昔からあるそうだ。
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そんなスティックシフトのドラッグレーサーとして、世界で初めて6秒台に突入したのが、フロリダ州パームシティにある“グラナスレーシング”のJZA80型スープラ。代表のジョエル・グラナス自身がビルダーとドライバーを務め、2020年5月に6.90秒、終速194.77mph(約313km/h)を記録。ジョエルにとっては11年越しの快挙達成だった。
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現在のベストリザルトは6.69秒、221mph(約355km/h)まで更新。それでもスープラのアップデートは日進月歩である。6秒台突入時から大きく変わったのがターボのセットアップだ。
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当時はシングルターボだったが、現在はコンパウンドターボ(=複合ターボ)と呼ばれる、大小2つのタービンを直列的に配置したレイアウトを採用している。日本ではシーケンシャルツインターボとしてひと括りにされることが多いが、アメリカでは2機のタービンが並列していればシーケンシャル、直列していればコンパウンドと分けて考えるようだ。
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コンパウンドターボの場合、エキマニにマウントされるのは小径/高圧タービンで、低回転からレスポンスよく過給圧を立ち上げる。
エキマニから枝分かれしたパイプを通った排気は大径/低圧タービンの方にも伝わるが、最初はゆっくり回る程度。エンジンが高回転になるとウエストゲートを閉じ、排気流量が増してスプールも高まっていく。そうして大径/低圧タービンが生み出したエアフローは小径/高圧タービンへと流れ込み、過給圧がさらに高まる仕組みだ。
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エンジンはBullet Race Engineering製のビレットブロックを使用した、2JZ-GTEを搭載。BCのストローカーで排気量は3.2Lまで拡大し、GSCのS3カムシャフトなど組み込むなどしている。
PrecisionのNextGenシリーズから66φの6670タービンをエンジンに近い小径/高圧側、108φのPromodを右フロントの大径/低圧側に設置。チタンパイプを通って大径タービンのエアフローが小径タービンのコンプレッサーを回すコンパウンドターボレイアウトを実現している。
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エタノール燃料を使用し、2250ccと700ccのツインインジェクターを装備。点火系にはIGN-1A高電圧スマートコイルを備える。
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トランスミッションは、T56をベースに拘りのアップデートを加えたGR1500を使用。2000psオーバーのハイパワーを電光石火のシフティングで掌握する。
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もうひとつ電光石火のシフティングに欠かせないのが、これまたオリジナルで開発したストレインゲージシフターというアイテム。
シフターのたわみを検出するセンサーとMoTeCなどのフルコンに接続するワイヤーハーネスを備え、シフト操作すると30〜200ミリ秒の間で任意に設定した時間、ECUが自動でイグニッションをカット。クラッチ操作なしのシフトチェンジをスパスパ決めることができる。自動レブマッチ機能も備えており、クラッチペダルの操作を行なうのは発進時のみだ。
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SFI安全基準に則った25.3シャシー(ストックボディに収まるチューブラーフレーム)の他、KIRKEYのバケットシートにレーシングハーネスを備え、安全性を確保。メーターフード、センターコンソールもカーボンでできたダッシュパネルに、MoTeCのデジタルメーターやPDMのスイッチ類を並べる。
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ホイールは前後ともにWeld Racingのドラッグレース専用モデルを装備。フロントが細く、リヤが太いミッキートンプソンのドラッグタイヤが組み合わせられる。そのリヤのドラスリに駆動力を伝えるのは、カーボン製プロペラシャフト、Strangeの強化デフとアクスルシャフトだ。
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リヤにはオリジナルの4リンクサスペンションを構築しており、少しでもタイヤに荷重をかけるため片側25ポンド(約11kg)の錘まで取り付けられている。Precision Racingの車高調も取り付けられているが、リヤに関してはレース本番では使わないこともあるそうだ。
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グラナスレーシング代表のジョエル・グラナス。わずか14歳からクルマ作りを始めた生まれついてのビルダーで、当初はシボレーをいじっていたが、ターボ車に出会ってからは興味がJDMに移っていった。シフトミスを犯しやすいHパターンで、いかに速く走れるかを追求し、気づけば世界初の記録を樹立。今やトレメックのMTを販売することがビジネスにもなり、ショップには膨大な数のトランスミッションがストックされている。
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なぜそこまでしてジョエルがHパターンに拘るかと言えば、それはやはり歴代のパイセンたちが「オレはHパターンで何秒出したぞ」と言ってきた伝統をリスペクトしているから。ジョエルにとっては6秒台もまた、ひとつの通過点に過ぎない。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI