目次
もうひとつの“FJ”。
実働状態にあるのは10台前後と言われる幻のホモロゲモデル
日産FJ型エンジンと言えば、R30スカイラインを軸にS110/S12系シルビア/ガゼールにも搭載された2.0L直4DOHCのFJ20が思い浮かぶ。
一方、S110シルビアをベースにグループBのホモロゲモデルとして開発され、1983年に200台限定で登場した240RSにもFJ型エンジンが搭載された。それが排気量2.4L、燃料供給は電子制御インジェクションではなく2基のミクニソレックス50PHHが担当するFJ24だ。どちらもFJを名乗るエンジン型式から、「FJ20の排気量を拡大したのがFJ24」と考えられたとしても無理はない。
しかし、実際は両エンジンで供用されるパーツは皆無に等しく、FJ24はWRCを戦うために組み上げられた純粋な競技用ユニット。FJ20とは別物と理解するのが正しい。当時の日本の排ガス規制には対応しておらず、240RSは競技専用車両として数台のみ日本で販売された以外、海外にデリバリーされた。ちなみに200台のうち左ハンドル仕様150台、右ハンドル仕様50台となる。
そんなスペシャルなエンジンを載せる240RSは当然、駆動系も強化。ボーク&ベック製ツインプレートクラッチを介して、左下が1速となるレーシングパターンを持った5速直結MTのF5C71B型ミッションが組み合わされた。また、ブレーキマスターシリンダーは前後それぞれに備わり、カスタマー仕様にはオプションで、エボリューションモデルには標準で、制動力配分を調整できるバランサ―が用意されていた。
4点式ハーネスを締め上げ、アクセルペダルを数回踏み込んでからイグニッションキーを捻ると、FJ24は一発始動。アイドリング回転数は1300rpmと高く、ストレートマフラーだけに排気音も盛大だ。
2.4Lのトルクと970kgしかない車重のおかげで走り出しから軽快。回転域を問わず、アクセル操作に対するエンジンレスポンスは鋭く、タコメーターにスパイ針がセットされた7500rpmまで豪快に吹け上がる。回すほどリニアにパワーが追従する特性はNAエンジンならでは。正直6000rpm以上は苦しいFJ20とはまるでフィーリングが違う。7500rpmをリミットにシフトアップすると2速へは5500rpmで、3速へは6000rpmで繋がるため、パワーバンドを外すことはない。
同期のセリカGT-TSとは違い、「大幅なモディファイを加えることなく、このままでも実戦投入可能だったのでは?」というほどの仕上りに思えた240RS。40年前、そのほとんどが海を渡ったが、後に15台ほどが日本に“里帰り”を果たした。その中で、実働状態にあるのは10台前後と言われている。
■SPECIFICATIONS
車両型式:BS110
全長×全幅×全高:4330×1800×1310mm
ホイールベース:2400mm
トレッド(F/R):1410/1395mm
車両重量:970kg
エンジン型式:FJ24
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:92.0φ×88.0mm
排気量:2340cc 圧縮比:11.0:1
最高出力:240ps/7200rpm
最大トルク:24.0kgm/6000rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/4リンク式リジッド
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:215/60R14
未勝利のまま表舞台から去った240RS
1983年1月にグループBのホモロゲを取得した240RSは、同月開催されたWRC初戦モンテカルロラリーでデビュー。この年のニュージーランドラリーで2位に入賞するも、ミッドシップ+ターボエンジン+4WDが台頭してきた中で、NAエンジンのFRマシンでは絶対的な戦闘力が次第に低下していった。それに伴ってチームニッサンヨーロッパによるワークス活動も縮小し、1985~1986年で参戦したのは年間5戦のみ。同じ時期にセリカGT-TSがサファリラリーで3連覇を飾ったのとは対照的に、勝ち星を挙げることなく240RSはグループB参戦を終えたのだ。