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生産期間は1年8ヵ月、前期型のみにラインナップ!
クラウンやセドグロと違う三菱ならではの高級車観
22年間に及ぶ生産の末、時代遅れも甚だしくなった初代デボネアに代わって2代目デボネアVが登場したのは、日本がバブル景気に突入しようとしていた1986年8月のこと。初代から大きく変わったのは、駆動方式がFRからFFになったこととV6エンジンの搭載だ。
その半年後に登場したのが、今回取材したスーパーサルーンエクストラ・スーパーチャージャー。ボア径φ74.7×ストローク量76.0mmから排気量1998ccを稼ぐ6G71型エンジンを搭載する。
圧縮比はNAの8.9に対して、スーパーチャージャー仕様では8.0に低められ、最高出力150ps/5000rpm、最大トルク22.5kgm/3000rpmを発揮。後期型ではこのエンジンがラインナップから落ち、代わりに3.0LV6DOHCで200ps(最終型では210ps)を誇る6G72が搭載されることになった。
スーパーチャージャーは三國重工業製のルーツ式を採用。遮音性の高さもあるのだろうが、走行中にスーパーチャージャーの作動音はまるで聞こえない。インタークーラーは水冷式が採用される。
スロットルボディにはワイヤーが2本。1本はアクセルペダルに連動した通常のスロットルワイヤー、もう1本は高速巡航時に一定のスピードをキープできるオートクルーズ用のワイヤーだ。
実車を前にしてまず思うのは、外装デザインがやたらと直線的で、しかも無機質な感じがすること。個性的と言えば確かにそうかもしれないが、「フラッグシップセダンでこれは…」というのが本音だ。
マフラーは右側にメインサイレンサーがあり、そこからバンパーの裏を通してテールエンドを左側に配置。静粛性の向上を目的にサイレンサー以降のパイプ長を長く取ったのだろうか?
続いて内装。意外にも立てつけがしっかりしているドアを開けると、そこには「昭和のキャバレー!?」と、思わず目をこすってしまうような世界が…。
当時の、いわゆるハイソカーでは定番だったワインレッドの内装色、まるでソファのようなシート。とにもかくにも、高級感の演出方法がストレートなのだ。好き嫌いは別として、誰にでも分かりやすいという点で、日本の高級セダンの代表格、クラウンロイヤルシリーズをも凌いでいると思う。そう、我が道を突き進んでこそ三菱なのだ。
ダッシュボードは直線基調のデザインで、木目パネルを配して高級感を演出。ホーンパッドに『DEBONAIR V』のバッジがあしらわれたステアリングホイールも個性的だ。メーターパネルはスピード&タコメーターを中心に、右側に水温&燃料系を配置。
メーターパネル左側に設けられた“エアフローインジケーター”。エアフローと言っても吸気系の“あれ”でなく、エアコン吹き出し口の位置と外気導入もしくは内気循環を示すものだ。
センターコンソールは、上から順にエアコン操作パネル→灰皿&シガーライター→2DIN分のオーディオスペース。この配置、記憶が正しければ、R31スカイラインと同じでデザインも似ている…ように思う。標準装備のAM/FM電子チューナー付きカセットデッキがたまらない。
これを見れば、シートではなくソファと表現する方が適していると納得してもらえるはず。座り心地は至ってソフトで快適そのもの。運転席は前後スライドと座面の高さ調整が電動、リクライニングが手動となる。
前席シートバックに装備されたアシストグリップ。ワインレッドの内装色と合わせて、これぞ高級セダンの証だ。
上部に起毛、下部にパイル地が使われ、メッキやウッド調パネルが用いられたドアトリム。アームレストの側面にトランクオープナーが確認できるが、これはクラウンを意識してのことに違いない。
左右の張り出しが大きめだが、容量的には十分と思われるトランクルーム。奥の黒いボックス状の物体は小物を入れておくスペースだと思われる。また、左右ヒンジ部にはダンパーが備わるなど、ここにもコストを掛けた跡が…。
デボネアVの世界は、身体を優しく包み込んでくれる運転席に腰を降ろした瞬間から堪能できる。フロアに対する着座位置は決して高くないのに、ボンネットの先端までハッキリ見える開けた視界。その中央にそびえる『V』を模したマスコットが誇らしげだ。
ATセレクターレバーでDレンジを選んでそろそろと走り出す。スーパーチャージャー仕様の6G71は2000rpmも回っていれば十分なトルクを発揮。アクセルオンと同時にメーターパネル内の緑色のインジケーターが点灯して、スーパーチャージャーの作動を視覚的に訴えるが、遮音がよほどしっかりしているからか、ルーツ式にありがちな作動音はまるで聞こえてこない。むしろ、耳に入ってくるのはV6特有の少し曇ったサウンドだ。
しばらく流したら、アクセルペダルを床まで踏みつけてみる。想像を超える力強い加速感で、5000rpm付近までトルクがフラットに持続する。エンジンの吹け上がり自体は割と重いが、ロングなギヤ比とのマッチングで胸がスーッと空くような息の長い加速を楽しませてくれる。
それと、秀逸だったのがブレーキ。この手の高級セダンは大抵ペダルタッチがスポンジーだったりするが、デボネアVのそれは非常にカッチリしているので安心感が違うのだ。
試乗するまで、走りには期待していなかったが、それを良い意味で裏切ってくれたデボネアVスーパーサルーンエクストラ・スーパーチャージャー。スタイリングは破綻寸前だが、走りは非常に真面目…という大きなギャップを知った今、自分の中での“レア車”指数がさらに上昇したことは言うまでもないだろう。
■デボネアV2000スーパーサルーンエクストラ・スーパーチャージャー
車両型式:S11A
全長×全幅×全高:4690×1695×1440mm
ホイールベース:2735mm
トレッド(F/R):1455/1420mm
車両重量:1440kg
エンジン型式:6G71
エンジン形式:V6SOHC+スーパーチャージャー
ボア×ストローク:φ74.7×76.0mm
排気量:1998cc 圧縮比:8.0:1
最高出力:150ps/5000rpm
最大トルク:22.5kgm/3000rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/3リンク式トーションアクスル
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ(F/R):195/70R14
●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:むさしの自動車商会 埼玉県さいたま市桜区中島4-13-22 TEL:048-851-2180
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