目次
これぞまさにアメリカ人のお家芸!
豊富なリソースを活かしたV8スワップという手法
アメリカ人にとって最も身近なエンジンとも言えるV8。中でも圧倒的な流通量を誇るのが、GM製のLS型だ。補修用の新品エンジンが簡単に手に入る上、ジャンクヤードやスワップミートでも中古品がゴロゴロ。純正部品も入手しやすく、アフターパーツも数多くリリースされているため、LS型V8に換装することは最も手っ取り早くパワーアップする手段でもあるのだ。
その一例が、プライベートビルダーであるリチャード・マドランバヤンが製作した73年式ダットサン240Zである。
搭載されるエンジンは、キャデラックの大型SUVであるエスカレードの3代目モデルに採用されていたL92型。大型SUV向けユニットのためトルク特性に優れ、可変バルブタイミング機構(VVT)も内蔵されている。
ただし、リチャードは燃費を気にするわけでもないのでデリートキットを使ってVVTを排除。エンジンマウントはDirty Dingoの製品を使用しており、LS換装用のマウントが既製品として販売されているところが、さすがアメリカ。
ピストン、コンロッド、クランクはノーマルのままで、その他のメカ部品も新品を使ったリフレッシュが主なメニューだ。それでも純正トレードで400ps以上のパワーが手に入り、チューニングの余地も残るのだから、V8換装が「お手軽」と言われても頷くしかない。
細部を見ていくと、BTRのハイカムを使用する他、92mmの大径スロットル&インテーク、カスタムメイドの76.2mm径のデュアルエキゾーストなどで吸排気系を強化。ホーリーのスタンドアローン型ECUであるターミネーターXで制御を行い、燃料にエタノール含有ガソリンを使用できるフレックスフューエル化も実現。恐らく500psは出ているのではないかと、リチャードは話す。
サスペンションにはロワコントロールアームなど、大半のアーム類をビレット削り出しで製作したアリゾナZカーのトラックパックサスペンションキットを採用。3種類のバネレートから選択できる車高調をはじめ、5穴の前後ハブとウィルウッド製ビッグブレーキ、R200デフ、CVアクスルなどをワンセットにしている。
ホイールはSSRフォーミュラエアロメッシュの18インチ。ミディアムディスクでオーダー可能な中で最も深い11.5J -42をチョイスしている。タイヤはファルケンのアゼニスRT615K+の315/30R18を装着。
ZtrixのFRP製ダッシュパネルを備え、メータークラスターにはハルテックのIQ3ストリートダッシュをインストール。ロールケージも備わるレーシーなインテリアだが、ヴィンテージエア製のエアコン&ヒーターキットを装着しており、快適な室内温度をキープできる。シートはNRG製のカーボンバケットシート。
センサー、コントローラー、メーターをセットにしたZeitronixのフレックスフューエルキットを使用。メーターにはリアルタイムのエタノール含有量がパーセンテージで表示される。このデータをもとにフルコンを使った、よりきめ細やかな制御だって実現可能だ。
トランスミッションはCollinsというメーカーがリリースしているアダプターを使って、350Z(Z33)などに使われている日産純正のCD009型6速MTとドッキング。
Ztrixの280yzワイドボディキットをベースに独自のカスタムワークを実施。MSAのカーボン製バンパーやリヤスポイラー、APRのカーボン製スプリッターなどを組み合わせた。ベント付きFRPボンネットもZtrix製。ボディカラーはダッジ純正色のデストロイヤーグレー。
リチャードにV8を選択した理由を聞くと、「信頼性が高いことと、価格が手頃であること」という。日本人の感覚だとアメリカンV8という時点で信頼性に「?」が浮かびそうなものだが、彼らからすると「壊れたら直せばいい(だって部品が安いから)」というだけの話。そこら辺にも日米の価値観の違いが垣間見られて面白い。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI