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10b専用エンジンとなったCR10DE搭載!!
歴史の闇に葬られた悲しき珍車
ロングセラーの大ヒットモデル、2代目K11マーチの跡を継いで2002年2月に登場した3代目K12マーチ。ボディバリエーションは3ドアと5ドア、エンジンは1.4/1.2/1.0Lと3種類の排気量が揃う、新開発のCR系直4DOHCが搭載された。ここで、「あれ? CRに1.0Lあった?」と思った人はかなりのマニアだ。
そこでグレード展開を見ていくと、最上級モデルがCR14DE搭載の14eで5ドアのみにラインナップ。中間グレードがCR12DE搭載の12cで3ドア、5ドアが存在し、シリーズ唯一の5速MT(これがワンメイクレースのベース車両になった)も用意された…と、ここまでは多くの人が知るところだ。
では、CR10DEはどんなグレードに搭載されていたのかというと、今回取材した廉価モデルの10bだ。
ボディは3ドア、5ドアが揃い、ミッションは4速ATのみの設定。何より10bがヤバイのは搭載されるCR10DEで、なんとK12の10b以外には、他の国内モデルにも海外モデルにも搭載された実績がまるでない。つまり、日産の思惑は知る由もないが、CR10DEは結果的に10b専用エンジンだったということになるのだ。
それだけでもマニア車としての資質は十分なのに、10bは翌2003年6月に早くもカタログモデルから脱落。同時にCR10DEも消滅したわけで、わずか1年4ヵ月しか生産されなかった事実が、かえって10bのマニア的価値を高騰させてしまうというおかしな事態を引き起こしている。
恐らく14インチの鉄ホイールまで含めてフルノーマルに違いない、奇跡的なコンディションを保った10b。まずはこのモデルならではと言える装備面での特徴を見ていこう。
外装では、無塗装で黒い樹脂色そのままのドアミラーとドアハンドルだ。ドアミラーは電動格納はおろか電動角度調整機構も付かないフル手動式となる。
続いてドアノブは、助手席側にもキー穴が設けられているのが10bの証。12c以上はキーレスエントリーが標準なので、運転席側にはキー穴があっても助手席側にはないのだ。
それと、10bはサイド/リヤクォーター/リヤウインドウが、UVカット機能や断熱機能を持たない素ガラスでリヤワイパーも未装着。
続いて室内チェックだ。曲面を多用したデザインのダッシュボード。マーチは歴代そうだが、女性ユーザーに向いたクルマで、K12ではその傾向がより強くなったと思う。メーターは、スピードメーターと燃料系が備わるだけのシンプルなものだ。
センタークラスターは上からフタ付き小物入れ、10b標準のAM/FM電子チューナー、マニュアルエアコン操作パネル。ダッシュボード右端のスイッチ部は電動格納ドアミラーが付かないため化粧パネルで塞がれ、コインホルダーと小物入れだけが装備される。
運転席側サンバイザーにもバニティミラーが付き、ルーフ側にはサングラスホルダーも装備される。スペース活用が上手く、ダッシュボードやセンターコンソール周りにも収納スペースが多数あり。
シートは比較的ゆったりしたサイズで座り心地が良い。ただし、形状を見れば想像できるが、サポート性はあまり期待できない。
ヘッドレストが装備されず、背もたれが一体で可倒する10bの後席。大人2人が乗るには十分なスペースが確保されている。また、3ドア車は後席左右の内装トリムにボトルホルダーや小物入れを完備。これはなかなか実用的だ。
ボア径φ71.0×ストローク量63.0mmというかなりのショートストローク型で、CRシリーズ中もっとも高い10.1という圧縮比。「もしかして、スポーティな走りが楽しめるのでは!?」と期待して試乗したが、100mも走らず、それは見事に打ち砕かれた。
車重は890kgとかなり軽量な部類に入るものの、やはり68ps/9.8kgmという軽自動車並みのスペックは力不足で、走りがカッタるいのも無理はないだろう。
しかし、メジャーなK12の中にこんな変態モデルがあって取材できたことは、この上ない幸運だ。もし街でK12を見かけたら、それが10bであるかどうかのチェックはお忘れなく!!
■SPECIFICATIONS
車両型式:K12
全長×全幅×全高:3695×1660×1525mm
ホイールベース:2430mm
トレッド(F/R)1470/1455mm
車両重量:890kg
エンジン型式:CR10DE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ71.0×63.0mm
排気量:997cc 圧縮比:10.1:1
最高出力:68ps/5600rpm
最大トルク:9.8kgm/3600rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ(F/R):165/70-14
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)