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オーテックの本気がほとばしるマーチ12SR
見た目は似てるのに走りの印象はまるで異なる2台を比較
3代目マーチとして2002年3月に発売されたK12。新開発となるCR型エンジンを搭載し、1.0L、1.2L、1.4Lモデルがラインナップされたが、伝統のマーチワンメイクレース用車両としても使われる1.2Lモデルには、シリーズで唯一5速MTが用意されていた。それをベースとしてオーテックが各部に専用チューンを施したのが、2003年10月に登場したスポーツモデル12SRだ。
エンジンは型式こそCR12DEながら、専用ピストンによる圧縮比アップやカムプロフィール変更、吸排気効率アップ、専用ECUなどによってノーマルの90psから108psへと20%ものパワーアップを実現。その発生回転数も5600rpmから6900rpmへと引き上げられるなど、高回転高出力型へと生まれ変わった。
一方、トルクも12.3kgmから13.7kgmへと向上しながら、発生回転数は4000rpmから3600rpmへと低下。実用域での扱いやすさも改善されているのだ。
さらに、剛性アップが図られたボディや専用チューンが施された足回り、高速走行時にダウンフォースを生むフロントエアロスパッツなども採用。技術屋集団オーテックの本気ぶりがビシビシ伝わってくる内容となっている。
その後、2005年8月にベースのK12がマイナーチェンジ。中期型に切り替わるタイミングに合わせて12SRにも改良が施された。エンジンはポート研磨が行われ、新設計となる専用ステンレス製EXマニの採用や吸排気系レイアウトの見直しなどによってパワーが110psまで向上。
また、ボディ補強箇所の追加やパワーステアリングのアシスト特性変更、リヤトーションビームのねじり剛性アップとキャンバー角の見直し、それに伴うフロントサスの改良、ディスクローター大径化によるブレーキ容量アップなども行われた。
ちなみに、中期型から3ドアモデルがカタログ落ちしたことにより、これ以降の12SRは5ドアモデルのみとなる。
1.5L+CVTでイージードライブも可能なマーチ15SR-A
中期型では109psのHR15DEを載せ、K11以来となるCVTを組み合わせた1.5Lモデルが追加。それをオーテック流に仕立てたのが15SR-Aだ。
エンジンは吸排気系まで含めてノーマルだが、専用チューンドサスペンションや大径ブレーキローターなどは12SRと共通。ボディ補強もフロア下の補強板の枚数が違うだけで(12SRは3枚、15SR-Aは2枚)、基本は12SRと同じと思っていい。「普段はCVTでイージードライブ、踏めばスポーティな走りも楽しめる」というのが15SR-Aの立ち位置だ。
2台のオーナーは同一人物なんです!?
そんな2台、12SRはよく見かけるが、15SR-Aはこれまで見た記憶がなかった。そこで生産台数を調べたところ、12SRの約7400台に対して15SR-Aはたったの約150台…。そりゃ見かける機会もないよな…と、思わず納得。
取材車両は12SRが2005年式、15SR-Aが2006年式で、ともに中期型。実はこの2台、所有者が同じだったりするのだ。
「10年前ですかね。息子が免許を取ったので、ちょっと変わったクルマが良いなと思い、まず12SRを買いました。翌年、今度は娘が免許を取り、AT(CVT)の中古車を探してたら15SR-Aが出てきたんですよ」と笑うのがオーナーの竹内さん。変態である。
ちなみに、両車両ともにほぼストック状態だが、ボンネットはどちらもインパルコンプレッサーキットCR-02用に交換。本来はコンプレッサーキット装着時にインテークパイプを逃がすため、大きく盛り上がった形状が特徴だ。
「ノーマルの10kgに対して、これはFRP製で5kg。フロント周りの軽量化になるんです」と竹内さん。
12SRと15SR-Aを乗り比べ!
まずは12SRから試乗。低回転域のトルクが少し細い感じもするが、車重が960kgと軽いからゼロ発進からでもモタつくような素振りはなし。専用チューンが施されたエンジンは4000rpmから元気が出てきて、タコメーター読み7000rpmまでパワーを盛り上げながら軽快に回り切る。ハイコンプ仕様らしく、アクセルペダル操作に直結したような弾けるレスポンスも快感だ。
これが、誰でも買える新車としてラインナップされていたのだから凄いと思う。見た目は少し尖ったマーチだが、中身はオーテックというワークス系メーカーが気合を入れて作ったチューニングカーに他ならない。
室内は、左右グリップ部にディンプル加工が施された本革巻き3本スポークステアリングホイールや本革巻きシフトノブ、アルミ製ペダルなどが12SRと15SR-Aに共通する専用品。
メーターパネルは、スピードメーターとタコメーターの間に燃料計が配置されたシンプルなデザインだ。7300rpmからレッドゾーンが始まるタコメーターが高回転型エンジンを搭載する証。
続いて15SR-Aに乗り換える。チューニング内容だけを比べると、こちらはエンジンがノーマルだしミッションもCVTだからあまり期待はしていなかったのだが、走り出してすぐに「12SRより速いかも!?」と思ってしまった。
パワーこそほぼ変わらないが、15SR-Aは排気量が1.5L。トルクは15SR-Aの方が1.5kgmほど大きく、しかもパワー&トルクバンドの美味しいところをキープしたまま加速できるCVTだ。
たしかに車重は12SRより50kg重い1010kgだが、トルク特性とCVTで差し引きゼロなのでは?というのが筆者の読み。高回転志向のエンジンで回せば速い12SRに対して、15SR-Aはトルク型エンジンだけに回さなくても速いというわけだ。
これが15SR-Aの室内。本革巻き3本スポークステアリングは12SRと共通。CVTノブやアルミ製ペダルは15SR-A専用となる。よく見ると、アクセルペダルの形状が12SRとは異なる点に注目。
文字盤がブラックとされたメーターパネルは12SR、15SR-Aの専用品で基本的なデザインも同じ。レッドゾーンが6500rpmから始まるタコメーターが12SRとの違いになる。
回せば速い12SRと、回さなくても速い15SR-A
2台を試乗して思ったのは、12SRは過去に何度か取材したことを含めイメージしていた通りの走り、初めて接した15SR-Aは予想をはるかに超えた元気な走り…だったということだ。
もちろん、ガンガン走りたいなら断然12SRだが、日常の足として使うのがメインで少しスポーティさも望むなら、むしろ選択肢としては15SR-Aの方が正解だと思う。さらに、変態グルマ好きの観点からすれば、何よりもその希少性が決定打になる。
中古車がほぼゼロに等しく、これから手に入れるのは難しそうだが、15SR-Aには探してみるだけの価値が絶対にある!
■SPECIFICATIONS(12SR)
車両型式:AK12
全長×全幅×全高:3735×1670×1505mm
ホイールベース:2430mm
トレッド(F/R):1460/1455mm
車両重量:960kg
エンジン型式:CR12DE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ71.0×78.3mm
排気量:1240cc 圧縮比:11.5:1
最高出力:110ps/6900rpm
最大トルク:13.7kgm/3600rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR185/55R15
新車価格:178万2900円
■SPECIFICATIONS(15SR-A)
車両型式:YK12
全長×全幅×全高:3735×1670×1505mm
ホイールベース:2430mm
トレッド(F/R):1460/1455mm
車両重量:1010kg
エンジン型式:HR15DE
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ78.0×78.4mm
排気量:1498cc 圧縮比:10.5:1
最高出力:109ps/6000rpm
最大トルク:15.1kgm/4400rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トーションビーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:FR185/55R15
新車価格:175万8750円
TEXT&PHOTO:廣嶋KEN太郎
OWNER:竹内和夫
Special Thanks:伊藤明洋/HGN No.0029