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生粋のアメリカン・ストリートファイター
魅惑のターボセッティングとフレックスフューエルで652馬力を実現
日本ではランエボの愛称で知られる、三菱ランサーエボリューション。アメリカでは8世代目のランエボVIIIから正規輸入され“Evo(イヴォ)”の愛称で親しまれている。ランエボVIIIの輸入が始まったのは、時折しもスポコンブーム真っ只中の2003年。その影響もあって、Evoはスポーツコンパクトをベースとしたストリートチューンの王道的モデルとして確固たる地位を築いた。
LAを中心としたエリアでストリートランナーズというチームを組むライアンは、2006年モデルのランエボIXを所有するカーガイ。その他にも1000psオーバーを実現したR35GT-Rや、755psのC7コルベットZR1も所有していたりする。
ライアンのランエボIX最大の見どころは、ワンオフメイドのターボセッティング。手がけたのは羊のシンボルマークで知られる名うてのファブリケーター『Sheepey Built(シーピー・ビルト)』のアレクサンダー・ソトだ。
日本では、タービン交換で性能アップしたいけど取り付けはボルトオンで…というのが一般的な考え方。そのため、純正位置にマウントされるタービンはEXマニの陰にひっそりと隠れ、縁の下の力持ちに徹するのが普通だ。
だが、シーピーの場合は車種が何であれ「いかにタービンをエンジンルームの主役として際立たせるか」という哲学を貫いている。4G63が横置き搭載され、前方排気のレイアウトを採用するランエボⅨであれば、シーピーにとってはフロント側が己の技を炸裂させるキャンバスということになるわけだ。
まずは、プレシジョンの6266 Gen2タービンをトップマウントすると同時に、コンプレッサーハウジング入口が前を向くフォワードフェイシングマニホールドを製作。配管に使用されるのは全てチタンパイプで、独特の風合いを醸し出す溶接痕や焼き色も演出となっている。
タービンハウジングから直接伸びるエキゾーストパイプと、ウエストゲートバルブを備えるアップパイプが、2本並んでボンネットから突き出すフードエグジットを採用。主にドラッグレーサーが使うスタイルだが、ストリートチューンに落とし込むには、ひとつふたつネジが外れていないとできない所業だ。
せっかくパイピングがチタンでカッコ良く決まったのなら…と、チェイシングJ’sのクーリングプレートやEbbFabのラジエターアッパーパイプ、ドレスアップボルトのハードウェアなど、ふと目に留まるディティールパーツもチタンで統一。バルブカバーにはパウダーコートを施して、チタンの焼き色とコーディネイトさせている。
もちろん、4G63は内部にも手が入っており、GSC製S3ビレットカムやクロワーの強化スプリング&チタンリテーナーなどを使用してヘッドを強化。高回転域のパワー追従性能を引き上げている。
また、エタノール混合燃料のE85を使用することができるフレックスフューエル対応の燃料系を構築し、インジェクターは1800ccの大容量タイプに変更。ウィーラーモータースポーツのブルースによりセッティングが施され、最高出力は652psを実現した。
外装はあまり派手なエアロ仕様ではないが、フロントはレックスピードのカーボン製フロントエアダクト、サイドスカート、サイドスパッツ、セイボンのカーボンボンネットなどを装着。リヤはドゥーラックのカーボントランク、バリスのカーボンリヤディフューザーを備える。カーボン地を出すのは一部に留めて、他は潔く純正色のフェニックスレッドでペイントしている。
ホイールはボルクレーシングZE40を装着。タイヤはファルケンのアゼニスRT615K+を組み合わせる。チャージスピードのフェンダーを備え、走りとスタイルの両面を考えた足回りセッティングを実現。車高調でローダウンし、ホワイトラインのロールセンターアジャスターや各種補強バーも装着され、ストリートでのソリッドな乗り味を演出している。
オートパワーの6点式ロールケージが組まれ、ビートラッシュのリヤシートデリートも備わるスパルタンな室内。MOMOのスエード製モンテカルロステアリング、ステイタスのGTXバケットシート、インディビジュアルレーシングパーツのショートシフターなどを装備し、操作の機能性も向上。
チタンパーツが多く使用されているエンジンルームに負けじと、インテリアもメーターまわりにチェイシングJ’sのチタンゲージベゼルカバー、ステアリングの固定にチタンボルトを備える念の入りようだ。
サーキットアタック車両としても通用しそうなほど完成度が高いライアンのランエボⅨ。しかし、ライアンは愛機の実力を解放する場をあくまでストリートと決めている。ストリートランナーズの仲間たちと、夜な夜な街に繰り出すことを楽しむ毎日。LAの夜空に、弾ける4G63サウンドを奏でているのだ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI