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7M-GTや1G-G系では味わえない走り心地
街乗りに限れば1G-GEUより良いかもしれない!?
国産車初の本格的スペシャリティクーペとして爆発的人気を誇った初代のあとを受け、1986年に登場したのが2代目Z20系ソアラ。
3.0L直6DOHCターボ、7M-GTEU(230ps/33.0kgm)搭載の3.0GTリミテッド/GTを筆頭に、2.0L直6DOHCツインターボの1G-GTEU(185ps/24.5kgm)を載せる2.0GTツインターボ、そのNA版1G-GEU(140ps/17.6kgm)を積む2.0GT…と、2代目ソアラと聞いてイメージするのはそこまでだ。
が、その下にもひと知れずグレードが存在した。2.0L直6SOHCの1G-EU(105ps/16.0kgm)を搭載する2.0VXと前期型のみに存在するVZである。
1986年の発売から1989年1月までVX(と1988年1月までの前期型ではVZ)に搭載された1G-EU型は、それまでのM型に代わる直6エンジン。レーザー1G-IIと呼ばれ、Dジェトロによる燃料噴射制御や吸気に過流を発生させるヘリカルスワールポートなどの採用によって燃焼効率を高めている。なお、1989年1月以降の後期VXは1G-EUに代えてハイメカツインカムの1G-FEを搭載することになった。
取材車両は、標準装備される15インチのスチールホイール+フルキャップを履き、オプションのハーフシートカバーまで備えた奇跡のフルノーマル車。オーナーによると、元々、祖父が乗っていたのを譲り受けたそうで、前後の2桁ナンバーが乗り続けられている歴史を物語る。
世界初の4リンク式ドアヒンジを採用したイージーアクセスドア。前にスライドしながら開くという独特な動きを見せるドアを開け、運転席に腰を降ろす。
ステアリングホイールは1G-GTEU搭載の2.0GTツインターボ以外は2本スポークタイプを装着。センターコンソールは上からエアコン吹き出し口、VX以上のグレードに標準装備されるオートエアコン、シガーライター&灰皿、2DINオーディオスペースが並ぶ。
イグニッションキーをひねると、目の前に浮かび上がるのがデジパネだ。速度をデジタルで、エンジン回転数や燃料残量をバーグラフで表示するデジパネには、鏡の反射を利用し、視線移動に伴う焦点距離の変化を最小限に抑えるスペースビジョンメーターが採用される。視認性を高める世界初の技術だ。
その形状によってラグジュアリーとスポーツ、各部の調整も電動式と手動式で計4タイプが用意される前席。VXはラグジュアリータイプの手動調整式が備わる。
後席はヘッドレスト一体型のハイバックタイプでセンターアームレストを装備。グリフォンがデザインされた純正ハーフシートカバーは激レアアイテムだ。
スペースビジョンメーターが未だに感じさせてくれるその近未来感にしばし浸ったら、短く、タッチが小気味良いATセレクターレバーでDレンジをセレクトして走り出す。ミッションは4速AT。1G-GEUを搭載する2.0GT以上のグレードでは、ノーマル、エコノミー、パワーと3つのモードを選べる電子制御式(ECT)となるが、1G-EUに組み合わされるのは油圧式だ。
1G-EUは低速トルクの細さを懸念していたが、意外にも2000rpmも回っていれば十分。4速ATとのマッチングも良く、街乗りに限って言えば、低速域が頼りないDOHC版1G-GEUよりも活発に走ってくれる。回転フィールは軽快というより重厚だが、スムーズに吹け上がってくれるところに直6らしさが感じられる。
しばらく走って気付いたのは、ボディ剛性の高さだ。内装パネルのキシミ音などは皆無で、多少ロードノイズが耳に付くものの、基本的に静粛性は高く、30年以上前のデビュー当時を思うと、それは驚異的なレベルにあったのではないかと推測できた。
ホイールはVX標準で6.0J×15のスチール製にフルカバー。「よくこの状態で残っていたな…」と驚くしかない。そこに組み合わされるタイヤは195/60R15サイズのルマンLM704だ。
一方、想像と違っていたのがハンドリング。スローなステアリングギヤレシオで、スポーティカーらしくキビキビ向きを変えるというより、高速道路をクルージングする方が適している。GTカー的な性格が与えられたスペシャリティクーペであることを考えれば、こういう味付けになることにも納得だ。
GT系がソアラの“顔”であることに異論はない。しかし、速さを求めないのならば、その乗り味や希少性も含めて2.0VXという選択肢もアリだと思った。
■SPECIFICATIONS
車両型式:GZ20
全長×全幅×全高4675×1695×1345mm
ホイールベース:2670mm
トレッド(F/R):1460/1455mm
車両重量:1330kg
エンジン型式:1G-EU
エンジン形式:直6SOHC
ボア×ストローク:φ75.0×75.0mm
排気量:1988cc 圧縮比:9.2:1
最高出力:105ps/5200rpm
最大トルク:16.0kgm/4000rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR195/60R15
PHOTO &TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)