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タンブル生成ピストンの衝撃
FA24用エンジンパーツが続々スタンバイ
“GR86/BRZを誰よりも楽しむ”というコンセプトを掲げ、チューニングプロジェクトを展開中の“HKS”。
現行型も登場から4年目を迎え、HKSのパーツラインナップはほぼ出揃ったと言っていい。パワー系の基本となる吸排気からスーパーチャージャーおよびターボという2種のボルトオン過給機、新世代の車高調として人気爆発中のハイパーマックス、そしてタイムアタックシーンのノウハウをフィードバックしたボディキット…等々。いずれも高性能・高品質が自慢の各種パーツは、カスタマイズで欠かせないものとなっている。
もちろん、HKSのGR86&BRZチューニングプロジェクトはこれで終わるわけはない。
現在、力を入れて開発が進められているのは、リリース済みの2.5Lキットに続くFA24エンジンのメカニカルチューニングパーツ。これらは、HKSの真骨頂であるパワーチューニングを次のステップへと導くために必要となるものだが、その中でも注目はTT(トリプルタンブル)というネーミングが与えられた、これまでにないクラウン形状を持つ強化ピストンだ。
ガソリンエンジンの出力・燃費性能向上で重要な要素となるのは、圧縮した混合気を点火後に素早く燃焼させることだ。そのために混合気は気筒内に渦を作って導かれるが、従来型エンジンのスワール流(横流れの渦)に対し、FA24が採用する新世代の直噴エンジンでは縦方向の渦であるタンブル流を発生させるポート形状が採用されている。
HKSが開発したTT(トリプルタンブル)ピストンの立体的なクラウン形状は、このタンブル流による燃焼効率を最大限に活用するためにデザインされたものだ。
ちなみに、“トリプル”のネーミングの由来は、クラウン部に設けられた3つのキャビティ(くぼみ)よるもの。左右のキャビティがまずタンブルを発生させ、さらにピストンが上昇すると中央のキャビティで第3のタンブルが生まれる構造だ。その結果、ノッキング限界が高まり、ハイコンプNA仕様では出力向上、過給機チューンドでも点火時期が進められるため出力向上が可能となるのだ。
右の従来型ピストンも純正に順したタンブル流に対応した形状が採用されているが、左のTTピストンはそれを独自に進化させた形状であることがよく分かる。ボア径は94mmで、冠面には耐ノック性の高い無電解ニッケルメッキ、スカート部にはフリクション低減の2層式モリブデンコートを採用。
ピストンの素材は高温強度に優れるA2618鍛造素材。ピストンの裏側には軽量化のための肉抜き加工も施され、1個あたりの重量は332gとしている。ピストンリングは純正品が使用できる設計だ。
このトリプルタンブル(TT)ストラクチャーを採用したピストンを軸とした新たなFA24用の2.5Lキット(価格未定)は、I断面コンロッド、90mmロングストローククランクを組み合わせたフルキット(ステップ1/ステップ2)とピストンキットを設定予定。
0.8mmガスケットの装着で圧縮比は12.1となるNAチューニング向けのハイコンプキットだが、TTピストンの耐ノック性の高さは過給機チューニングでも有効。高オクタン燃料仕様に合わせたセッティングで、さらなるハイパワーが狙える。リリース時期は2025年春頃が予定されている。
フルキットに含まれるI断面コンロッドはリリース中の2.5Lキットのものと共通で、ステップ1は高強度I断面、ステップ2は約30%の強度アップを達成したクロモリ鋼の総削り出しタイプを採用する。
クランクシャフトも先行の2.5Lキットと共通の鍛造ロングストローク(90mm)タイプを採用。ピンジャーナルサイズが専用設計とするなど強度とバランスを追求して開発。メタルは日産RB26&SRエンジン用を使う設計だ。
FA20改2.1LもFA24改2.5Lもクランクストロークは90mmということで、現在はプーリーボルトサイズをFA24用に合わせたクランクシャフトとして共通化が図られている。
TT形状を採用したもうひとつのキットとして開発したのが、NAファインチューンに最適となるハイコンプピストンキット(価格未定)。純正補修としての用途も考慮して、ピストン径を0.5mmオーバーサイズの94.5φに設定(排気量2412cc)されている。冠面のメッキ処理を省き、より手頃な価格を目指しているのもポイントだ。こちらも2025年春のリリースを予定。
さらに、ボアシール部のストッパー構造を独立タイプとした高いシール性に加え、表面の特殊コーテイングで結合力を向上させたメタルヘッドガスケットに、NAチューンに対応する0.7mmタイプ(3万9600円)が追加設定されたのもトピック。94.5φのTTピストンとの組み合わせで、圧縮比が12.9になるという絶妙な仕様だ。
もちろん、TTタイプのピストン追加後も従来の排気量アップキット(46万2000円)は継続して販売される。ハイコンプ仕様となっているが、オーバー400psを狙うようなチューニングとのマッチングも良く、実際に多くのタイムアタックマシンに採用されてハイパフォーマンスぶりを発揮している。コンロッドの異なるステップ1とステップ2フルキットの他、ピストンキットも設定されている。
また、シリンダーブロックにHKSの熟練メカニックが2.5Lキットを組み込んだショートブロックにも、新開発のハイコンプTTピストン採用タイプ(価格未定)が追加となる予定だ。ターゲットはGT3-RS以上のビッグタービン装着車で、ハイパワーに対応するクローズドデッキブロックを採用するのが注目ポイント。削り出しコンロッドのステップ2のみの設定で、2025年初夏のリリースとなるようだ。
「トリプルタンブルストラクチャーは、GRヤリスに搭載されるG16Eエンジンのプレチャンバーシステム開発の過程で生まれた偶然の産物でした。その後に積極的なタンブル生成の効果を検証し、FA24用への最適化を図っています。TTピストンがもたらす高い燃焼効率をフルに発揮できるよう、今後もパーツやキットの開発をしていきますのでご期待ください」とはHKSの高橋さん。
レスポンスと耐久性を高めるメカニカルチューンは、NA、スーパーチャージャー、ターボのいずれの仕様でも大きなメリットとなる。GR86&BRZオーナーは、HKSの動向に注目せよ!
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