衝撃的なピアッツァとの出会いから30年!

期待通りの底知れぬマニアっぷり!

ほめ言葉として捉えてもらいたいが、いすゞ車好きにはホントに変わり者が多い。過去に出会ったオーナーも強烈な個性派が揃っていて、いすゞワールドの奥深さとマニアの強さを思い知らされること度々。今回取材に訪れた多賀さんもまた、その期待を裏切ることのないカオスな世界の住人だった。

聞くところによると、学生時代にデビューしたての真っ赤なピアッツァを目撃したのがその出会い。美しいボディラインに見とれていると、不意に開けられたそのピアッツァのドアが後続車にヒット。180度持っていかれるという衝撃シーンまで目撃してしまったが…、そんな出会いながらも「ピアッツァを絶対に買う!」と謎の使命感に駆られてしまったそうだ。

その後時間は過ぎていき、現在所有数するピアッツァを手に入れたのは、社会人になって仕事が落ち着いてきた頃。店頭で狙っていたクルマが売約済みになってしまったところ、系列店にある限定の本革内装仕様車を紹介された。この「限定」の言葉に飛びついて、現車を見ることなく購入を決意してしまったのだが、深いマニア道への入り口だったとは、当時の多賀さんには知るよしもなかった。

「乗りはじめて気づいたんですが、ピアッツァってなんだかよく壊れるんですよ。しかも、ディーラーに修理に出しても完璧に直ることは少なくて、まさに次から次にトラブルが勃発しちゃって。そうは言っても気に入っているので手放すなんて考えもない。そうこうしていると、今度はディーラーがなくなってしまったり…(汗)。そこで、父の紹介で港北にある輸入車のお店に、このクルマはロータスだって言うことで持ち込むようになったんです(笑)」

ちょうどその頃、エンジンとATのオーバーホールを考え、相談してみたところ、ATは直すんじゃなくてMTに積み替えてみたら? と言う提案を受けた。もちろんこの申し出は即OK。ちょうど出てきた解体車から必要なパーツを剥ぎ取り総移植の大工事がスタートしたそうだ。

元々は限定のレザー仕様だった内装は、MT換装時に出てきた部品取りからファブリック仕様に変更。エンクロージャー式の純正スピーカーは思った以上に音が良かったため、社外品へと交換するのではなく、コーンをレストアして使用している。

エンジンは10万km・そして20万km走行時にオーバーホールされ、現在も不具合は一切なし。万が一の際もコミュニティの力を借りれば修復できる心強さは、この先も乗り続けるための原動力となっている。

「解体車が出てきた時に、まだ生きているいろんなパーツが勿体無いなと感じちゃったんです。でも当時はストックしておける場所もなかったので、泣く泣く解体に出て行ったんですが、今考えると貴重なものもありましたね。そんな思いを経験したからこそ、場所が確保できた現在は内外装から機関系まで出来る限り収集するようになっちゃったんです」。

ちなみに、ピアッツァは前期後期やイルムシャ、ロータスなどで使用されるパーツがそれぞれ違っている。もっと言えばNAとターボ、ATとMTでも設計が異なる部品が多数使われているのだ。通常で考えれば自分が所有するモデルにターゲットを絞ってパーツを集めるのだが、多賀さんはピアッツァ全方位に目を向けて主要パーツをストックしている。

「ピアッツァ界でマニアとして有名な川端さんのトコはエンジンやミッションを中心にストックしていますが、自分は電装系やアクセサリーを中心に機関系まで集めています。仲間から○○の部品ない? って聞かれたら、「あるよ」って答えたいじゃないですか。だから自分のピアッツァには使えない部品までストックしているので、我が家は横浜パーツセンターと呼ばれていますよ(苦笑)」。

住宅を購入する時にこだわったのが、ピアッツァを保管するビルトインガレージがあること。しかし現在はその大半を保管パーツに占拠され、足車のキャロルがやっとのスペース。メインのピアッツァは屋外に出されて本末転倒となってしまったのだ。

電子/電気系が得意な多賀さん。トラブルの多いデジパネやサテライトスイッチを机上で動かすためのテスターは自作のアイテムだ。ディーラーの整備手順では車上でしかテストできず、自身にとって作業性が悪かったことが製作のきっかけとなったのだとか。他にもディーラーで使用していたテスター類なども手に入れているのはマニアの必然。

凝りはじめたらトコトン突き詰める性格の多賀さん。その興味の対象はピアッツァだけでなく、若い頃から親しんだ音楽やAV機器、スケールモデル、バイクなどとにかく幅広い。特にスケールモデルに関してはレジンキットを用いて愛車を再現したり、3Dプリンタを活用して一から製作するほどだ。この3Dプリンタを動かすため、独学でCADを習得していると言うから、のめり込み具合も半端ない。

そして、ほとんどのパーツが製廃となっているピアッツァでは、この技術が大いに役立っている。現物を採寸してCADデータに落とし込み、3Dプリンタを使ってリバースエンジニアリングしているのだ。ワンオフで対処するのではなく、量産体制まで整えられた現状は、もはや横浜パーツセンターどころではなく、多賀製作所と呼ばれてもおかしくない状況だ。

いすゞオーナーには変わり者が多い。と言うよりも、のめり込む性格の人がピアッツァを好むのかもしれない。色濃く深いマニアの世界は、こうした住人によってさらに深く掘り下げられていくのだ。