ホットロッドの精神をドーピング!
驚異のV8スーパーチャージャー仕様
アメリカンマッスルの象徴とも言えるV8エンジンにモアパワーを与えるスーパーチャージャー。カマロやコルベットはもちろん、最近はジープのハイパフォーマンスモデルなど、フルサイズのSUVやピックアップトラックのためのアフターパーツとしても人気を集めている。

いかにもトランプさんが日本で売りたくてしょうがないクルマばかりだが、ある意味それとは逆張りかのように、アメリカで人気の高い日本車である350Z(Z33)をベースにデモカーを製作したのが、カリフォルニア州ベンチュラに拠点を置く『マグヌソン・スーパーチャージャーズ』だ。
国産車好きのアメリカ人を上客に持つメーカーとしては攻めたプロモーションだが、プロジェクトを任されたのは弱冠23歳のノエル・マルチネス。20歳で同社に就職し、ソーシャルメディアコーディネーターとして働く若手社員である。

2024年のSEMAショーに出展する車両の企画を「1ヵ月やるから何か作れ」と上司に一任されたノエル。恐れを知らない若者が選んだベースが350Zだった。
「ウィロースプリングでV8スワップの350Zがドリフトしているところを見て、これだ!って思ったんだ。急いでベース車を購入して、リサーチしたり、YouTubeにアップする動画を撮影したりしたんだけど、そのプロセスでJDMやドリフトのコミュニティが本当に良くしてくれて、パーツの協賛もたくさん得ることができたんだ。JDMはひとつのビッグファミリーのようだね」。
ノエルがそう驚いたほど、アメリカの市場に広く深く浸透しているJDMカルチャー。中でも、スーパーチャージャーのマーケットを日本車にも広げていきたいマグヌソンとノエルにとってありがたい存在となったのが、ニュージャージー州のLOJコンバージョンズだ。

LOJはノエルが用意した第三世代のクライスラー製5.7L・HEMIエンジンと、日産純正のCD009型6速MTを接続できるアダプタープレート、マウント類、ビレットアルミ製フライホイール、スターターモーターなどをキット化。クラッチマスター製の強化クラッチやオイルパンも提供し、これさえあればZをV8に載せ替えてスーパーチャージャーだってポン付けだぜ!と言い切れる材料を揃えられたのである。
自慢のスーパーチャージャーは、マグナムTVS2650キットを使用。イートンが特許を持つローターは1回転で2650ccの排気量を持ち、最高出力は約1520psをターゲットにする。

スーパーチャージャーのインテーク入口に、108φの電子制御スロットルボディを装着。スーパーチャージャー本体の両サイドには水冷式インタークーラーが内蔵されており、クーラントを循環させるシステムを350Zの車体に合わせてワンオフで製作した。


車体最前部にマウントされているのが、本来はパワステクーラーとして販売されているCSFラジエターの製品。同じく本来はパワステリザーバーであるチェイスベイの製品にウォーターポンプを取り付け、クーラントを循環させている。オイルクーラーとラジエターも同じくCSF製だ。ビレット削り出しのオイルキャッチカンとクーラントリザーバーは、フロリダ州にあるエンジニアリング・エブリシング製。

バッシュバーの間を埋めるパネルから覗くのは、ボーラ製をベースとする3インチカスタムエキゾースト。パネルを固定するハードウェア(ネジ)もすべてダウンスター製と、いちいちお洒落。


ホイールはアメリカンブランドであるMotegi(モテギ)ホイールのMR158 TSUBAKI。フローフォーミングの鋳造ワンピースで、サイズは18インチ。タイヤはオフロード用のラインアップが多いグラディエータータイヤのXコンプH/Pというハイグリップタイヤを履いている。ブレーキはフロント6ポット、リヤ4ポットのウィルウッド製ビッグブレーキを装着する。

カーボン製のダッシュボードで軽量化を図り、エンジュクレーシングのフルロールケージも備えるドリフトに特化したインテリア。トランスミッションは日産純正の6速MTで、クーラーワークス製のカーボンショートシフターを接続。ドリフトモーションを生み出すウィルウッドのEブレーキ(油圧ハンドブレーキ)システムも備わる。

シートは機能性とファッション性を両立させたNRGのPRISMAを装着。同じく5点式のレーシングハーネス、ダウンスターのステアリングを保持するクイックリリースハブもNRG製だ。

V8エンジンの制御にはホーリーのプラグインECUであるターミネーターXを使用。各種センサーやハーネス、デジタルメーターもリリースされており、その手軽さからV8スワッパーズ御用達アイテムとなっている。

カーボン製の前後フェンダー、ボンネット、サイドスカート、リヤハッチなどは、すべてセイボン製。Z乗りのクラブであるZociety(ゾサイエティ)が製品化した前後のバッシュバーも備え、戦闘的ドリフトミサイルを印象付ける。
SEMAで注目を浴びた後もフォーミュラDなどのイベントに積極的に参加し、JDM愛好家の間でも急速に知名度を上げつつあるマグヌソン・スーパーチャージャーズ。SNS巧者の若手社員がノリと勢いで作り上げた通称“570Z”は今も進化を続けている。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI
