「センチュリー」はトヨタの最上級ブランドに。レクサス新型「LS」のSは「スペース」
トヨタが新たなブランド戦略を発表した。きっかけは2023年4月、豊田章男会長が社内のCM担当者に送った「トヨタ、レクサス、センチュリー、GRという4つのブランドを持ったトヨタがどんなCM戦略をするか、まずはこのメンバーで考えてみてくれませんでしょうか」という一通のメッセージだった。個別車種ごとにバラバラに展開されていた広告を再統合し、トヨタグループとしての全体像を描くことを求めたその言葉を起点に、わずか半年で具体化されたのが今回の「新ブランドフォーメーション」である。
チーフブランディングオフィサーのサイモン・ハンフリーズ氏は「これはチャンス。各ブランドの立ち位置を同時に明確化できる」とし、サッカーチームのように各ブランドの“ポジション”を再定義。10月13日には「トヨタイムズ」内で新しく完成したCMが披露されるとともに、ダイハツを加えた5ブランド体制の全体像が示された。
センチュリー「One of One」:レクサスを超える、新たなブランドとして
なかでも注目は、センチュリーの“ブランド化”である。これまでトヨタの最上位モデルとして存在してきたセンチュリーを「Above Lexus」として独立させ、「One of One(比較されない唯一の存在)」という新しい価値軸を与えた。ハンフリーズ氏は、「センチュリーは“超越する”ブランド。数字では測れない文化的価値を体現する存在です」と説明する。ハンフリーズ氏が初めて自ら手掛けたというCMには、豊田佐吉の自動織機から始まるトヨタの原点や、初代開発責任者・中村健也氏の「同じでないこと」という哲学が重ねられている。
そのCMに登場するオレンジのクーペ風モデルは、5ドアタイプのセンチュリー開発時に会長が発した「僕が乗れるセンチュリーを考えてみてよ」というひと言から始まった“次の時代のセンチュリー”の可能性を示す。センチュリーのブランドとしての位置づけが定まった効果は周辺にも及ぶ。ハンフリーズ氏は「センチュリーが“トップ・オブ・トップ”に立つことで、レクサスの動きはより自由になる」と明言した。


レクサス「DISCOVER」:新しいLSコンセプトが「誰の真似もしない」姿勢を象徴
そのレクサスはこの変化を契機に「トヨタの長男坊」という役割から解放され、より自由な“パイオニア”として再定義された。キーワードは「DISCOVER(発見)」と「誰の真似もしない」。象徴は6輪のLSコンセプトだ。豊田会長は「LSのSがセダンって、誰が決めたの?」と固定観念を外し、2024年5月のSNSでのやり取りを起点に、「セダンでもSUVでもミニバンでもない新しい形」として具体的に指示を出したことから開発がスタートした。
その結果、「S=Space(空間)」と再定義。後輪を小径化することでキャビンを拡大し、ショーファードリブンで重視される後席居住性や3列目アクセスを改善するのが狙いだ。加えて、乗降動作を“ステージに降り立つ”ように演出できる開口・動線設計も視野に入る。
豊田会長は月面探査車の経験を引き、「トヨタの6輪は月だけで走るのか。地球でも乗れるような6輪をつくろうじゃないか」と背中を押した。そんな経緯もあり、LSコンセプトのSには「宇宙」という意味も込められていて、野添剛士氏が制作するCMの第二弾では、「宇宙という世界を描きながら、LSコンセプトが登場する」そうだ。
また、レクサスと言えばスピンドルグリルが象徴的だが、それについても豊田会長は「作った人間が壊しなさい、と言わないと変らない。形ではなく思想として継承を」と述べ、デザインの昇華を促した。トヨタイムズ内では、「本気でやってます」(ハンフリーズ氏)、「実現したいんです」(会長)という両者のやり取りからは、「誰の真似もしない」レクサスを体現するLSをコンセプト止まりにしない決意が伺えた。

GR:新しいスポーツカー「GR GT」は年末にワールドプレミアされる!?
GRブランドはまだベールに包まれている。だが、数日前に富士スピードウェイに掲げられた看板には、2000GTとLFAに並んで未知のシルエット──“GR GT”の姿が描かれていた。豊田会長は試作車のサウンドを聞き、「LFAの上品さに、少し野性味が加わった」と笑みを見せる。正式な発表は2025年の東京オートサロンで行われる予定で、会長自身が「年末にワールドプレミアをやります」と語った。トヨタガズーレーシングの公式サイトではカウントダウンも始まっており、ゼロになる日付は12月5日のようだが、その日がワールドプレミアということなのだろうか!? いずれにせよ、新しいGRがグループ全体の“走り”の象徴として登場することは間違いない。

トヨタ「TO YOU」:新型カローラコンセプトを「あなためがけて」お披露目予定
トヨタブランド自体は「あなためがけて、トヨタはつくる」という意味を込めた「TO YOU」を新メッセージに採用する。これは「Mobility for all」や「誰も取り残さない」という理念を、よりパーソナルな次元へと深化させたもの。不特定多数の”みんな”ではなく、”ひとりひとり”のために。CM制作者の篠原誠氏は、マスに向けた「for all」ではなく、一人ひとりに向けた「for you」が今のトヨタには相応しいのではないかと提案。さらに「あなたのためにやってあげている」というニュアンスを避け、「あなためがけて」という言葉が採用され、「TO YOU」につながったという。

豊田会長もこの表現を気に入り、「1000万人というお客様はいない。1人ひとりの集合体で足したら1000万なんだ」と応じた。CMには世界中で愛される既存のトヨタ車と共に、ジャパンモビリティショーで発表予定の新型カローラのコンセプトカーを大胆に登場させた。「発表前なのに使いたいと言ったら、会長は『いいんじゃない』と屈託なく(笑)」(篠原氏)。これは、「商品で経営している会社」として、プロダクトを通じてブランドの未来を語るというトヨタの姿勢を象徴している。

ダイハツ「わたしにダイハツメイ」:
ダイハツは「わたしにダイハツメイ」で“らしさ”を再起動する。CMには、1959年のミゼットから始まる小さな工夫の積み重ねが描かれ、最後には未来の小型モビリティを象徴する新型ミゼットXが姿を見せる。CM制作者の小西利行氏は「『車が主役ではなく、くらしが主役』という原点に戻った。小さいからこそ詰め込める発明を積み重ねてきた歴史を、そのまま映像にした」と狙いを語る。

CMの末尾ではジャパンモビリティショー期間中限定でカラフルなダイハツのロゴを採用。「企業CIをそんな簡単に変えていいの?と躊躇したが、『おもろいからやりましょう』とダイハツ側から提案があったのです。豊田会長にも好意的に受け止められました」(小西氏)。豊田会長は「ダイハツの持つ遠心力を応援したい」と語り、このCMが社員への“応援歌”でもあることを強調した。
この新フォーメーションはイベントで体現される。ジャパンモビリティショーではトヨタ、ダイハツ、レクサス、センチュリーを“サイドバイサイド”で同一ホールに初集結、GRは東京オートサロンで本番を迎える。センチュリーの「One of One」、レクサスの「DISCOVER/誰の真似もしない」、トヨタの「TO YOU」、ダイハツの「私に大発明」、そしてGR。トヨタグループは一体の“チーム”として再整流された。広告の話に見えて、その実は事業と開発、デザイン、モータースポーツまで貫く運動だ。今年のジャパンモビリティショーが、ますます見逃せなくなってきた。
