レースで輝いた名機LZを徹底解析し、現代的にアップデート!
究極を目指す新造ツインカムヘッドの細部に迫る!
「Necessity is the mother of invention(必要は発明の母)」―かの大発明家トーマス・エジソンが好んで使った言葉だが、画期的な製品が生まれるきっかけは、意外にも日常の些細な疑問に潜んでいることがある。日産L型6気筒用DOHCヘッド「LZ6プロジェクト」もまさにその一例であり、発起人であるPAMSの吉岡さんの「日産のLZヘッドは、なぜL6用が存在しないのだろう?」という素朴な疑問から始まった。
その疑問が「ないなら自分たちで作れないか?」という具体的な構想に発展した背景には、カワサキ製バイクの空冷エンジン用ヘッドの開発経験や、LZ6に先行して世に送り出した日産L6オリジナルOHCヘッドの開発経験があった。


そもそも日産LZエンジンとは、1973年から1983年まで国内外のレースやラリーで活躍した、L型4気筒にDOHCヘッドを装着したレーシングエンジンである。
1972年の日本GPでは、それまで無敗を誇ったハコスカGT-RがサバンナRX3に破れ、サニーのクラスではトヨタのセリカやレビンに苦戦していた。これを打破すべく、図面完成から走行テストまでわずか6か月で開発された初代モデルが「LZ14(1598cc)」であり、1973年の日本GPでデビューウインを飾り、その性能の高さを証明した。
その後、排気量を拡大した「LZ18(1941cc)」や「LZ20B(1952/1975cc)」は、海外ラリー用のバイオレットに搭載され、LZエンジンの最強仕様であるターボ仕様のLZ20Bは、スーパーシルエットマシンでも活躍した。

LZ6開発の第一歩は、実物を用いた日産LZヘッドの徹底解析から始まった。当初は2気筒分の延長が可能かを探ることが目的だったが、解析の結果、L4用LZヘッドは現代の目で見ても非常に優れた設計であることが判明。この事実を踏まえ、最新の設計理論と加工技術を取り入れ、単なるリバース+αではなく完全なオリジナルとして製作することこそが、LZ6プロジェクトの目指す方向だと決定した。

そのLZ6設計を担当したのが、かつて国産F1エンジン開発に関わり、クルマやバイク、航空機まで多くのエンジン設計実績を持つ「イナガキデザイン」の稲垣一徳さん。PAMS吉岡さんのLZ6への情熱とコンセプトに共感し、プロジェクトに加わったのである。
稲垣さんはこう語る。「以前から、このような仕事をやりたいと望んでいました。近年の旧車オーナーの趣向の変化も大きな要因です。本物志向のパーツが受け入れられる今こそ、LZ6の理想を追求する絶好のタイミングだと思いました。一切の妥協をせず設計しました」。

基本コンセプトは「日産製オリジナルLZをリスペクトしつつ、究極のL6用ツインカムヘッドを目指す」。この考えは、様々な苦労を経て完成した試作機に具現化されている。ヘッドカバーやカムホールカバーのデザインはオリジナルへのオマージュであるが、中身はまったくの別物だ。

LZ6ヘッドはボア径89φ専用の設計。ストローク73.7mmのショートストローク型2.8L仕様では最大回転数1万1000rpmの高回転仕様、ストローク85mmの3.2Lでは最高回転数9000rpmの高トルク仕様となる。

4気筒LZのバルブ比率IN36φ(×2)/EX31φ(×2)に対し、LZ6は現代のトレンドに合わせて吸気バルブを拡大しIN37φ(×2)/EX30φ(×2)に設定。バルブ角度もIN14度→12度、EX16度→14度に変更し、コンパクトな燃焼室で効率アップを目指した。バルブリフター径は34φと同様だが、排気バルブ配置の見直しでリフター間の肉厚が増加し剛性と耐久性を向上させた。

燃焼室の形状はエンジン設計で最も重要なファクター。トップ部がフラット形状のピストンの装着で圧縮比の標準仕様を4気筒LZの12.0から12.5へアップ。最大で13.0まで可能としている。

ポート形状は4気筒LZの雰囲気は残しながら、排気側を上向きにするなど現代のパーツレイアウトに合わせたものへとブラッシュアップ。スタッドボルトはM8が標準だが、M10ボルトにも対応できる設計としている。

4気筒LZのカムキャリア構造を廃止し、カムとリフター支持部は一体構造へと変更。ヘッド外に設けた鋳物一体形状のウォーターアウトレットと含めて、ブロックの剛性不足を補うヘッドの高剛性を実現。

カムは作用角264度、272度、280度、288度、296度の5タイプを予定で、IN/EXカムは入れ替え可能として選択の自由度を広げる。バルブリフト量も最大12mmまでに対応可能で、吸入空気量増加による性能向上を目指した。カムは高回転での油滑のためにオイルギャラリーが設けられているのもポイント。

点火プラグは4気筒LZと同じM10サイズだが、ロングリーチタイプを採用することでプラグまわりの冷却性能を向上。合わせてプラグまわりのウォータージャケットも拡大されている。

試作機は現在数機完成。1機はヴェイルサイドがハリウッド俳優サン・カン氏と進める『VeilSide78Z』プロジェクトカーに搭載され、8月にアメリカへ輸送後、自走でラスベガスへ向かい、イベントやプロモーションを経て11月のSEMAショーでワールドプレミア予定。
もう1機は国内で性能・耐久性などの検証を行い、製品化を目指す。今後のLZ6のパフォーマンス発揮が期待される。
取材中、稲垣さんは「LZ6は市販化を前提としながら、オリジナルLZに対して現状で可能なブラッシュアップを盛り込んだものとなりました。それだけに今気になっているのが、それを受け止めるシリンダーブロック側なんです」と語り、PAMS吉岡さんとヴェイルサイド横幕さんは思わず笑みを浮かべたという。
●取材協力:LZ6 PROJECT
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