ワーゲンバスの現代版は、街ゆく人を笑顔にしてくれる貴重な存在

フォルクスワーゲン(VW)ID. Buzz(アイディー・バズ)は電気自動車(BEV)のミニバンだ。ノーマルホイールベース(NWB)とロングホイールベース(LWB)の2タイプがあり、いずれもスライドドアで、3列シートを備える。NWBは全長4715mm、LWBは全長4965mmだ。250mmのホイールベースの違い(NWB2990mm、LWB3240mm)により、2列目の足元空間に違いが生じている。NWBは2×3列の6人乗り、LWBは2+3+2の7人乗りだ。

ID. Buzz Pro ロングホイールベース

発売元のフォルクスワーゲンジャパンは、ホイールベースの違いではなく、ウォークスルーができる6人乗り(NWB)か、2列目が3名掛けになる7人乗り(LWB)かでユーザーの判断がわかれるかもしれないと、予測している。「LWBで6人乗りが欲しい」という声が出ることも予想しており、様子を見ていきたいとのこと。メーカー希望小売価格はNWBの「Pro」が888万9000円、LWBの「Pro Long Wheelbase」が997万9000円である。

ID. Buzzは、VWのアイコン的存在だったワーゲンバスのDNAを継承しながら、電動モビリティの時代にふさわしいBEVとして復活したモデルだ。VWの原点となるビートル(タイプ1)は1945年に量産を開始。その5年後の1950年に、タイプ1のシャシー(つまり、リヤエンジン・リヤ駆動)を強化して開発したタイプ2が登場。ワーゲンバスの愛称で親しまれた。

そのタイプ2=ワーゲンバスの現代的解釈がID. Buzzである。エンジンならぬモーターをリヤに搭載するのは、コンパクトSUVのID.4と同じMEBプラットフォームを使っているから。モーターはID.4よりも強力で、最高出力210kW、最大トルク560Nmを発生する。床下に搭載するバッテリーの総電力量はNWBが84kWh、LWBが91kWhだ。WLTCモードによる一充電走行距離はNWBが524km、LWBは554kmである。

6月の発表会では、ステージに懐かしのタイプ2も展示された。

試乗したのはLWB仕様のPro ロングホイールベースだった。全長は4965mmでほぼ5m、全幅は1985mmでほぼ2m。全高は1925mmもあって圧巻のボリュームである。ちなみにアルファード エグゼクティブラウンジ(PHEV、1065万円)の全長×全幅×全高は4995×1850×1945mmで、全幅以外はほぼオーバーラップする。正直、自走式立体駐車場や、パーキングエリアでの駐車では気を使った。駐車枠からはみ出してしまうので、隣のクルマが出るときにフロントバンパーをこすられやしないかと心配になり、わざわざ移動したことも。両サイドに車両があるときはドアを開けるのにも苦労する(リヤはスライドドアなので、乗り降りに関してはフロント席ほど気を使わずに済む)。

ID. Buzz Pro ロングホイールベース

取り回しには覚悟が求められるが、ID. Buzzの魅力はなんといっても、そのルックスだろう。往年のタイプ2を意識したのは間違いなく(というか、VWは堂々と認めている)、フロントマスクでV字を描くツートンカラーはその代表例(モノトーンのボディカラーも選べる)。大きなVWバッジもタイプ2からの引用。リヤピラーに施された装飾は、空冷エンジンを冷却するために設けられたサイドベントを模しているそう。レトロ感あるディッシュ風ホイールもタイプ2を意識したものだ。

ID. Buzz Pro ロングホイールベース
ID. Buzz Pro ロングホイールベース
Pro ロングホイールベースは20インチ・アルミホイールが標準装備。

室内はカチッとした典型的なドイツ車の雰囲気だ。色気を出す前のゴルフの内装を想起させる。運転席&助手席のパワーシートは標準装備。リヤ左右のパワースライドドアも、パワーテールゲートも付いている。パノラマガラスルーフとハーマンカードンのプレミアムサウンドシステムは、ラグジュアリーパッケージのオプション設定(24万2000円)だ。

ID. Buzz Pro ロングホイールベース
パノラマガラスルーフは、Pro ロングホイールベースのラグジュアリーパッケージに含まれる。タッチ操作で透明/半透明を切り替えられる。

メーターおよびシフトセレクターはID.4に準じている。P、D/B、N、Rの切り替えはステアリング右側のレバー操作によって行なう。メーターは小ぶりで、必要な情報をビジネスライクに表示する。遊び心あふれるエクステリアとは対照的で、インテリアはやや素っ気ない印象。ブレーキペダルにオーディオプレーヤーの一時停止のアイコン、アクセルペダルに再生を示すアイコンが施されているのが、数少ない遊び心の例だろうか(ID.4と共通だが)。

ドライバーインフォメーションディスプレイ
遊び心が感じられるペダル。

2列目は文句なしの広さだ。フロアがフラットなのもいい。エアコンは3ゾーンで、運転席、助手席、後席を独立して調整することができる。サイドウインドウは一見固定式のように見えてパワースライドが可能。上下でなく左右にスライドするところがユニークだ。3列目は大人でもなんとか過ごせるかな、といった印象である。

高めの着座位置からの見晴らしはいいのだが、運転していると、フロントウインドウ下端の出っ張りが気になる。なぜ?と思って外に出た際に確認してみたら、前方監視用のカメラだった。そのカメラを確認した際に気づいたが、ワイパーは左右がクロスするように動くタイプである。

1列目シート。Pro ロングホイールベースではシートカラーが3色あり、ボディカラーに応じて組み合わされる。
3列目シートは全車3人掛け。
2列目シート。Pro ロングホイールベースはベンチタイプで3人掛けが可能。

高出力/高トルクを発生するモーターのおかげで、ID. Buzzは2730kgの車重をものともせず、ストレスなく走る。発進時もゆうゆう、高速道路の本線への流入もゆうゆうだ。狭い道や公共駐車場での扱いや取り回しには気を使うが、片側1車線以上の道路を走る限り、ストレスフリーである。BEVならではの、静粛性の高さが印象に残った。

減速時はさすがに重量を意識するシーンがあった。市街地では回生ブレーキが強くなるBモードを選択すると、コントロールしやすくなる。デフォルトのDモードとBモードを使い分けてみるといいだろう。

ID. Buzzは現在国内で入手できる唯一の、ミニバンタイプのBEVだ。それゆえに貴重な存在でもあるのだが、オーナーやそのパートナー、あるいは家族、友人はもちろん、街ゆく人を笑顔にするという意味でも貴重なクルマだ。

3列目シートは写真のように前倒しするだけでなく、取り外すこともできる。荷室の床を上げるボードとその下に設けられたボックスは、Pro ロングホイールベースに標準装備。

フォルクスワーゲン ID. Buzz Pro ロングホイールベース
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4965mm×1985mm×1925mm
ホイールベース:3240mm
サスペンション形式:前マクファーソン式ストラット 後4リンク
車両重量:2720kg(パノラマガラスルーフ装着車は2730kg)
モーター最高出力:210kW(286PS)/3581-6500rpm
モーター最大トルク:560Nm(57.1kgm)/2100-5500rpm
駆動方式:RWD
バッテリー容量:91kWh
WLTC航続距離:554km
交流電力量消費率:173Wh/km
タイヤサイズ:前235/50R20・後265/45R20
車両本体価格:997万9000円