スズキ・アドレス125……280,500円

先代との価格差は、わずか6600円
半年ほど前にインターネットでインド向けのアクセス125、日本やヨーロッパでは次期アドレス125となる新型車の写真を見たとき、僕はいわゆるマイナーチェンジだろうと思った。
ところが、少し前に当サイトにアップされた国内発表会の記事を見てビックリ。9月から日本市場への導入が始まった新型アドレス125の変更内容は、ほとんどフルモデルチェンジなのである。

外観から判別できる先代との相違点は、横長のヘッドライト、左に加えて右にも追加されたフロントインナーラック、日本仕様で標準装備となるリアキャリア兼グラブバー、一体型→別体型に変更されたテールランプ/リアウインカー、リッド式でキーの抜き差しが不要になったガソリン給油口など。
ただしそれ以外にも、新型アドレス125は数多くのパーツを新規開発してるのだ。

中でも僕が驚きを感じたのは、吸排気系や駆動系を含めたパワーユニットの大半に改良の手が加わり、アンダーボーンフレームの構造が先代とは別物になっていること。
また、ガソリンタンク容量を5→5.3ℓ、トランクスペース容量を21.8→24.4ℓに拡大したことも、新型アドレス125を語るうえでは欠かせない要素だろう。


とはいえ、このモデルで最も驚くべきは28万500円という価格かもしれない。近年の2輪の世界では、モデルチェンジの際に10~15%前後の価格アップを行うのが通例なのに、新型アドレス125と先代の価格差は、わずか6600円なのだから(比率では2.4%アップ)。

その背景には、販売の主要国であるインドで年間80万台前後が売れている……という事情があるらしい。まあでも、あらゆるモノの価格が上昇している昨今、新型アドレス125の価格には誰もが好感を抱くに違いない。
第一印象は高級で上品

今回の試乗で新型アドレス125と初めて対面して、僕が最初に抱いた印象は“高級で上品”だった。
と言っても、どことなくレトロなスタイルは、先代の路線を継承しているのだけれど、灯火類の変更によって前後から見た際の雰囲気がキュッと引き締まり、シートカウルやマフラーカバーがシャープなデザインになったからだろうか、僕の脳内には先代とは異なるイメージが浮かんだ。

しかもセルボタンを押してみると、何だか始動も高級で上品なのである。その主な原因は、セルモーターのピニオンギアを飛び込み式→常時噛み合い式に変更したことのようだが、先代から継承したワンプッシュでエンジンが始動するイージースタートシステムも、高級感と上品さに貢献している気がしないでもない。

さらに言うなら、センタースタンドのかけ心地の良さにも、僕は同様の印象を抱いた。ある程度の腕力を必要とした先代とは異なり、取り付け位置の最適化やグラブバーの刷新を行った新型は、右足と右手にちょっと力を込めるだけで、スッと軽やかに後輪が持ち上がる。
というわけで走行前の時点で、僕は先代とは異なる意外な資質を認識。そし乗り味に関しても、やっぱり新型は先代とは異なる意外な資質を備えていたのだ。
元気でキビキビした走り

インプレの前に大前提の話をしておくと、僕は先代のアドレス125に対して、特にいい印象は抱いていなかった。
と言っても、べつに悪いイメージを持っていたわけではなく、性能的には必要にして十分と感じていたのだけれど、かつてのアドレスシリーズのように、コレじゃなきゃ‼という気持ちにはなれなかったのである。

ところが新型は、先代ともライバル勢とも一線を画する、操る楽しさを備えていたのだ。
まずパワーユニットに関しては、端的に言うと元気がいい。
最高出力は先代よりわずかに下がっているものの(8.7ps/6750rpm→8.4ps/6500rpm)、低中回転域のトルクが充実していて(1kgf・mという最大トルクに変更はないが、発生回転数が5500→5000rpmに下がっている)、その特性と駆動系の設定が見事にハマっているから、混雑した市街地やイマチマした住宅街をスイスイ走れる。

もっとも低中回転域が元気になった結果として、高回転域の伸びは先代には及ばないだろう(ただしクローズドコースで試してみたところ、80km/hはあっという間だった)。
とはいえ、スロットル操作に対する反応の良さや常用域の快活さを求めるライダーにとって、新型アドレス125のパワーユニットは理想的な資質を備えていると思う。

続いては車体の話で、先代と比較するなら、新型は操縦性と安定性の両方にきっちり磨きをかけていた。
ホイールベースの5mm短縮によって(1265→1260mm)、キビキビした動きを実現しつつも、フレーム剛性の向上や足まわりを刷新した効果で、路面の凹凸を通過した際の衝撃の収束は明らかに早くなっているし、乗り手がアクションを起こした際の挙動は落ち着いている。
逆に言うなら新型を走らせていると、先代は状況に応じて待ちや手加減といった意識が必要だったのかも……という気がしてくるのだ。

さて、褒めてばかりでは何なので、最後にちょっと気になった要素を記すと、コンビブレーキの作動感や(左レバーを握った際のフロントブレーキの利きが意外に強い)、停止時に使用するブレーキロックレバーの使い勝手、リアキャリアに備わるバックレスト的なラバーの形状には、改善の余地があると思う。
でもその3点はあえて言えばの話で、今回の試乗で僕は、スズキの良心とこだわりに大いに感心することになったのである。

ライディングポジション(身長182cm・体重74kg)


ディティール解説










主要諸元
型式:8BJ-EN11J
全長×全幅×全高:1880mm×690mm×1155mm
軸間距離:1260mm
最低地上高:160mm
シート高:770mm
キャスター/トレール:26°30′/88mm
装備重量:108kg
エンジン形式:強制空冷4ストローク単気筒
ボア×ストローク:52.5×57.4mm
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:124cc
最高出力:6.2kW〈8.4PS〉/6500rpm
最大トルク 10N・m〈1.0 kgf・m〉/5000rpm
燃料供給装置 フューエルインジェクション
始動方式 キック・セルフ併用式
クラッチ形式:乾式自動遠心シュータイプ
変速機形式:Vベルト無段変速
フレーム形式:アンダーボーン
懸架方式前:テレスコピック正立式φ31mm
懸架方式後:ユニットスイング式
ブレーキ形式前:油圧式ディスク
ブレーキ形式後:機械式ドラム
タイヤサイズ前:90/90-12
タイヤサイズ後:90/100-10
燃料タンク容量:5.3ℓ
乗車定員 2名
燃料消費率国土交通省届出値:53.4km/L(60km/h・2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値:53.4km/L(クラス1・1名乗車時)


