
登壇したのは、同社代表取締役社長の小木曽聡氏。
小木曽氏は、
「いま、われわれはモビリティの大きな変革期の中におり、カーボンニュートラル、デジタル化、人とモノの移動の形そのものがかつてないスピードで変化しており、顧客や社会のニーズは多様化し、複雑化を増している。
同時に、日野自動車はエンジン認証不正問題の信頼回復に向けて歩みを重ねており、事業再建と新たな進化に向けて動き始めている。
いい商品で社会に、顧客の声に応えていく。どんなに社会が移り変わっても、顧客にとっての頼れる存在であり続けていたい。」
と述べた。

同社がもうひとつ取り組んでいるのは、物流の2024年問題だ。
自動車工業会が策定した、自主行動計画の中で重要な厳守項目になっている、荷待ち、荷役作業にかかわる時間の把握について、自社工場での対応が進行中だという。
地方のひとの生活を支えるコンセプトカー「poncho dot(ポンチョドット)」
このスピーチの中で、小木曽社長は今回のモビリティショー2025のコンセプトカーとして紹介したのが「poncho dot(ポンチョドット)」だ。

公共交通の減少、宅配ニーズの増加、ドライバーをはじめとする人手不足・・・これも2024年問題のうちに掲げていいだろう。
その解決に向けたコンセプトモデルがこのポンチョドットで、これは地域の人同士で助け合って移動することを支えるためのマルチパーパスモビリティだ。
これまで、路上に於いてのひとの移動・・・たとえばクルマを持たない地方生活者なら、通勤・通学、ちょっとした買い物や病院との行き来などはバス、タクシーが受け持ち、物の移動はトラックやライトバンが受け持っていた。
ポンチョドットは、これらの用途を1台にまとめてしまったらどうかという提案なのだ。
地方ではバスの本数が減っているし、都市と違い、そもそもタクシーは空車を流していない。
そんなエリアのひとびとの、いろいろな生活習慣に1台で寄り添おうというわけだ。
日野ではポンチョドットの使い方として、朝夜は通勤・通学の送迎、その間は農作物の移動や通院、買い物代行に充て、夜間は充電に充てることを想定している。
ポンチョドットの中と外、詳細
ポンチョドットの内外を見ていく。
ベースは同社の電気トラック「デュトロ Z EV」だが、外観スタイルは同社バスの「poncho(ポンチョ)」をモチーフにしたようで、 トラック特有の武骨さは微塵もない。



地域のひとに寄り添うなんていっているポンチョドットだが、フロントフェイスは逆に子どものほうから寄り添ってきそうな愛らしさがある。
デザインしたひとはよくぞここまでトラック顔から引き離したものだ。

ひとに寄り添う思想は外観全体にも表れていて、後ろにまわると、どこもかしこも角を丸めたフレンドリーなスタイリング。
ここいらが冷凍車やパネルバンと異にするところだ。
後面から左サイドはガラスがまわり込むデザインになっていて、ちょうど以前の日産キューブの非対称デザインを連想させる。
右サイドは独立した面だが、こちらもガラス張り。
乗り降りは2か所からで、左サイドにスライドドア、後面に右ヒンジ左開き式のスイングドアがある。


トラックの荷台に箱を載せただけのクルマではないことがわかるのは、中に入り込んだときだ。
運転席と客&荷室が貫通している。つまり運転席後ろに隔壁がなく、クルマの前から後ろまでがまるまるキャビン。以前のフルキャブオーバーに近い。

ただし、運転席と客&荷室は視覚的には区分けされており、運転席背後にはAEDとファーストエイドキットの置き場になっていたのはクルマの思想を反映している。


床は低いから、極端にいえば床に敷かれた絨毯の上に足を載せるのと変わらない。乗り込んでからもフラットだから車内移動も部屋の中を歩くのと同じ感覚でできる。
これだけ低く、フラットな床ができたのも電気自動車ゆえだろう。
床下に配管を通さなければならないエンジン車だったらこうはいかない。
客&荷室は、左サイドに4名分、右サイドに6名分の座席が長手方向に沿って設置されている。
山手線電車のように内向きに座る格好だ。
ただし、数本のオレンジ色のバーはあっても天井からのつり革はなく、立ち乗りは想定していないようだ。
ここはバスとの相違を暗に示しているかのようだ。


座席は、乗員不在時は映画館の椅子のように座面がばね仕掛けで跳ね上がり、ほぼ幅いっぱい荷物置き場に使える。
たぶんそのときの乗客数次第では、自転車で出かけた人が雨に見舞われたなどで自転車を担ぎこんで帰りはポンチョドットでなんていう使い方もできるかもしれない。
サイド、後面はガラス張りと書いたが、上を見上げたら細長のガラスがはめ込まれているのもいい。
ガラスのサンルーフが大好物は筆者はこれだけでうれしくなった。
この細長ガラスは開閉しないだろうが、雨の日だって室内が明るくなるのはガラスルーフだけの特権だ。

「大事なひとを大事にはこぶ」は昔のクラウンのコマーシャルフレーズだが、運ぶものの中には「大事な」ものもあるだろうし、食品や壊れやすいものなど、特に大事じゃなくても(?)床に置きたくないものもある。
運転席横に助手席シートはなく、代わりにこれら大事なものや床に置きたくないものを置くためのスペースになっている。
展示車では卵などを入れた買い物かご、花束が置かれていた。



子どもが寄ってきそうな外観とは裏腹に、運転席はデュトロのままだが、まあ、子どもが運転するわけじゃないからこのままでもかまわないだろう。

ショーに展示されるコンセプトモデルは夢あるスタイリングであることが多いが、いざ市販化の段になるとまさに夢から覚めたように、いかにも現実的でつまらないデザインになってしまうことが多い。
ポンチョドットはあくまでもコンセプトモデルだが、もし実車化決定したら、何としてでもこのスタイリングを死守してもらいたいものだ。
いくら「人に寄り添う」といってやさしい使い道を持っていても、武骨なデザインになってしまったら、このポンチョドットの思想も魅力も半減する。
ぜひこのままで!

