開発の背景
近年、ヒューマノイドロボットは、労働力不足や高齢化などの社会課題解決に向けて、製造・物流・介護・サービスなど多様な分野での活用が期待されており、世界的に市場の拡大が見込まれている。NSKはこれまでも、産業用ロボット分野において軸受や直動製品を中心に多くの実績を積み重ねている。これらの技術をベースに、今後の成長が期待されるヒューマノイドロボット領域においても、さらなる技術開発に取り組んでいる。
ヒューマノイドロボットには、人間と同様の体格・動作が求められており、産業用ロボットに要求される高精度、高信頼性といった性能要件に加えて「小型・軽量・高バックドライバビリティ」なアクチュエータが必要とされている。
開発品の特長
ヒューマノイドロボットの関節部に向けたロータリーアクチュエータ、腕部・脚部に向けてはリニアアクチュエータが今後ラインアップ化されていく。いずれのアクチュエータもデルタ電子との協業により、ドライバを内蔵した機電一体構造による小型化が実現されている。
ロータリーアクチュエータ
- 小型軽量タイプのアクチュエータ(トルク重量比約110N・m/kg※2)
- 配線や配管の自由度を高める中空穴を確保
- 負荷トルクを推定することでバックドライバビリティを改善
リニアアクチュエータ
- 高バックドライバビリティを実現するボールねじの採用
- 高密度高放熱レイアウトによる小型軽量化の実現(最大推力重量比 約4300N/kg)

開発品の効果
- 設計自由度の向上:小型・軽量化により、ロボットの関節や構造設計の柔軟性が向上。より人間に近い形状・動作の再現に貢献する。
- 省電力・長時間稼働:NSKの軸受・ボールねじの適用により高効率を実現。また、軽量化によりロボット全体の重量を抑制することでバッテリー駆動時間の延長にも貢献。製造時の材料使用量の削減に加えて、ロボット全体の消費電力を低減することで、ライフサイクル全体でのCO₂排出量削減に貢献する。
- 高い安全性と柔軟性:高バックドライバビリティを実現したことにより、外力に対するしなやかな応答に貢献。人との協働や接触を伴う動作における安全性向上に貢献する。
- スマート化への対応:デルタ電子との協業により、高速通信(EtherCAT※3)やソフトウェア制御に対応。ロボット全体のスマート化・遠隔制御など、次世代ロボティクスにも対応する。
今後の予定
本開発品は、2025年12月に開催される「2025国際ロボット展」への出展が予定されており、実機展示を通じて顧客ニーズとのマッチングを図って 2028年の市場投入が計画されている。市場投入に先立って、顧客との共同検証や試作評価を目的としたサンプル提供も順次進めていく予定とされている。また、アクチュエータに使われる軸受・ボールねじについてのラインアップ拡充が進められる。NSKは、ロボティクス領域においてグローバルに事業を展開し、2036年には主要事業としての柱に成長するよう事業拡大を図っていく。
【注釈】
- ロボットの関節やアクチュエータの出力軸に外力を加えた際の駆動系の動作性の高さ
- 繰り返しピークトルクでの値。なお、繰り返しピークトルクとはアクチュエータが一定の条件下で繰り返し発揮可能な最大トルクを指す。
- EtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology):ドイツBeckhoff Automation GmbHの登録商標・特許技術
