OTAによるアップデートがEVの機能を進化させる

VOLVO EX30 Cross Country Ultra Twin Motot Performance

ボルボの電気自動車「EX30」といえば、輸入EVにおいてテスラに次ぐ人気を誇るモデル。Bセグメントのコンパクトなボディながら上級グレードでは428馬力というシステム最高出力を実現している。ボルボらしいクリーンなスタイリングと圧倒的なパフォーマンスが生み出す、いい意味でのギャップもEX30の魅力といえる。

以前、ワインディングにおいてEX30の最速グレード「EX30 Ultra Twin Motor Performance」の試乗レポートもお伝えしているが、今回は649万円というもっとも高価なメーカー希望小売価格となるEX30 Cross Country Ultra Twin Motor Performanceを使って、EX30が新たに手に入れたという”速さ”を確認することにした。

ボルボ「EX30」がラインナップ拡充。最大428馬力の高性能グレードはボルボ史上最速の電気自動車だ! | Motor-Fan[モーターファン] 自動車関連記事を中心に配信するメディアプラットフォーム

リヤ駆動を基本とするBセグメントEVが全5グレードになった BセグメントSUV唯一の後輪駆動というチャームポイントを持つボルボEX30のモデルレンジが大幅に拡大された。 従来から設定される「EX30 Ultra Sing […]

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といっても、最高速や0-100km/h加速ではない。今回のテーマは急速充電器につないだときの充電スピードだ。

じつは試乗レポートを書いた段階では、EX30の急速充電性能は最大90kWであり、最近増えている150kWの急速充電器につないでも、充電器の性能をフルに引き出すことはできなかった。

それが、2025年11月に実施されたアップデートにより150kWの急速充電器に対応したという。そこで150kWの急速充電器と最新プログラムにアップデートされたEX30をつなぎ、充電スピードを確認してみようというわけだ。

EVに詳しい方にはいうまでもないだろうが、EX30の充電に関するアップデートはOTA(Over The Air)と呼ばれる無線通信によって行われてる。わざわざディーラーなどに持ち込んで作業する必要はない。すでに国内ではこのアップデートがOTAによって配信済みということなので、既存のEX30オーナーであればここから記す充電性能アップを体感していることだろう。

充電開始20分で45%もバッテリーは回復した

150kW急速充電器とEX30をつないでいる様子

あらためて整理すると、EX30には69kWhの三元系リチウムイオンバッテリーと51kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーと2タイプのバッテリーがラインナップされている。今回、充電したEX30 Cross Country Ultra Twin Motot Performanceは、前者の69kWhバッテリーを積んでいる 。

充電開始直前のバッテリー残量は4%で、航続距離は17kmというギリギリの状態。はたして、150kWの出力を持つ急速充電器につなぐことで、どれほどの短時間で充電率を復活させることができるのだろうか。

結論からいえば、20分ほどつないでメーターに表示される数字は「充電率49%、航続可能距離185km」まで回復した。

航続距離については、直前までの電力消費から推定している部分もあるので、走らせ方によって変わるが、20分で45%も回復したというのは充電性能を示す数字として非常に参考になる。

EVの場合、搭載しているバッテリー総電力量のすべてを利用しているわけではないので、100%=69kWhとして計算することはできない。参考までに、バッテリー総電力量の9割を使っているという想定で計算してみよう。

69kWhの9割は約62kWhとなり、その45%は約28kWh。これだけの電力を20分で受け入れてしまう急速充電性能を、EX30はアップデートによって実現したといえる。

なお、三元系リチウムイオンバッテリーの特性から、劣化を抑えるには急速充電で入れるのは80%までにしておきたいし、EX30では急速充電時の上限を任意設定することもできる。単純計算すると、あと15分もつないでおけば80%前後までは回復するはずである。

かなり充電スピードが速いと感じるレベルだ。

150kW急速充電器だからといって常に速いわけじゃない

ただし、単純計算すると上記の充電速度は1時間で80kWhをちょっと超える程度の電力を入れているに過ぎない。

「150kWの急速充電器で30kWh弱を充電するのであれば、約12分で充電できるはず」と計算した読者諸兄もいるだろう。そうした疑問を感じることは自然なことだ。

なぜ急速充電につないでも単純計算通りの時間で充電できないのだろうか。それは最初から最後までフルスペックで充電することは難しいからだ。

せっかくの機会なのでEX30のメーターが表示している、リアルタイムに充電されている電力の値を充電開始から終了までチェックしてみることにした。

3分経過時 充電率9% 充電電力63kW
7分経過時 充電率16% 充電電力83kW
10分経過時 充電率22% 充電電力102kW
11分経過時 充電率27% 充電電力120kW
17分経過時 充電率41% 充電電力81kW
20分経過時 充電率49% 充電電力82kW

たしかに100kWを超えた時間帯もあり、アップデートによる充電性能の向上は確認できるが、常にフルスピードが出ているわけではないこともわかる。

ご存知のように充電性能はバッテリーのコンディション(主に温度)によって左右される。今回、充電開始前は駐車場に一晩おいていたためバッテリーがそれなりに冷えている状態からスタートした。おそらく、充電器につないだ直後は充電性能を引き出せるようバッテリーを暖めていたのだろう。そのため数分間は60kW台の数値が続いた。

充電開始から5分を過ぎると、充電される電力は80kWへと加速していった。OTAによってアップデートする以前の90kW急速充電対応だった頃の、ピークに近いスピードで充電されていることがわかる。

そして充電開始から10分ほど経って、バッテリーがいい感じに暖まってきたのだろう。メーターの充電値は100kWを超えた。そこから順調に充電スピードを上げ、1分後には120kWの数値に達した。

ここから1分あたり5%ほどの勢いでバッテリーが充電されていく様子は、150kW急速充電に対応した進化を実感できるものだった。なにしろ、アップデート以前に比べて1.5倍程度のスピードなのだ。

ただし、今回のピークはこのあたりだった。

ピークが続いたのは数分で、その後は110kWへと充電する電力が抑えられ、充電率が40%を超えたあたりから80kW前後となっていった。あくまで想像だが急速充電によってバッテリーの温度が上がったことで充電を絞りはじめたのだろう。

いずれにしてもバッテリーの温度や気温などによって充電スピードは変わるということは覚えておきたいし、常にピークの性能が出ているという前提で計算するのはミスリードにつながるといえる。

とはいえ、ボルボEX30がOTAによるアップデートで、150kW急速充電器に対応する性能を手に入れたのは間違いない。少なくとも、従来の90kW対応を超える3桁の充電性能を持っていることが確認できたのは、見ての通りだ。

それにしても、こうしてOTAという無線通信を使ったサービスで、EVに重要な充電性能が向上するというのは、まさしく未来が現実になっていると感じる。これが当たり前と実感できるボルボEX30のオーナーは羨ましいと、しみじみ思う。

VOLVO EX30 Cross Country Ultra Twin Motot Performance
VOLVO EX30 Cross Country Ultra Twin Motot Performance
全長×全幅×全高:4235mm×1850mm×1565mm
ホイールベース:2650mm
車重:1880kg
サスペンション:Fストラット式 R マルチリンク式
駆動方式:4WD
電動機
種類:交流同期電動機
フロント定格出力:41kW
フロント最高出力:156ps(115kW)/6000-6500rpm
フロント最大トルク:200Nm/5000rpm
リヤ定格出力:75kW
リヤ最高出力:272ps(200kW)/6500-8000rpm
リヤ最大トルク:343Nm/5345rpm
駆動用バッテリー
種類:三元系リチウムイオン電池
総電力量:69kWh
総電圧:392V
一充電走行距離(WLTCモード):500km
交流電力量消費率(WLTCモード):161Wh/km
タイヤサイズ:235/50R19
車両本体価格:649万円