スタッドレスタイヤ/オールシーズンタイヤに対するタイヤチェーンのメリットは?

→都市部のユーザーならタイヤチェーンの手軽さとコスパの良さが光る

突然の積雪に備えて、事前に準備することが肝心。くれぐれも、サマータイヤのままでは無理をしないようにしたい。

冬場のドライブの備えといえば、多くのユーザーはまずスタッドレスタイヤを思い浮かべるだろう。スタッドレスタイヤは低温でも硬くなりにくいゴムと、深い溝や細かいサイプを備えたトレッドパターンによって積雪路面や凍結路面でもグリップ力を発揮しやすい。

冬の走行時には強い味方となってくれるから、雪が多い北国に住む方や、ウインタースポーツを積極的に楽しむような方は、スタッドレスタイヤはベストなチョイスだ。…とはいえ、4本購入するコストは決してばかにならない。特に都市部のような「年に1〜2回しか雪が降らない」地域では、スタッドレスタイヤが活躍する回数を考えると、決してお手頃とは言いにくい。さらに、スタッドレスタイヤは季節ごとに履き替えるのにも手間がかかるし、外した際の保管場所も必要だ。

冬用タイヤの代名詞といえば、スタッドレスタイヤ。積雪路や凍結路で優れたグリップ力を発揮する。降雪地域にお住まいならこれ一択だが、年に数回しか雪が降らない都市部に住んでいると、わざわざ購入するのに躊躇するのも事実だ。

最近は、サマータイヤとスタッドレスタイヤの特徴を兼ね備えたオールシーズンタイヤも人気である。通年使用できるため、履き替えや保管場所の心配は不要だが、そのぶん価格帯は高めの傾向だ。また近年は進化が著しいとはいうものの、性能面では、舗装路やウェット路ではサマータイヤに、積雪路ではスタッドレスタイヤに分がある。オールシーズンタイヤは万能を謳いながらも、“帯に短し襷に長し”の傾向があることは否めない。

また、2018年の法改正以降、豪雪時には特定区間でのタイヤチェーン装着が義務化されるようになった(チェーン規制)。スタッドレスタイヤはもちろん、オールシーズンタイヤも「スノーフレークマーク」が付いているものならば高速道路の「冬用タイヤ規制」で走行が可能だ。しかし、「チェーン規制」が発令された場合は、たとえスタッドレスタイヤを履いていたとしても、タイヤチェーンを装着していなければ通行することは許されない。

というわけで、「冬はほとんど雪が降らないが、年に一度あるかないかの積雪が怖い」「あまりコストはかけたくないけれど、万が一の備えはしておきたい」「スタッドレスタイヤ(オールシーズンタイヤ)を履いているけど、チェーン規制にも備えたい」というユーザーにぴったりなのが「タイヤチェーン」なのである。

金属製タイヤチェーン/樹脂製タイヤチェーンに対する布製タイヤチェーンのメリットは?

→布製タイヤチェーンは軽量コンパクトで、圧倒的に装着しやすい

タイヤチェーンとひと口に言っても、金属製・樹脂製・布製では性格が大きく異なる。まずは、昭和の時代から存在する金属製タイヤチェーンの特徴を見ていこう。

金属製タイヤチェーンは、路面に直接“噛み込む”構造で、最も古典的ながら確実性が高い。しかしその反面、扱いにくさが際立つ。重量があり、収納にも場所をとり、装着には練習が必要だ。冬の路肩で手袋越しに金属を扱うのは作業負荷が大きく、車両のホイールを傷つけるリスクも避けられない。また、タイヤとフェンダーとの隙間が少ないクルマでは干渉の恐れもある。さらに走行時の騒音や振動も大きく、乗り心地の面でも課題は大きい。

こうした金属製タイヤチェーンの弱点を補う存在として登場したのが樹脂製タイヤチェーンだ。金属より軽いため扱いやすさは向上…したものの、基本的な構造自体は金属製タイヤチェーンと同じなので、デメリットの多くも踏襲する。クリアランスの確保も、装着時の慣れも必要だ。また、走行時の音や振動も完全には消せず、金属製ほどではないにせよ“タイヤチェーン特有の存在感”は避けられない。

こうした背景から、まったく異なる発想で生まれたのが布製タイヤチェーンである。なぜ布を巻くと雪道を走れるようになるのか。実は、摩擦力の生み出し方は金属製タイヤチェーンとは根本的に異なる。ナイロン布の表面にある微細な繊維の毛羽立ちが、雪の結晶に張り付く効果を利用してグリップ力を発揮。さらに氷上では、毛細管現象によって“滑りの元凶である水膜”を吸収する。氷を手で掴もうとすると滑りやすいものの、軍手をした手ならばしっかりと掴みやすい…そんな経験をしたことがある人もいるのではないだろうか。そんな仕組みにより、布は金属のように路面へ食い込む必要がなく、雪道と凍結路の両方で安定したグリップを得られるというわけだ。

布製タイヤチェーンは装着のしやすさと軽量コンパクトなのが大きなメリットだ。
タイヤが滑る原因は「水の幕」。布製タイヤチェーンは、表面の繊維が水を吸い込むことで水幕を除去する。また、繊維の毛羽立ちが雪に張り付いて、積雪路でのグリップを確保する。

また、布製チェーンは軽量で、重さは1kg前後。折り畳めば小さな袋に収まり、クルマのラゲッジスペースに常備していても場所をとらない。また、布ならではの“薄さ”もメリット。金属製タイヤチェーンではタイヤと車体との隙間が約3cm、樹脂製チェーンでも約2.5cm必要なところ、布製チェーンならば1cm程度あれば装着できるため、より多くの車種への適合が可能となっている。最近はホイールの大径化に伴い、ホイールの内側とサスペンションとの合間にあまり余裕がないクルマも増えているが、そうした車種にも布製チェーンは向いている。

コンパクトに収納できるため、トランクに積んでおいても邪魔になりにくい。緊急用に常備しておくといいだろう。
タイヤとフェンダーの隙間が狭い場合でも、布製タイヤチェーンならば装着しやすい。

走行中の快適性も布製ならではの特徴だ。金属の衝撃音や振動はなく、樹脂製よりも明確に静かで、タイヤチェーン装着時特有の“ガタガタ感”がほぼ消える。チェーンに慣れていないユーザーでも違和感なく運転しやすいだろう。

コストパフォーマンスの高さも見逃せない。布製タイヤチェーンの価格は1万円から2万円ほどが一般的だ。スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤを購入するよりも断然安上がりなだけでなく、金属製や樹脂製のタイヤチェーンと比較しても手頃な価格となっている。

そして、布製タイヤチェーンの最大のメリットが「装着のしやすさ」である。布製タイヤチェーンは軽く、柔らかく、扱いやすい。金属製や樹脂製のタイヤチェーンのように巻き付けた後に固定するのではなく、“かぶせる”方式のため、力を込めて引っ張ったり、複雑な締め付け機構をいじったりする必要がない。冷たい金属を触ることもなく、手先の細かな操作もほぼ不要だ。装着そのものが数分で終わるため、吹雪、深夜、路肩といった最悪の条件でもストレスを感じさせにくいのが何よりもうれしい。また、そうした装着方法の違いにより、布製タイヤチェーンはひとつのサイズでより多くのタイヤに適合できるのもメリットと言える。

タイヤチェーンを装着するのは、たいてい雪が降っていて寒さが厳しい状況。そんなとき、装着しやすい布製タイヤチェーンのありがたさが実感できる。

布製タイヤチェーンのなかでも「オートソック」が人気の理由は?

→独自のストラップ構造によってずれにくく、装着・脱着がしやすい

さまざまメリットがある布製タイヤチェーンだが、そのなかで代表的な存在が「オートソック」だ。オートソックは布製タイヤチェーンの元祖として1996年にノルウェーで開発された。現在は60カ国以上で販売され、日本でも長い販売実績を持つ。日産など自動車メーカーが純正アクセサリーとして採用しているほか、NEXCO東日本では立ち往生した車両を救援するためのパトロールカーにもオートソックを配備しているという話を聞けば、その品質に信頼がおけることがわかるだろう。

ノルウェー生まれの布製タイヤチェーン「オートソック」。サイズ展開も豊富で、一般的なタイヤのほとんどに適合する。
パッケージには説明書とビニール手袋が同梱される。パッケージはふたつ折になっているのだが、雪の上に広げて作業すれば、膝が直接地面に触れないという親切設計なのだ。

オートソックで注目したいのは、独自の構造だ。十字のストラップは軽い力で布をタイヤに引き下ろす手助けをしてくれるため、装着時の操作がさらに容易になる。さらに、ストラップを引くだけで布がタイヤから浮き上がり、踏んでいる部分を少し動かすだけで簡単に外すことも可能。金属チェーンでよくある“凍ったワイヤーが外れない”“手が汚れる”といった問題が起きにくいのもストラップのおかげだ。

前面も布で覆われていること、ストラップがあることがオートソックの特徴。ストラップは装着・取り外しを容易にするのに加えて、前面の生地とあわせて走行中の膨らみを防ぎ、タイヤへの密着性を向上する効果がある。
装着方法・その1:タイヤの上半分にオートソックを被せる。
装着方法・その2:タイヤ半回転ぶんだけ車両を動かす。
装着方法・その3:タイヤの残り半分にオートソックを被せれば装着完了。多少ずれていても、走り出せば自動的にセンタリングされる。

装着時に多少位置がずれていても、走行を始めると自然にセンタリングされる点もオートソックが支持を集める理由のひとつ。この安定性もストラップ構造が下支えしている。ストラップが均一なテンションで布全体を引き締めるため、走行中の遠心力が正しく働き、布がタイヤの回転中心へ寄っていくというわけだ。

またオートソックは一般的な布製タイヤチェーンとは異なり、前面も布で覆われているのもポイント。ストラップとの相乗効果によって内側への巻き込みを防ぎつつ密着性を高め、走行中に浮き上がる現象を大幅に抑えてくれるのだ。そのおかげでオートソックは他の多くの布製チェーンとは異なり、最高50km/hでの走行も可能となっている。

気になるのは雪道での効き目だが、それも心配はなさそうだ。サマータイヤにオートソックを履かせた車両を用いて圧雪路面でのブレーキテストを行ったところ、走行中(40km/h)から停止までの制動距離は、金属製タイヤチェーンやスタッドレスタイヤと同等だったというデータもある。

オートソックは他のタイヤチェーンと同様、基本的には駆動輪に装着して使用する。4WD車の場合は、前輪のみに装着することをおすすめしているそうだが、一部車両では後輪もしくは4輪すべてに装着することが推奨されている。詳細は車両のマニュアルを確認したい。

また、オートソックは前述した「チェーン規制」にももちろん対応する。したがって、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤのユーザーもオートソックを愛車のトランクに常備しておけば、「万が一」の備えはより万全になる、というわけだ。

さて、布製と聞くと心配になるのが耐久性だろう。ひょっとすると、布製チェーンは「使い捨て」というイメージを持たれているかもしれない。しかしオートソックは、そんな固定概念も覆す。積雪路ならば数百km走行しても大きな損耗が生じにくく、乾燥路での耐久テストでも120kmをクリア。ノルウェーで行われた実走試験では、テスラ・モデルYに装着して約500km走行した例まである。

雪上もしくは氷上の路面のみを走行した場合、オートソックは数百km以上の耐久性を確保している。

オートソックの使用後は、水洗いしてしっかりと乾かせば再利用が可能。穴が開かない限り繰り返し利用できるが、外側の白い布が摩耗し内側の黒い布が見えてきたら交換時期となる。この色の変化により、視覚的に交換タイミングを把握しやすい点もユーザーへの配慮といえる。

早めの冬支度で、安全・安心にウインタードライブを楽しもう!

そんな便利なオートソックだが、万能というわけではない。布という素材の性質上、いくつかの注意点を理解した上で使う必要がある。

布製タイヤチェーンは乾燥路での長距離走行に向いておらず、アスファルトが露出した路面を走り続けると摩耗が急激に進む。また、長時間の駐車時に装着したまま放置すると、吸った水分が凍結して破損の原因になることもある。これは欠点というより、正しい使い方を知っておくべき性質であり、雪道専用の滑り止めとして設計されている以上、避けられない部分でもある。逆にいえば、雪や氷の上で使用し、不要な場面では外すという基本を守れば、オートソックは本来の性能を十分に発揮する。

備えあれば憂いなし。オートソックはこの冬、突然の雪に対する備えをできるだけお手軽に、賢く済ませたい人に向けた格好の選択肢になることだろう。

オートソック

■オートソック公式ホームページ https://autosock.jp/