イタリア車とフランス車ファンの晩秋恒例イベント

関東近郊のイタリア車&フランス車のファンにとっては、すっかり晩秋の年中行事となった『さいたまイタフラミーティング』が、今年も埼玉県吉見町にある吉見総合運動公園にて、11月30日(日)に開催された。筆者がこのミーティングを訪ねるのは3年連続・3回目だ。今回も秋晴れの下、アルファロメオやフィアット、ランチア 、シトロエン、プジョー 、ルノーなどが、およそ600台集まった。

『さいたまイタフラミーティング2025』の会場となった吉見総合運動公園の全景。

筆者が『さいたまイタフラミーティング』に毎回訪れるのは、このイベントがとにかく楽しいからだ。その理由はエントリー車種のバリエーションの豊富さにある。その中心は2000年代以降の比較的新しいクルマとなるが、筆者が若い頃に親しんだ1990年代のクルマや、1950~1980年代の珍しい車両の参加も少なくはない。

今回で12回目を数える『さいたまイタフラミーティング2025』には関東を中心に約600台のエントリー車が集まった。

しかも、車種や年式、モデルを問わず、そのどれもが他国のクルマにはない独自の個性や美しいスタイリング、ユニークなメカニズムで彩られている。

2代目トゥインゴをベースにしたクーペカブリオレのルノー・ウインド。2004年にパリサロンで登場したウインドコンセプトがルーツで、2010年に市販車型が登場。2013年まで生産された。

筆者のように最新型の日本車やドイツ車を好まず、ちょっと古いアルファロメオやフィアット、シトロエンなどを何台も乗り継いできた人間にとっては、『さいたまイタフラミーティング』の会場は楽園以外の何ものでもないのだ。

大衆車を主軸としながらも異なるイタリア車とフランス車の個性と魅力

最近のニューモデルは、以前に比べれば個性が薄まったと言われることもあるが、それでもイタリア社とフランス車のスタイリングやメカニズムに他にはない個性と魅力があり、あいかわず多くのファンを魅了し続けている。

1995年のジュネーブショーで発表され、翌年から市販を開始したルノー・スポール・スピダー。トップを持たない硬派なミッドシップスポーツカーで、写真の車両はフロントスクリーンを持たない「カットバン」。

『さいたまイタフラミーティング』のイベント名にもある通り、我が国では雑誌『Tipo』(ネコ・パブリッシング刊)の影響もあって、イタリア車とフランス車はジャンル的にひと括りにされることが多く、実際にファン層も重なっているようである。

ルノー・スポール・スピダーのリヤビュー。サイドシルが高いためにシザーズドアを採用している。カットバンのほかにフロントスクリーンを備えた「パラブリーズ」の設定もあった。

イタリア車は、輸出市場を前提としたフェラーリやランボルギーニなどの超高級車が存在する一方、庶民のアシは小さなフィアットと相場が決まっており、加えて治安の問題から富裕層でも超高級車を乗り回すようなことはしない(ランチアのEセグメントセダンが多用される)。

1973年にデビューした2+2クーペのディーノ308GT4をベースにした2シーターのピッコロフェラーリ。心臓部には308GT4譲りの3.0L V型8気筒エンジンを搭載する。数は少ないながらも同車のようなスーパースポーツのエントリーもあった。

マセラティを唯一の例外としてラグジュアリーセダンというジャンルが存在せず、国家元首クラスが乗る公用車でもランチアのセダンのストレッチが採用されていたほどだ。

フェラーリ308GTSのリヤビュー。タルガトップのGTSのほかに、ベルリネッタのGTBの設定もあったが、デビュー時には前者のほうが人気があった。

フランス車は、戦前にはブガッティ、ドライエ、ドラージュなどの超高級車が存在したが、第二次世界大戦時に国土が戦場になったこともあり、復興期にはそのような贅沢品を生産する余裕はなく、政府が大型車に禁止税的な高額な自動車税をかけたことで衰退。戦後は中・小型の実用車の生産へと完全にシフトした。

小型大衆車のベストセラーだった初代5(通称:縦サンク)をベースに、FWDのパワートレインにターボを追加した上で、そっくりそのまま後部座席を取り去ってスペースに移植してミッドシップとしたルノー5ターボ2。

EU統合を経て21世紀に入ってからも伊仏の国内事情に大きな変化はないようで、ステランテスが高級車ブランドに育てようとしたアルファロメオやランチア、DSなどもはあまり成績は芳しくなく、彼らの作る自動車の本分は廉価な大衆車であることに変わりはないようだ。

大きく張り出したブリスターフェンダーがタダモノではない印象を与えるルノー5ターボ2のリヤビュー。コンパクトなボディにパワフルなターボエンジンを搭載したことで高い戦闘力を発揮。WRC(世界ラリー選手権)では1981年開幕戦のモンテカルロラリーでデビューウィンを飾るなど、1980年代前半のラリーシーンで活躍した。

“大衆車”というと、とかく実用性を重視し、廉価な販売価格を実現するために装備や装飾を削ぎ落とし、走行性能やスタイリング、快適性をないがしろにされた魅力の乏しいつまらないクルマを想像する人もいるかもしれない。

2CVとDSの間を埋める小型大衆車として1961年に誕生したシトロエン・アミ(写真のクルマはアミ6)。基本となるメカニズムは2CVのものを流用しつつ、より大型のボディを与えたことで居住性とラゲッジスペースを拡大した。

が、ことイタリア車とフランス車においてはそのようなことはない。日々の生活を楽しむことにかけてはイタリア人とフランス人は天才的で、そんな彼らが安価な大衆車とて退屈なクルマを作るはずがない。

シトロエン・アミ6のリヤビュー。アミシリーズには写真のセダンタイプの6と、5ドアワゴンの8が存在した。当時珍しかった矩形ヘッドランプを備えたフロントマスクを持ち、6はクリフカットを採用したキャビンが特徴。長年シトロエンのデザインを担当したフラミニオ・ベルトーニの遺作でもある。

だが、イタリアは山がちな半島国、フランスは国土の2割程度しか山地のない平野の多い国で、歴史や文化、言語、国民性などはまったく異なるし、国としてのバックボーンが変われば製造されるクルマも自ずと違ったものになる。

プジョー306マキシ。プジョー・スポールが1995年に306をベースにFIAのF2キットカー規定に沿って開発したラリーカーだ。アフターマーケットでボディキットが販売されており、写真の車両はそれを利用してカスタムしたものだろう。

ともに小排気量の小型車を得意としているものの、イタリア車は限られた排気量でキビキビした走りを実現するため、小気味よく回るパンチのあるエンジンでコンパクトな車体を引っ張り、引き締められた足廻りで路面を確実に捉えるスポーティな性格のクルマが多い。

1988年型パンダ1000CL。キャブレター仕様のパンダとしては最終モデルとなる。ローダウンした足廻りに、エアロバンパーとフード上のバルジで武装しており、スポーティなモディファイが施されている。

翻ってフランス車は排気量に対してワンクラス大柄なボディが与えられ、石畳の路面でも乗り心地を損なうことのないソフトだがよく粘る、俗に猫足と呼ばれるストローク量の大きなサスペンションが与えられ、高いギア比によってハイウェイを高速巡航させるのに適したクルマが多い。

年生産を終了した3代目ルノー・トゥインゴ。メルセデス・ベンツとの協業により、スマート・フォーフォーとは姉妹車となるRRレイアウトのAセグメントハッチバック。

例外はあるものの、これが両国が大衆車の基本的なキャラクターとなる。そして、それはグローバル化が進んだ現在でもほとんど変わってはいない。

高騰著しい新車の中でもイタリア車とフランス車は比較的リーズナブル

2020年に登場した国内47台限定のメガーヌ・ルノースポール・トロフィーR。量産FWD車最速タイムを記録したことを記念して、4CONTROLとリヤシートを排除し、EDCを6速MTに換装。アクラポビッチ製チタンマフラー、オーリンズ車高調、ブレンボレッドキャリパー、トルセンLSDを装備したモデル。

そのようなイタリア車やフランス車に魅力を感じる人は、ここ日本でも少なくない。それは両国のクルマづくりが「庶民のための移動手段」に徹しており、一定の実用性や経済性を確保した上で、走りの楽しさを追求しているからなのだろう。

世界的ベストセラーのCセグメント大衆車をベースに、ピニンファリーナがスタイリングと生産を担当したプジョー306カブリオレ。

そうしたクルマづくりの姿勢もあって、大衆車をラインナップの中心に置く両国のクルマは輸入車の中でも比較的身近な存在と言える。それは世界的な物価高により新車価格が高騰した現在でも変わりがなく、例えば、シトロエンC3は339万円から、フィアット600ハイブリッドは380万円から、新型ルーテシアは399万円からと高騰著しいドイツ車に比べると安価だ。軽自動車でも上級グレードを選ぶと300万円近くになんなんとする昨今、イタリア車とフランス車は輸入車の中では比較的リーズナブルな価格となる。

プジョー205をベースに、リヤに小さなノッチを追加した3ドアハッチバック車のプジョー309。独特なスタイリングはファミリアベースの3代目フォード・レーザーに影響を与えたようだ。

日本でも人気のルノー・カングーは、2022年に4代目モデルの販売開始とともに100万円以上も価格を引き上げたが、これは運転・駐車支援システムなどの装備の充実に加え、円安が影響した結果であって、ルノーに主な原因があるとは言えない。以前にルノー・ジャポンの名物広報・佐藤渉さんに話を聞いたところ、ルノーでは日本仕様車は本国仕様に比べて価格の引き上げは最低限に抑えており、同車種・同グレードでも装備を充実させているので、日本は世界一安くルノーが買える国となっているそうだ。

1965年に登場したルノー最後のRR車の10(ディス)。ベースとなったのは8で、ボディ前後のオーバーハングを拡大することで荷室容積を拡大している。写真の車両は1968年にマイナーチェンジした後期型だ。

もっとも、世界的な物価高と円安が暮らしを直撃したわが国では、次第に新車の敷居も高くなり、いくら比較的リーズナブルだといっても、輸入車の新車となると手を出しにくくなりつつある。しかし、中古車まで視野を広げれば、ちょっと古いイタリア車やフランス車は国産中古車と比べても買い得感が高く、販売台数もそれなりにあるのでまさに選びたい放題で、選択肢は無数にある。

近年、じわじわと人気が上昇しているルノー4(キャトル)。1961~1992年(スロベニアでは1994年)までに835万台が生産された世界的なベストセラーだ。向かって右側が1967年まで生産されていた前期型、左側が1978年以降の後期型となる。

じつは今年、筆者のパートナーは走行距離2万2000kmの2018年型アルファロメオ・ジュリアスーパーをコミコミ230万円ほどで購入したのだが、これが本当に良いクルマなのだ。

『さいたまイタフラミーティング2025』にはハンバーガーやラーメンなどのさまざまなケータリングサービスが展開されていたが、その中でもひと際目立つ存在だったのが、ルノー・エスタフェでチキン丼やカレー、ケーキなどを移動販売する『ぷくぷくの実』だ。埼玉県北部~中部で営業しているとのこと。

低走行車ということもあって8年という古さを感じさせず、走り、快適性、実用性のいずれも素晴らしく、同クラスのメルセデスやBMWを凌ぐほどだ。燃費だけは市街地8km/L前後、高速13~15km/Lといまひとつだが、それ以外はまったく不満がない。中古輸入車で心配されるトラブルもこれまでまったくなく、買って良かったと筆者もパートナーも大いに満足している。

ルノー・エスタフェの運転席まわり。『ぷくぷくの実』のスタッフによると、このクルマで営業するためにMT免許を取得したという。エアコンがないため夏の営業は暑いとのこと。

モノさえ選べばイタリア車とフランス車は激安中古車を選ぶのも楽しい

予算的な制約が厳しいというのなら、激安中古車を選ぶ方法もある。日本市場でのイタリア車やフランス車の中古車は一般ユーザーのウケがあまり良くないようで、よほどの人気モデルでなければ、少し古くなったり、走行距離が伸びたりするだけで、相場は総じて安くなるのだ。

ずらりと並んだフィアット500軍団。エントリー車両の中でもフィアット500&アバルト500は最大勢力を誇る。

筆者が2年半前に中古で購入した2010年登録のフィアット500は、日本50台限定のPINK!といういわゆる「役モノ」で、登場から15年以上が経過した現在でもコンディションの良い、距離のトンでいない車両は100万円オーバーの高値で取引されている。だが、筆者の購入した車両は、走行距離が10万8000km(現在は12万3000kmまで伸びた)と、過走行であったことから、総額45万円で購入することができた。

今回、筆者が会場までのアシに使用した2010年型フィアット500PINK!。世界限定600台、日本国内50台の限定車だ。購入から2年半が経ち、1万5000kmを走破してオドメーターは12万3000kmを超えたが、大きなトラブルもなく、仕事にプライベートに活躍してくれている。

巷間トラブルの巣窟のように言われているイタリア車やフランス車の中古車だが、経年劣化によるナンバー灯が点灯しなくなる不具合と、ブレーキパッドやタイヤなどの消耗品を交換しただけで目立つ故障は発生していない。もちろん、年式相応にヤレタレがあり、いずれはメンテナンスが必要となる箇所はいくつかあるが、今のところ走行不能になるような重大なトラブルは起こる気配はない。

2代目フィアット・パンダの限定車アレッシィ。イタリアのキッチン用品メーカーとのコラボで生まれたクルマで、写真のオレンジのほか、イエローグリーン、ブラックなどがあった。

日本市場にはそれなりの台数のイタリア車やフランス車が流通しているが、風評被害もあってどうにも一般ユーザーのウケがあまり良くなく、よほどの人気モデルでなければ総じて中古車相場は安い。だからコンディションの割に中古車価格が安く感じたとしても臆することなく買ってしまって問題はない。

仮に激安中古車を買って失敗したとしても、市場には程度の割に捨て値で売られている中古車がいくらでも流通しているので、再び買い直せば済むだけの話なのだ。

イタリア車とフランス車は輸入車入門に最適!

こうした新車や中古車の購入のしやすさが、入門のしやすさにも繋がっており、イタリア車とフランス車の人気は依然として衰えてはいない。そのことは毎回盛況の『さいたまイタフラミーティング』の会場を見れば明らかなことで、会場には老若男女問わず、多くの人が自慢の愛車で集まってくる。

フィアット127のパイロットモデルとして1969年に発表されたアウトビアンキA112。1970年代以降、アバルト仕様が人気を博したが、高温多湿の日本ではサビに蝕まれた個体が多く、現在では希少な存在となった。

最近では国産新車の価格が高騰著しく、庶民にとって新車は縁遠いものになりつつある。しかし、ちょっと視点を変えて、選択肢を中古のイタリア車やフランス車まで広げれば、最新の国産車を購入したときのように周りに見栄を張ることはできないが、その代わりに他車では味わえない個性的でユニークなクルマにリーズナブルな金額で楽しむことができるのだ。

1998年に登場し、日本でも一斉を風靡したアルファロメオ世界的ヒット作の156。ワルター・デ・シルヴァが手掛けた美しいスタイリングは、デビューから四半世紀が経た現在でも色褪せない。

もちろん、そうしたクルマは「ちょっと古い輸入車」ということで、多少のトラブルなどはあるかもしれない。しかし、ネットが発達した現在、修理方法や優良工場、パーツの入手などの情報は簡単に検索できるようになり、故障や不具合などの対応は昔に比べてずっとハードルは低くなっている。

ザガートが手掛けたアルファロメオ155TI-Z。大きく張り出したブリスターフェンダーとエアロパーツ、専用の大径ホイールが特徴のスペシャルマシンだ。

高額な国産車を残価設定ローンなどで購入するのもひとつの方法かもしれないが、走行距離などの制約があるので不自由を感じることもあるだろう。それだったら国産新車の数分の一の予算で、マイペースかつ豊かなカーライフを自由気ままに楽しむのも悪くない選択だと思うのだ。

1980年代後半~1990年代初頭のラリーシーンで鮮烈な印象を残したランチア・デルタシリーズ。写真はその中でもモデル後期に登場したHFインテグラーレ・エボルツィオーネだ。このクルマのファンは多く、特にラリーファンを熱狂させた。

イタリア車やフランス車を購入すれば『さいたまイタフラミーティング』のような各地で開催されるイベントにもエントリーできるし、イベント参加を繰り返しているうちに自然と同好の仲間ができることだろう。時代はモノよりコトを重視する世の中になりつつある。そうした愛車を通じて得られる体験はプライスレスだ。それは単に新車を買って消費することよりも得られるものが多いことだろう。

会場の片隅に駐車するフィアット500。

イタフラ車じゃなくても参加OK?

来るものは拒まず、去るものは追わずがモットーの『さいたまイタフラミーティング2025』の会場には、イタリア車やフランス車以外のエントリーもチラホラ見かけた。

B310型・日産サニーカリフォルニアの後期型。1980年代にサーファーから支持を集めたサニーベースのステーションワゴンだ。
B310型・日産サニーカリフォルニアの後期型のリヤビュー。実用車故にほとんど使い潰されてしまい、良好なコンディションで現存する車両は極めて珍しい。
ローダウンされたB310型・日産サニーカリフォルニアの足まわりには、14インチのCRAGAR S/S Super Sportsが組み合わされていた。このクルマが駐車している一区画だけまるで『Street Car Nationals』である。
丸目ヘッドランプにアルファロメオの縦型グリルとエンブレムを備えたこのクルマ。一見するとジュリアクーペ風だが……。
じつはスズキ・ラパンSSである。こうしたユニークなカスタムも毎回数台エントリーしている。

こうしたシャレの効いたクルマがエントリーできるのも『さいたまイタフラミーティング』が間口の広いミーティングであることの証明である。
また、イタリア車やフランス車以外にイギリス車も数台エントリーしていた。

「カニ目」あるいは「フロッグアイ」ことオースチン・ヒーレー・スプライトMK.1。
イギリスのライトウェイトスポーツカー・ジネッタG4。1961年に登場し、コークボトルラインを持つ曲線的なボディはFRP製となる。搭載するエンジンは最高出力40hpの1.0L直列4気筒OHVだが、500kg足らずの車重により優れたパフォーマンスを発揮する。
ロータス最後の内燃機関搭載のスポーツカーになると発表されているエミーラ。しかしながら、昨今の脱BEVの流れからロータスは翻意するかもしれない。いや、してほしい。