
「軽なのに背が高い」「なんだか箱みたいだ」
初代ワゴンRが街に現れ始めた頃、多くの大人は少し戸惑っていたように思う。
ワゴンRは、それまでの軽自動車が持っていた“かわいらしさ”とか“控えめさ”とは、明らかに違う雰囲気をまとっていた。しかし目の当たりにすると、その印象はすぐに変わった。

ドアを開けて乗り込むと、思った以上に視界が広い。天井が高く、閉塞感がない。後席に座っても膝まわりに余裕があり、「軽だから仕方ない」という今まで当たり前だった諦めの感情がほとんど湧かなかった。
ワゴンRは軽自動車の立ち位置そのものを変えたクルマだった。それまで軽は、セカンドカーやご近所専用車として扱われることが多かった。だがこのクルマは、買い物、通院、送り迎えと、堂々と家族の日常を支えられる存在だった。

派手さのない用事ほど、ワゴンRの出番は多かったように思える。エンジン音も走りも控えめだが、不満を覚えることは少なかった。必要な性能が、必要な分だけ用意されていたからだ。特に印象に残っているのは、病院の車寄せで見かけた高齢者の乗り降りだった。車高が高すぎず、低すぎない。ドアの開口も大きく、体をひねらずに乗れる。軽自動車が、ここまで“家族全員に優しい存在”になるとは思っていなかった。

高速道路ではさすがに非力さを感じる場面もあった。それでも、無理をさせなければ、きちんと応えてくれる。ワゴンRは、使う側に過剰な期待を抱かせない。その正直さが、信頼につながっていた。

今の軽自動車と比べれば、装備も安全性能も控えめだ。それでも、初代ワゴンRが日本の家庭に与えた影響は大きい。「軽でも、生活の中心になれる」。その価値観を、静かに、しかし確実に広めた存在だった。
ワゴンRは特別な思い出を作るクルマではなかったかもしれない。だが、何気ない日常を支え続けたことで、いつの間にか家族の一員になっている…。今振り返ると、そういうクルマこそが、本当に記憶に残るクルマなのだと思う。

